中国のEV市場では、赤字販売が当たり前の過当競争が常態化している。写真はファーウェイと奇瑞汽車が共同開発した「智界S7」(ファーウェイのウェブサイトより)

中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の自動車関連事業部門は4月11日、国有自動車メーカーの奇瑞汽車と共同開発した高級EV(電気自動車)セダン「智界S7」の“2回目”の発表会を開催した。

智界S7はファーウェイと奇瑞汽車の協業による第1号モデルで、2023年11月にデビューした。ところが、量産立ち上げのトラブルなどから予約購入した顧客への納車が遅延。その間に中国EV市場の価格競争がエスカレートし、強力な競合車種も登場したため、ファーウェイは改めて(仕切り直しの)発表会を開くことにした。

購入済みのオーナーに補償金

2回目の発表会の目玉は、ずばり価格の見直しだ。具体的には、(レーザー光を用いた3次元センサーの)LiDAR(ライダー)を搭載する3つのグレードのメーカー希望価格を一律2万元(約42万円)引き下げ、26万9800元(約568万円)からに設定した。

また、LiDARを搭載しないベースグレードは価格を24万9800元(約526万円)からに据え置いたうえで、車載電池をアップグレード。最大航続距離を以前の550キロメートルから705キロメートルに延長した。

それだけではない。ベースグレード以外の智界S7をすでに購入したオーナーに対して、ファーウェイは1台当たり1万3000元(約27万円)相当の補償金を支払うことも明らかにした。

「わが社の高度なスマートドライビング技術を搭載したEVを30万元(約631万円)以下で販売したら、それらは全部赤字だ。今の自動車市場の過当競争は尋常ではない」

ファーウェイの端末事業部門のCEO(最高経営責任者)で自動車関連部門のトップを兼務する余承東氏は発表会でそう述べ、智界S7を赤字販売せざるをえない市場環境に対する複雑な心情を吐露した。

ファーウェイにとって大きな誤算だったのは、中国のスマートフォン大手の小米(シャオミ)がEV参入の第1号モデル「SU7」を3月28日に発売し、自動車業界を震撼させる価格性能比を打ち出したことだ。

EVに新規参入したシャオミの「SU7」は、もともと激しかった価格競争をさらにエスカレートさせた(写真は同社ウェブサイトより)

SU7のメーカー希望価格は、LiDARを搭載しないベースグレードが21万5900元(約454万円)から、LiDARを搭載する中間グレードが24万5900元(約518万円)から、同じく最上級グレードが29万9900元(約631万円)からとなっている。

「販売台数を稼ぐため赤字販売を決めた」。シャオミの創業者で董事長(会長に相当)の雷軍氏は、それが損失覚悟の戦略的値付けであることを認めた。

シャオミの攻勢を受け、競合メーカーは続々と対抗値下げに踏み切った。例えば国有自動車大手の上海汽車集団傘下の智己汽車は、4月8日に新型EVセダン「L6」を発表。その予約販売価格を、LiDARを搭載しながら23万元(約484万円)からに設定した。

量産トラブルで商機逃す

ファーウェイが奇瑞汽車と共同開発した智界S7も、2023年11月の最初の発表時には競合車種に比べて高い価格性能比を売り物にしていた。

ところが量産の立ち上げに手間取り、せっかくの商機を逃してしまった。財新記者が入手したデータによれば、2023年12月の智界S7の納車台数はわずか784台。その後も納車遅延が続く中、シャオミのSU7が登場したことにより、智界S7は値下げを余儀なくされた格好だ。

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内情に詳しい関係者によれば、智界S7の量産がスムーズに立ち上がらなかった背景には複数の要因があった。

そのうちの1つは、プロジェクトの推進を急ぐファーウェイの要求が厳しすぎ、一部の部品の供給が(量産に)間に合わなかったことだ。供給不足の部品のなかには、ファーウェイ製のものも含まれていたという。

(財新記者:張而弛)
※原文の配信は4月11日

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