鳥取県の河川では6月1日にアユ釣りが解禁されます。ただこのアユを脅かす存在が「黒いギャング」とも呼ばれる水鳥のカワウです。個体数が増加し、アユの食害が島根県、鳥取県でも深刻になっています。鳥取県西部を流れる日野川で、被害の現状とその対策を取材しました。

5月26日、鳥取県伯耆町の日野川で、解禁を前に行われたアユの試し釣り。次々とアユが釣りあげられました。県内有数の釣り場として知られる日野川ですが、アユの遡上量が一時激減しました。近年は回復傾向にありますが、最も遡上量が落ち込んだ5年前には、ピーク時の1%以下という危機的な状況にありました。主な理由はエサ不足など生息環境の変化ですが、無視できない原因の一つが…。

日野川水系漁協・奥田裕之組合員:
食べてしまうので、魚がいなくなる。

体長80センチほどの大型の水鳥・カワウ。川を遡上するアユを食べてしまうのです。一時は全国で3000羽以下と絶滅の恐れもありましたが、水質の改善などもあって生息数は全国で5万羽と大幅に増えています。(2021年度のデータ)

環境省中国四国地方環境事務所・澤志泰正課長:
一部巣が見えると思います。(生息数は)おそらく300羽くらいですね。

環境省や鳥取県の生息調査によると、鳥取と島根の県境に位置する中海に浮かぶ萱島(かやしま)を始め、周辺の無人島を「ねぐら」にしているといいます。ここを拠点に、アユを狙って日野川へ飛来していて、鳥取県の試算では、カワウによるアユの捕食被害額は年間3400万円にのぼるといいます。

天然のアユ料理を提供する江府町の老舗旅館も頭を悩ませていた時期もありました。

米子屋旅館・江本由美代表:
アユの背ごしとか刺身とか、塩焼きなど提供している。天然のアユしか使っていないので、取れないときはお断りしたこともありました。

深刻化するカワウの被害に対し、漁業関係者は手をこまねいているだけではありません。

櫃田優果記者:
夜が明けたばかりの午前5時、カワウを追い払うための準備が進められています。

日野川水系漁協・坂田良典岸本支部長:
導火線に火をつけると上にあがって音がパーンとなるので、鳥たちがそれを恐れて逃げるというものです。

地元の漁協がこの時期、毎朝行うのが手持ち花火を使った追い払いです。しばらくするとカワウが飛来してきました。その数70羽以上とみられます。

櫃田優果記者:
カワウの大群が日野川上流に向かって飛んできています。カワウの大群がやってきました。

これに合わせ、手持ち花火を打ち上げると、花火の音でカワウは離れていきました。

日野川水系漁協岸本支部・坂田良典支部長:
おそらく岸本地区のエリアには降りていないだろう。(追い払いを何度かしたので)カワウが恐れて逃げるようになった。

ただ花火で追い払っても再び戻ってくるケースもあり、あくまで一時的な対策です。これと合わせ環境省は、「ねぐら」に対する抜本的な対策を進めています。

環境省中国四国地方環境事務所・澤志泰正課長:
巣から卵を取り出してしまうと、また産み足してしまうので、カワウに気づかれないように、卵が孵化しない状況を作り出してます」

使用するのは、「ドライアイス」です。巣にドライアイスを入れることで、卵の温度を下げ、孵化しないようにします。こうした対策もあって、中海周辺での2023年の生息数は約670羽に、対策を始める前と比べ約6割で、減少傾向が見られます。

一方で、2023年の冬場の個体数は約2000羽と、ここ5年で倍以上に。これは県外からカワウが飛来するためで、新たにカワウが棲みつく恐れもあります。鳥取県でもカワウの対策費を約850万円と、前年の1.6倍に増額。個体数の管理に向けて対策を強化しています。

鳥取県自然共生課・織奥学課長補佐:
「鳥取県内においては、新しいコロニー(繁殖地)を増やさないように(対策していて、、生息するカワウの数は一定の数で推移しています。関係者のみなさんの意見を伺いながらカワウの個体管理をしていきたい。

在来種で一度は絶滅しかけたカワウ。漁業被害の軽減のためにも今後も適切な個体管理が必要です。

2024年の日野川のアユの天然遡上は前年の倍以上にあたる250万匹で、ピーク時の6割程まで回復しています。漁業関係者が、産卵場所の整備や稚魚の放流などの取り組みを続けてきた成果が実を結んでいます。こうした流れに「カワウ」が水を差さないよう適切な対応が引き続き大切になります。

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