小児がんで両目を失い、全盲となった4歳の少女。

そんな彼女の心に光をともすのは、寄り添う家族の絆だった。

■両目を失った娘に「光を失って幸せになれるのか…」

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小原佳純ちゃん:1、2、3…。

指先で物を触りながら数を数えるのは、4歳の小原佳純ちゃん。両目とも義眼だ。

彼女は、目のがんで両目を失った。

佳純ちゃんは、1歳年上のお姉ちゃんと、お父さん、お母さんの4人家族。

ある日の自宅では、お母さんやお姉ちゃんと一緒に、おもちゃで遊んでいた。

小原佳純ちゃん:わっ!ごはんだ!ここテーブル?いすちょうだい。

母・絢子さん:いすはここにあるよ。

小原佳純ちゃん:ここ?窓あったんだね、見えるね!

母・絢子さん:何が見える?(窓の)外。

小原佳純ちゃん:えっとね、虹が見える!六甲山のお山が見えるよ!

母・絢子さん:そう。きれい?

小原佳純ちゃん:うん。また行ってみたいな!アイスクリームも食べたいし。

目に異変を感じたのは、佳純ちゃんが1歳4カ月の時だった。

母・絢子さん:夕日が差し込んでいるくらいの時に、なぜか窓際でおむつを替えたんですよ。そうしたら、目の中に光が偶然いい感じで差し込んで。顔を見ながらおむつを替えたりするので見たら、眼球の中に透けているように見えたんですよ。よく見たら血走っているし。(医師に)『このまま放っておいたら失明するかもしれないし、命にもかかわってきます』って言われて。

佳純ちゃんは、1万7000人に1人とされる目の小児がん「網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)」と診断された。

抗がん剤治療を始めたが、治る見込みはなく、およそ3カ月後、右目を摘出した。

残された左目も徐々に視力が低下。ほとんど見えなくなった2023年3月、がんの再発を防ぐため、こちらも摘出した。

母・絢子さん:こっち、こっち!

お母さんの呼びかける声に反応するも…。

小原佳純ちゃん:真っ暗だ…何も見えない。

佳純ちゃんの母・絢子さんは、その当時をこう振り返った。

母・絢子さん:全盲とかになって光を失って生きていって、幸せになれるんかな、みたいな。ショックすぎて、夜だいぶ眠れない日は続きました。何していても涙が出てくるし。本人はすやすや寝るんですけど。本当にこんなになるまで気づかなくてごめんね、という気持ちがありました。ごめんね、ごめんねって寝顔を見て言っていたような記憶があります。思い出したら泣けます。

入院していることでおばあちゃんに会えないのが寂しいと、病室で泣く佳純ちゃんに…。

小原佳純ちゃん:ミーハ(おばあちゃん)と会いたいの。寂しい。

母・絢子さん:そっか…大丈夫よ、また会えるから、すぐに。

■闘病生活を絵本の物語に

2023年8月。神戸市にあるカフェに家族で訪れた。

佳純ちゃんの祖母:ここにほら、飲み物来たよ。ここ、ストローね。

過酷な娘の現実を思い、絶望の淵に立っていた母・絢子さんの支えになったものがある。

母・絢子さん:この絵は佳純の病気が分かった時に、自分のために描いたというか、これ佳純なんですけど、『大丈夫やで』という気持ちを込めて描いた。

小さい頃から得意だった絵。娘への思いを胸に、無心でキャンバスに向かった。

その絵を、知人のカフェで展示している。

佳純ちゃんが入院する病室で、ベッドの隣でも描き続けていた。

母・絢子さん:何していても、夜とかも考えちゃうんですよね。その病気のことについて。なんてかわいそうなんやろうとか、このままどうなるんやろうって考えて、眠れなくなるので。絵を描いてる時は、とりあえず無心になれる。絵のおかげで、病気と向き合えたのかなって、今となったら思いますね。

