これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、ハイルーフ軽自動車の先駆、ミニカトッポを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/三菱

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■全高を1700mm超に設定した背の高い軽自動車の先駆け

 昨今の軽自動車クラスではスーパーハイトワゴンが好調に売れている。軽自動車は日本独自の車両規格に則って作られているためボディサイズに制限があり、普通車に比べて全長が短く車内が窮屈に感じてしまう。そのため頭上にゆとりがあって解放感を得やすい全高の高いスーパーハイトワゴンに人気が集中するわけだ。

 そんな背の高い軽自動車の先駆けとなったのが、今回クローズアップする三菱ミニカトッポと言われている。

ミニカをベースにハイルーフ仕様に仕立てたトールワゴン型軽。写真の初代モデルは1990~1993年、2代目モデルは1993~1998年まで販売された

 ミニカトッポは、1990年3月に新しいスタイルの軽自動車として発売された。1990年といえば軽自動車の規格が改正された年だが、ミニカトッポはそれに則って設計・開発されている。

 スタイリングはフロントまわりをベースとなったミニカのままとしているが、フロントガラスからその後部は軽自動車規格いっぱいの寸法を持つキャビンが組み合わされている。

 ボディサイズは全長が3255mmで全幅1395mm、ホイールベース2265mmという寸法で、当時の主流だったセダンタイプのモデルと大差はない。しかし全高はミニカより280mmも高い1745mmに設定され、まさに車名の由来でもある「背高のっぽ」を体現していた。

 一見するとアンバランスに感じるスタイルは、まだスーパーハイトワゴンが存在していなかった当時はじつにユニークなクルマに見えたはずだ。

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■「車内で小さな子どもが立てる」の元祖

 全高が1745mmもあれば室内には広大なスペースが確保される。軽自動車なので全長と全幅には制限が設けられているので横方向の広さには限りがあるものの、上下方向の余裕は普通車を遥かに凌ぎ、室内高の寸法は1460mmとなっていた。

 今どきのスーパーハイルーフタイプのなかには、広い室内空間のアピールポイントとして「車内で子どもが立って着替えられる」ことを挙げる車種は多いが、ミニカトッポは30年以上も前にそれを実現している。ゆえにスーパーハイトワゴンの元祖と言われるわけだ。

 背高のっぽなフォルムのため左右のドアは自ずと大きくなる。こうした作りが乗降性のよさをもたらしているが、2ドアボディのミニカトッポは助手席側のドアを運転席側よりも大きくすることで、よりスムーズに乗り降りできるよう配慮されていた。

ハイルーフタイプが主力になる以前の軽自動車クラスの主流はセダンタイプだっただけに、全高だけを極端に伸ばしたスタイルはかなりインパクトがあった

 当然ながら背の高いボディは、個性をアピールするものではない。全高がもたらした広大な室内スペースには、優れた実用性を実現するためのアイテムがふんだんに盛り込まれている。

 リアシートは左右分割可倒式でリクライニング機構が設けられ、用途に応じたアレンジに対応。天井部分には荷物を固定するフックなどが装着できるユーティリティレールや小物入れが備わり、後部荷室には12V電源のソケットまで用意されていた。

 オプションパーツに関しても実用性向上が狙えるものが揃っており、自身の用途に応じてどんな仕様にカスタムしようかと考える楽しさもあった。

 こうしたユーザーの趣向を考慮したことも売れた要因だが、小さいながらも実用性に長けたクルマとして好評を博しただけでなく、ユニークなスタイルにさらに個性をプラスした「Q坊」「カラボス」「ビッグトイ」「アミスタ」「グッピー」「ライラ」といった特別仕様車を発売したことも販売に拍車をかけた。

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■2代目はコンセプトを継承しながら機能性と走りをバージョンアップ

 ミニカトッポのように定番から外れた個性派モデルの場合、新車市場に話題を振りまくものの1世代で生涯を終えてしまうケースがほとんどだが、ミニカトッポはその例に当てはまらず、軽自動車クラスの人気モデルとなって1993年9月には第2世代へと進化していく。

