今や従来のガソリン車を上回る勢いで普及しているハイブリッド(HV)車だが、バッテリーの寿命という意外な弱点もあるという。そこで今回は、オーナーならずとも気になるHVバッテリーについて考えていきたい。

文:長谷川 敦/写真:トヨタ、日産、写真AC

■HVの普及率はどのくらいなのか?

1997年に登場した世界初の市販ハイブリッド車の初代トヨタ プリウス。このモデルからハイブリッド車の歴史は始まり、今や国内ではガソリン車をしのぐ勢力に

 日本自動車販売協会連合会のデータによると、2023年の新車登録台数におけるHV(プラグインハイブリッド/PHEV含む)の割合は実に65.2%に達している。

 ガソリン車の販売台数割合が全体の31.6%であることを考えると、市場の主流は完全にHVに移っているといえる。

 HVの販売価格は同車種のガソリンモデルに比べて高めであり、燃料代の節約ができても、最終的に割安となるには時間が必要になる。それにもかかわらず、HVがこれほどの人気を獲得しているのが驚きだ。

 もちろん、ガソリン代を抑えることができるのは魅力的だし、排出ガスを減らすことによって環境負荷も少なくなるというHVのメリットは、市場においても強力ではある。

 だが、HVもいいところばかりではない。特に気になるのがバッテリーの寿命だ。実際、HVのバッテリー寿命はそれほど長くないともいわれているが、それは真実なのか?

 まずは充電式バッテリーが劣化する理由を簡単に説明しておく。

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■バッテリーが劣化する理由は?

 現代に生きる人は、充電式のバッテリーが徐々に劣化してしまうのを実感として知っているはずだ。

 その際たるものがスマートフォンで、同じスマホをずっと使っていると、徐々に充電サイクルが短くなってしまう。これはバッテリーの劣化によって容量が低下したのが原因だ。

 HVにかぎらず、クルマに使用される充電式バッテリーもまた劣化は避けられない。

 充電式バッテリーの内部には金属と化学物質が用いられていて、どのような物質が使われているのかはニッケル水素やリチウムイオンなどのバッテリーのタイプによって異なる。

 共通して言えるのは、充放電の繰り返しによって金属部品の腐食や化学物資の変性が生じ、これがバッテリーの性能を低下させてしまうということ。

 また、充電式バッテリーは高温にも弱く、真夏の走行や温度が上がる駐車場での保管でもダメージを受けるケースがある。

 残念ながら現在の技術では、半永久的に劣化しないような充電式バッテリーを作ることはできない。

 しかし、使い方によってバッテリーの寿命を延ばすことはできる。

 続いて、HVのバッテリー寿命はどのくらいなのか? さらにどのようにすればバッテリーを長く使えるようになるのかを見てみよう

■HVバッテリーの寿命はどのくらい? そしてその判断基準は?

 多くのHVにはふたつの充電式バッテリーが搭載されている。ひとつは動力として使用するメインバッテリーで、もうひとつは補機類の電源になるもの。

 補機バッテリーはガソリン車のバッテリーに近い働きを担い、ハイブリッドシステムの起動や、ガソリンエンジンのみが作動している時に電装品への電力供給を行う。

 補機バッテリーの寿命は4~5年といわれていて、これはガソリン車のバッテリー(2~3年)に比べるとやや長い。

 とはいえ補機バッテリーが寿命を迎えて電力を供給できなくなると、ハイブリッドシステムも動かなくなるので定期的な交換を心がけたい。

 HVの補機バッテリー交換作業はガソリン車のバッテリーほど簡単ではないため、ディーラーや専門店への交換依頼がお薦めだ。

 メインバッテリーのほうは補機バッテリーよりも寿命が長いといわれている。

 では、どのくらいが目安になるのか? その判断にはメーカーのバッテリー保証期間が参考になる。

 多くの国内メーカーでは、HVのメインバッテリーの保証期間を「5年、または走行10万kmまで」と設定している。

 つまり、基本的に5年間は性能をキープできるということになる。それ以降の寿命については走行条件によっても異なってくる。

 動力用メインバッテリーが劣化すると、それが燃費性能の低下となって現れることがある。

 内燃エンジンと電動モーターの組み合わせで走るHVは燃費のよさがウリだが、バッテリーが劣化してエンジンをサポートする力が弱くなると、これまでと同じ乗り方をしていてもエンジンの仕事が多くなり、燃料消費量の増加につながる。

 また、アイドリングストップからエンジン始動のタイミングが以前より早くなった場合もバッテリーの劣化が考えられる。

 こうした症状が大きくなり、日常使用に影響が出てきたら、バッテリー交換が必要になる可能性がある。

 HVのメインバッテリーもユーザー自身で交換するのは難しく、こちらもディーラーなどに頼むのが一般的だ。

 ディーラーにバッテリー交換を依頼すると新品バッテリーの料金を含めた費用は高くなるが、専門店では中古バッテリーの再生品に交換してくれる場合もある。そのためHVのメインバッテリー交換費用には幅があり、だいたい20万~60万円といったところ。もちろん、これもあくまで目安だ。

 補機バッテリーの交換はそこまで高額ではなく、専門店に作業を依頼した場合、交換用バッテリー代金を含めた費用は3万~4万円が相場になる。

■バッテリー寿命を延ばすテクニックとは?

トヨタ アクア(現行型)。コンパクトHVの代表的モデルで、街中で見かけることも多い。アクアは内燃エンジンも動力にするパラレルハイブリッドモデル

 交換が可能とはいえ、HVのメインバッテリーはなるべく長持ちさせたい。そこで最後はバッテリー寿命を延ばすテクニックを紹介する。

■低残量で保管しない

 HVのメインバッテリーにはニッケル水素、あるいはリチウムイオンバッテリーが使用されているが、これらのバッテリーは過放電に弱いという特性がある。

 特にエネルギー残量が少ない状態で保管すると、温度変化などによって自己放電が進み、結果的に過放電になって劣化する可能性がある。

 これを防ぐため、バッテリー残量ゲージに注意を配り、しばらくそのクルマに乗らない予定であれば、多少でも走行(充電)して、バッテリー残量に余裕がある状態で保管する。

■満充電にも注意!

 充電式バッテリーには過放電で劣化する特性があるが、反対に満充電状態で保管してもバッテリーにダメージを与える可能性がある。

 特に高温になるガレージでクルマを保管する場合、満充電のバッテリーが温度上昇によって活性化し、過度の発熱で劣化してしまうこともある。

「カラカラはダメだが満タンでもダメ」。これがHVの保管で気をつけておきたいことだ。

■バッテリーの酷使を避ける

 ガソリンの消費量を減らそうとして、必要以上に電動モーターのみでの走行(エンジンを回さない低速走行)を続けたり、充放電を頻繁に繰り返したりするとやはりバッテリーは劣化する。

 最近のHVでは内燃エンジンと電動モーターの使い分けやその配分が自動的に最適化されるものも多いが、アクセルの踏み方など、ドライバーの操作でもバッテリーの負担は減らせる。

 今後はさらにHVの台数が増えてくると予想される。そうしたHV全盛時代にこそ、バッテリーを含めたクルマ全体に優しい運転が求められるはずだ。

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