そんな生活を送る中、思いついたのが、佳純ちゃんの闘病生活を絵本の物語にして残すことだった。

絵本から引用:ある日の夕方、お母さんはお目目の中を見て、驚きました。キラリと血走った、白いものを見つけたのです。

髪は全部抜け落ちて、お目目には包帯を巻いています。

網膜芽細胞腫という悪い病気がいたの。それは“がん”といって、その病気を治すために、ずっと病院にいるんだよ。お母さんは、お姉ちゃんにそう言いました。

佳純ちゃんの病気が見つかってから、何度も入退院を続けてきた。今回が最後の手術だ。

母・絢子さんの足元には、たくさんの荷物があった。

母・絢子さん:大体4日分くらいの着替えを入れているんですけど。あと画材ですね。絵を描くための。

お父さんとお姉ちゃんとはおよそ1カ月間、離れ離れになる。

母・絢子さん:絵を描こうかなと思って。

佳純ちゃんの病室で絵を描く絢子さん。夜になっても、暗い中ライトの光を頼りに、キャンバスに筆を走らせていた。

■病と闘う妹 そして姉の思い

ある日、祖父母の自宅に、姉の蒼生(あおい)ちゃんの姿があった。

佳純ちゃんの祖母:ブルー?蒼生ちゃんこれがいい?ミーハ(祖母)だってブルー好きだよ。

姉・蒼生ちゃん:なんで?ピンク色の方がかわいいんよな。

佳純ちゃんの祖母:そう?ミーハは佳純ちゃんの口塗ろう。

姉・蒼生ちゃん:蒼生ちゃんは蒼生ちゃんの口塗ろう。

おばあちゃんとお絵かきをする蒼生ちゃん。

絵本から引用:妹の病気が分かった日から、お姉ちゃんはおじいちゃんとおばあちゃんの家に1人であずけられることになったのです。でもお姉ちゃんは寂しくなり、えんえん泣きました。

この日は1週間ぶりに、お母さんが少しだけ会いに来てくれた。

母・絢子さん:ただいま!蒼生ちゃん。

姉・蒼生ちゃん:えー!

階段を駆け降りて来て、すぐさまお母さんに抱き着いた。

母・絢子さん:蒼生ちゃん久しぶり!暑かった~。久しぶり!大丈夫?

姉・蒼生ちゃん:うん…。

泣き出す蒼生ちゃん。

母・絢子さん:泣かないでよ…すぐ帰ってくるやん。佳純ちゃんに会いたいから?

姉・蒼生ちゃん:うん。

母・絢子さん:ちゃんとお利口さんに待っとけた?我慢させてごめんな。

絵本から引用:さびしかったよね。よくがんばったね。お母さんは頭をなでてくれました。それでもお姉ちゃんは悲しくなりました。妹とも一緒に遊びたいな…。

2023年9月。佳純ちゃんが最後の手術を終え、家族で病院へ迎えに行った。

絵本から引用:病院からの帰り道、お姉ちゃんは『妹のお目目になるの!』と言いました。

姉・蒼生ちゃん:見て、このお花かわいい!

母・絢子さん:あ、ほんまや。佳純ちゃん、お花やで。

姉・蒼生ちゃん:ここにお花があるよ。ピンク!ほら。噴水のところ行こう。こっち!

3年もの間、手術や治療をがんばってきた佳純ちゃん。

病院での生活は終わり、これからは大好きな家族と一緒に暮らすことができる。

■盲目の息子を持つ女性「子育て楽しかった」と涙

今年4月。神戸・東灘区で開かれた絵本の原画展に、母・絢子さんの姿があった。

絢子さんは絵を通して、闘病生活について知ってもらい、小児がんの早期発見につなげたいと考えている。今後、クラウドファンディングで資金を集め、絵本を出版するのが目標だ。

原画展には、盲目の息子を育てた女性が息子と共に訪れ、展示された絵を見て、思わず涙していた。

訪れた女性:これとか、これとか見ると、思い出す。私も30何年前だけど思い出します。子育ても楽しかったです。今はもう子育てできません、もう大きくなったから。

母・絢子さん:そうですか…。

女性の息子:今度は自分が(母に)恩返ししていく立場ということで。楽しく仕事もやっております。

そう笑顔で話した男性の姿に、絢子さんは…。

母・絢子さん:大人になって、『幸せです』という話を聞くと、すごく救われます。

5月の晴れた日に、佳純ちゃんたちは神戸の六甲山を訪れた。

小原佳純ちゃん:この辺、トトロがおるよ。トトロー!

好奇心旺盛で、怖いもの知らずの佳純ちゃん。自分にしか見えない光の先には、どんな未来が待っているのか。

母・絢子さん:見えている子とはまた別の世界が佳純には見えていると思うんですけど、自分の与えられた世界の中で、人生をかけてできるものが見つかったらいいなと思っているので。今プールをやらせているんですけど、他のスポーツもできたらなって。運動神経いいので。音楽もさせてあげたいんですけど。忙しいですね。やらないとあかんことがいっぱいあるので。

絵本から引用:お母さんは2人を抱きしめて言いました。『2人はお母さんの宝物だよ。本当に大好きだよ。』

絵本の出版を目指すクラウドファンディングは、6月中に開始予定。

(関西テレビ「newsランナー」2024年6月3日放送)

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