 2世代目も車両コンセプトは初代と変わらず、デザインやメカニズムは初代同様に乗用車のミニカから流用されていた。ボディサイズはホイールベースが若干(20mm)延長された以外はほぼ同じで、モデルバリエーションについても5ナンバー登録となるセダンと、4ナンバー登録が可能なバンの2種類が用意された。

 2代目もユニークであることに変わりないが、特にボディ構造の仕様が多彩で、大きさの異なる左右非対称の1:1ドア仕様と、さらにドア枚数が右1枚、左2枚の1:2ドア仕様を用意していた。いずれも初代で好評だった実用性や乗降性を考慮しつつ進化を図ったもので、そのユニークさ以上に、利便性という点でユーザーから高い評価を獲得した。2代目ときには、ルーフの高さをさらに高めて1765mmに設定したスーパーハイルーフもラインアップしていた。

 2代目では搭載するパワーユニットもバージョンアップしている。初代は上位グレードに電制燃料噴射装置付きDOHCエンジンを搭載したほか、キャプレター仕様SOHCを2タイプ設定し、いずれも直列3気筒だった。

 1992年に実施したマイナーチェンジでDOHCエンジンを吸・排気効率の高い5バルブ仕様に変更し、さらにターボエンジンも追加されている。2代目になるとエンジンは全車4気筒仕様となり、排気量が657ccから659ccに変更された。

 64psを発生するターボエンジンを筆頭に、SOHC仕様にはインジェクション仕様とキャブ仕様が設定される。組み合わされるトランスミッションは、三菱独自の総合制御システムであるINVECSファジィシフトの4速ATのほか、3速AT、5速MT、4速MTの4タイプ。エンジン、トランスミッションともにバリエーションを豊富に揃えていたあたりはバブルの名残りと言えるかもしれない。

乗用タイプだけでなく商用バンもラインナップしていたこともあり、運転席まわりは過剰な加飾をせずシンプルなデザインとしていた。全高を高めたことにより前方、左右が開放的なうえに、良好な運転視界が確保されている

 初代、2代目と合わせて約8年間、ミニカトッポは軽自動車クラスで独自路線を築き、標準車をはじめ、「タウンビー」のようにカタロググレードへ昇格するほどの売れ行きだった特別仕様車も含め、ベース車のミニカとともに当時の三菱の屋台骨を支える存在となった。

 初代登場の時点でミニカトッポは販売的に成功していたわけだが、それに乗っかるカタチで、自動車を販売していた他メーカーはこぞってハイルーフタイプの軽自動車を次から次へと登場させる。スズキワゴンR、ダイハツムーヴの2強をはじめ、ホンダライフといった車種は、ミニカトッポを凌ぐ売れ行きで軽自動車クラスをリードしていくことになる。

 当初からハイルーフタイプの軽自動車になるべく設計、デザインされたライバルが登場し定番になると、ミニカトッポは登場時の斬新さが薄れ、軽自動車クラスのなかで旧態化するのは避けられなくなってしまう。

 こうしたなかでもファンは一定数存在したが、ワゴンRやムーヴの牙城を崩すまでには至らず、ミニカトッポは1998年10月に販売を終了。3代目の登場はなく、当時の軽自動車クラスで定番になりつつあったワゴンRやムーヴを追従するように登場した「トッポBJ」へバトンタッチする。

 ボディサイズに制約があり、小さくあることが強制されている軽自動車でありながら、全高を安全な走りに影響を及ぼさない範囲まで高めて広い室内空間を確保。

 その室内を快適かつ便利に使えるアイディアを豊富に盛り込むことで、ミニカトッポは「軽自動車なのに使える!」というイメージをユーザーに植え付け、現在の新車市場を席巻しているスーパーハイルーフの礎になった。紛うことなき平成の名車に数えられるだろう。

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