新入学・新入社・新生活の季節から1ヶ月。中には若い方との「ぜねれいしょんぎゃっぷ」に直面し絶句しているような方もいるに違いない(逆もまた然り)。2013年に執筆された「ベストカー編集部の10年後」を予想した記事を発見!(本稿は「ベストカー」2013年3月10日号に掲載した記事の再録版となります)
TEXT/フォッケウルフ
■10年後の編集部……ホンゴーと学生バイト ニシヤマの間にある 大きくて深い溝
編集長テラサキのアタマは司馬遼太郎をしのぐほど白く、ババのそれは磯野波平に劣らない寂寥感が漂っていることだろう。
まだ、人影のない編集部には入ったばかりの大学生アルバイト、ニシヤマくんがいるだけだ。
そこに、ホンゴーから電話が入った。
「やられたよ。後ろから古いスープラがゼロヨン*の勢いで近づいてきたんで悪い予感したんだけれどオカマ掘られて*さ。こっちも前のベンツに玉突きよ。クルマ動かないんで誰かきてくんないか?」
ゼロヨン…? オカマ…? 慌ただしく電話を切られたニシヤマくんには、事情がまったくのみ込めない。
「オカマ」という自動車用語は絶えて久しい。衝突軽減ブレーキシステムは全車標準となり、高級車は自動運転が当たり前だからだ。もちろんゼロヨンは60歳以上しか意味がわからない。
とにもかくにも緊急事態であることとクルマが動かないことだけは理解できたニシヤマくんは自分で行くことにし、場所を聞いてみた。
「会社から護国寺に向かい、不忍通り右に曲がって、白山通り越えたところに止まっているよ」と言われたが、通りの名前を言われても若い世代にはチンプンカンプンだ。
「すみませんが、ボクにメールください。GPSで追っかけます」と言うと「バカヤロー、会社からすぐじゃないか。ややこしいこと言ってないで、チャリ*でもいいから、地図見ながらきやがれ」と逆に怒鳴られる始末。
しかし、チャリという言葉はすでになく、自転車の多くが電動バイクになり、こぐ自転車はごくわずかだ。
さらに地図に至っては見たこともなく、神田の古書街で売っているらしいと聞いている。
しかたがないので、ホンゴーに電話し、位置を捕捉、タクシーで向かった。タクシーは低料金の超小型モビリティが人気だ。
現場につくと2022年に新型になったばかりのメルセデスのEクラスとシルバーのレガシィツーリングワゴン、そしてフェンダーからタイヤがはみ出んばかりのクラシックカーが止まっていた。
スープラという名前は、2013年でいうところのベレットのような存在だ*。
ホンゴーはニシヤマくんを見つけるなり、「後ろの兄ちゃん、メール打っとったらしい。こっちは首がおかしいわ。サイド引いとけば*、ベンツに当たらんですんだのに」と言ったが、メールを打つこともすでにない。
音声がメールになるからだ。また、「サイドを引く」も死語だ。電動ブレーキが当たり前で、一部の競技車に残っているだけだ。
社用車のレガシィツーリングワゴンは10年後も走っている。ただし、ガソリンスタンドは都内に数軒しかなく、リッター200円以上するはず。
「タコ足のボクサーサウンドがたまんないねえ」などと言う人がまだいるが、とたんに周りは沈黙してしまう。
「おいニシヤマ、スープラがエンコして動かねえから、押しがけ*してみるぞ。お前、乗ってセコンドいれとけや。合図するから、すぱっとクラッチ離すんだぞ。動いたら近くのパーキングメーター*に止めろや」
……? エンコも押しがけもセコンドもクラッチもパーキングメーターもニシヤマくんは見たことも聞いたこともない。
ニシヤマくんはこの斬新な体験以来、ガソリンで動く自動車が大好きになり、ヒール&トゥやダブルクラッチをマスターし、若手旧車評論家として注目されるようになったのでした。
(内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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