東京・八王子市の住宅街に、過去14回に渡り、役所によるごみの撤去作業が行われた「ゴミ屋敷」がある。ゴミをため込んでしまう人の心理状態とはどういったものなのか。原因と有効な解決策などについて、明星大学心理学部の藤井靖教授に聞いた。

背景には「社会的孤立」

ーーゴミ屋敷にしてしまう人の心理状態は?

ゴミ屋敷を維持してしまう人には、大きく分けて2つのタイプがあります。1つは、「ゴミは宝物」と考えている人。もう1つは、単純に「片付けられない」人です。

明星大学心理学部 藤井靖教授
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「ゴミは宝物」と考えている人は、ものを集めることに積極的に行動するタイプで、ものへの愛着がコントロールできない人です。とにかく捨てたり片付けたりすることに不安や罪悪感を感じてしまう心理状態です。

一方、「片付けられない」タイプは、いつかは捨てようと思っているけど、なかなか捨てられない人です。人の助けを借りることに対しても遠慮や気兼ねがあったり、「自分の家は自分でやらなくてはいけない」といったプライドもあったりして結局なかなか片付けられません。

東京・八王子市のごみ屋敷

ーー解決策はある?

2つのタイプに共通しているのは「社会的孤立」です。
例えば、夫婦で暮らしていたけどどちらかが亡くなって1人暮らしになり、身寄りもなく、高齢で仕事もしていない状況になると、社会と接点がなくなる人がいます。

心理学上「セルフネグレクト」とは、自分自身を放置し自己管理できなくなくなり、生活していく上で必要最低限のことをしない(できない)状態です。自分の生活や人生を放棄している状態のことを指します。

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セルフネグレクトになる背景もさまざまあって、例えば、認知機能の低下や、お風呂に入ったり、料理したり、洗濯したりといった社会生活の機能が低下している場合があります。中には認知症の方、何らかの依存症やうつ病などの病気がある方もいて、その場合はまず病気の治療が大事になってきます。

こうした場合、本人も病気であることに気付いていないケースがあるので、行政もゴミを片付けるだけではなくて、本人の健康状態のアセスメントを行い、病気の有無を確認する必要があります。心理職が訪問したり、保健師や医師の診察を受けたりすることが重要だと思います。

人とのつながりを持つこと

ゴミ屋敷に1人で住む50代の男性は、「病気や経済的な困窮から生活のためにゴミを集めている」と話すが、藤井教授は社会的交流や人とのつながりを持つことが解決のきっかけになると指摘する。

ゴミの山を登り家に戻る男性

ーー社会的に孤立している人の特徴は?

社会的に孤立している場合、人との交流がないために自分の身なりやなりふりを気にしなくなります。私たちでも休みの日は「誰にも会わないから別に着替えなくていい」と思うように、その環境が毎日続いている状態です。

そのためにも、やはり社会的交流や人とのつながりを持つことが解決のきっかけになります。行政が出向いて何回片付けても、本人の状況が変わっていなければ、誰かが家に来るわけでもないし、見られて恥ずかしいわけでもないので、「ゴミは宝物」と思っている人はずっとため続けるし、片付けられない人は片付けられないまま放置します。

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ーーゴミ屋敷の住人は「臭い、汚い」と思わない?

思っている場合と、思っていない場合があります。「汚い」と思っている人はむしろ思っているから「触りたくない」と放置します。思っていない人は「いつか役に立つかもしれない宝物で自分の所有物」と考え、臭いだとか乱雑さは他人から指摘されても受け入れられない、となります。

「生活の拠点をその場から変える」

周辺住民から多くの苦情が寄せられ、八王子市はこれまでに14回に渡りごみの撤去を行ったが、わずか半年後には元のごみ屋敷に戻っているという。このサイクルについて藤井教授は、同じ家に住んでいるとせっかく片付けてもまた繰り返すことになり、一度“別の場所”に住んでみることが有効だと話す。

昨年10月に行われた撤去作業(提供:八王子市役所)

ーーカウンセリングで成功したパターンは?

親族から頼まれて何度かカウンセリングをしていますが、成功パターンで一番多いのは「生活の拠点をその場から変える」ことです。親戚宅など一時的に移住できる場所があれば、本人を説得して一時的に生活の場所を移します。親戚が無理であれば、ホテルやウィークリーマンションに泊まってもらいます。

そうすると、この環境の方が良いと思う人も結構います。14回片付けても、同じ家に住んでいると、どうしてもまた同じパターンになってしまいます。そのため、一度別のところに住んで、ゴミ屋敷ではない環境でも自分は気持ちよく生活できると実感できたら、ゴミ屋敷の繰り返しから抜け出せるという成功パターンが私の経験上あります。

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