2024年11月30日に新宿でバス運転士のための就職フェアである「バスギアエキスポ2024東京」が開催された。その模様を取材したのでレポートする。バス運転士不足問題について主催者の話も聞いたので合わせて紹介する。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
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■広範囲な募集活動
地方で開催されるこのような就職イベントでは、その地方の事業者を中心にしたものが多いが、首都圏で開催される場合は参加した事業者を眺めてみると全国的な広がりを感じる。やはり東京の人口が多いというのは大きな要因であろう。
アイデムグループが主催し、日本バス協会が後援した本イベントは開場時刻前から多くの来場者が受付を済ませ並んでいた。関心の高さの証でもあるだろう。参加事業者リストを見ると35社が名を連ねていた。主催者発表によると、当日の来場者数は170名で主な年齢層は30代後半~50代、全体では10〜60代と幅広い世代が訪れたとのこと。
首都圏や関東近隣の事業者は言うに及ばず、名鉄バス、西日本鉄道、三重交通、神姫バス、ジェイアール東海バス、大阪シティバス、宮城交通、と東京からは遠方の大手事業者の参加も目立った。
■主催者の狙い
バス運転士不足は今や一般的にも知られる社会問題となっており、早急かつ抜本的な解決が望まれる。運転士が不足しているのは求職者と事業者とのミスマッチングが要因だ。その意味で、マッチング機会を提供する主催者としてはどのように考えているのかを聞いてみた。
ミスマッチはよく理解しているそうで、主催者としてのとらえ方は要旨次の通りだ。「全事業者が望むのは、足元の問題として、すぐに採用しなければならない運転士です。それについてはシニア層を含めて来場してほしいですので、なるべく前提条件を低くして興味を持ってもらうこと、事業者のブースで話を聞いてもらうことからスタートしてもいいのではないかと考えています」
「そして、もっと先を見据える先端的な事業者では、『今すぐ』はもちろんですが、少しでもバス運転士の魅力を伝えて『将来の運転士』、すなわち運転免許すら持っていない高校生でも気軽に来場していただきたいと考えています。こちらは学校に案内を送るほかにも、世代的に有効なSNSやホームページで主に情報を発信しています」
「もちろん、現在よく言われている『待遇』や『拘束時間』の問題は事業者も我々もよく知っています。しかしネット上で言われるようなことが全事業者に当てはまることではないのも事実です」
「採用の多少はありますが、実際に待遇を向上させて採用実績を伸ばしている事業者もあります。そのような事業者を『見つける』のもこうした就職イベントの活用法だと考えています」
「事業者はすぐに待遇を向上できる会社もあれば、できない会社もあるでしょう。しかし長く職業として定着するにはどのようにするべきかということについての提言や共有を事業者と行っているところですので、求職者一人ひとりのニーズや目的で就職イベントを使っていただければと考えています」とのことだった。
■話を聞いてみた【西日本鉄道】
すべてのブースを回るわけにはいかないので、いくつかのブースで担当者に話を聞いてみた。まずは福岡県の西日本鉄道だ。日本有数のバス事業者として有名だが、大手私鉄の中で鉄道会社がバス事業を直営で運営しているのは西鉄だけになってしまった。西鉄もバス会社の分社化はしているが、福岡市内と周辺については西鉄本体で運営を行っている。
西鉄の特徴は、定年延長が予定されており64歳まで入社可能になっている。他地域からの移住就職については寮や社宅の家賃が月額8000円からと低廉で利用できる。UターンやIターンにともなう転居費用は上限10万円まで補助される。
昨年度の賞与の支給実績は年間で6か月以上としている。バスの運転にかかわる事項としては通年で脱帽、運動靴での勤務が可能になっているようだ。福岡はバス王国なので、どこに行くのにも西鉄バスがないと始まらない。さらに鉄道とがっつり競合した路線も多く、近郊住宅地から中心部である天神まで1本の路線バスで直結輸送するいわば「総取り」のような路線網が多いのも特徴だ。
高速バスを希望する求職者も多いだろうが、路線バスで都市高速道路をバンバン走るのも西鉄の伝統芸だ。もちろん高速自動車国道は高速バスの分野だが、路線バス担当でも都市高速道路を走る機会はいくらでもあるのが西鉄なのだ。福岡や北九州に行く機会があれば24時間券で思いっきり「都市高速試乗」ができるので、どんな運転をしているのか見てみるのも一考だ。
■話を聞いてみた【三重交通】
お次は三重交通だ。なにやら運転士の制服を着用した女性がパンフレットを配布している。よく見るとパンフレットに掲載されている女性運転士本人だった。ということは、モデルさんや事務方の社員というわけではなく、本物の女性運転士を連れてきたという気合の入りようである。三重交通が誇るキャラクターである「神都あかり」と「鈴鹿翔琉」も所々に登場しており、ブースを盛り上げる。
三重交通の推しポイントは、「単身寮1年間家賃無料」や「年収500万円以上可能」というところだろうか。単身寮は駐車場完備で光熱費は別だが、現在はキャンペーンとして1年間の家賃を無料としている。1年後は家賃が必要だが月額5000円というタダみたいな値段だ。
そして年収500万円以上可能とは、バス運転士不足は正直なところ三重交通でも例外ではなく、休日の出勤や残業を含めた額とのことだ。鈴鹿サーキットや神宮、ライブコンサートやイベント等の波動輸送が他の事業者と比較してかなり多い三重交通ならではだが、バスの運転が楽しいと思う方であれば十分に可能な年収になるだろう。
女性運転士に聞いてみみると実際に鈴鹿サーキットの波動輸送にも従事した経験があり、渋滞は大変だそうだが、地上職員との連携で安全確実な輸送に努めているとのことだった。三重交通の波動輸送のレポートはバスマガジンWEBでもたびたび報じているがシステム化され、かつアップデートされているので、旅客はもちろんのこと運転士にもストレスが少なくなるような輸送体系を目指しているようだ。
■実際を見て聞かないと分からない
ネット上で流れる噂話程度の情報は、中には本物もあろうが、そうした噂話をファクトチェックするために利用するのもアリだと感じた。情報化社会の中で、バス運転士の特殊な勤務体系や待遇のアウトラインは誰でも知ることができるようになったが、その中身については事業者に聞かないと真偽は分からないことが多い。
求職者が実際に就職する際には大変な決断をして入社するのだから、より多くの情報が欲しいのは当然だ。ネットだけの噂話で終始しているようでは本質は見えてこない。あえて批判を恐れずに書くと、現役の運転士だと称する人の話ですら真偽は不明なのだ。しかし、火のないところに何とやらで、それをもとに事業者に質問や不安をぶつけてみるのはファクトチェックとしては正しい行動だ。
事業者も求職者の質問や不安に真摯に応えられないようでは人は集まらない。せっかく会場まで足を運んでくる大勢の人がそこにいるのだから、事業者側も本当のミスマッチなのか、勘違いのミスマッチなのかを丁寧かつ真実を説明する必要がある。このような就職イベントは定期的に開催されているが、それぞれが持つニーズや目的に応じて利用する価値は大きいと感じた取材だった。
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