カバンの中に入れて持ち歩くもので、多くの命を救えたら――。そんな思いを胸に、愛媛県の医学生が、誰でも正しい心臓マッサージができる救命補助具を発明した。その名も「命を救うハンカチ」。処置時に胸部を覆い隠せるのも特徴の一つだ。知人が救急搬送中に命を落としたことなどから救急救命の重要性を実感しており、「この発明品で救命率アップを目指したい」と力を込める。
発明のきっかけは「失敗」
発明したのは、愛媛大医学部3年の冨岡珠里さん(21)。きっかけは、自身の「失敗」だった。1年の冬、所属する救急医療サークルの活動で心肺蘇生法を練習していた時、うまく心臓マッサージができなかった。胸部に手を置いて真っすぐ上から押す正しい姿勢を取れておらず、適切な力が入っていなかったのが原因だった。心肺蘇生法の市民講座に指導スタッフとして参加した際にも、姿勢が原因で正しくできない人も少なくなかった。医療従事者向けの練習用補助具はあるが、倒れた人を最初に処置するのは一般の人。そこで、処置時の姿勢を矯正する補助具を開発しようと決心した。
それからはアイデアが浮かぶたびにスケッチブックに書き込んだ。初めての試作品は、3Dプリンターで立体化すると、大きすぎて持ち運べなかった。同大付属病院救急科の佐藤格夫(のりお)医師に相談するなどし、身近なハンカチに着目。試行錯誤を重ね、構想から約1年後に完成した。
「命を救うハンカチ」完成 どんなもの?
完成した救命補助具「命を救うハンカチ」は、縦6・5センチ、横4センチ、高さ3センチの器具を、約35センチ四方のハンカチの中央部にスナップ式ボタンで取り付けたもの。
器具の底は平面ではなく楕円(だえん)のため、倒れた人の胸部に置いたとき、真っすぐに上から力を加えないと倒れてしまう。その原理を利用して、正しい姿勢での心臓マッサージを促す仕組みだ。
処置する際は衣服を脱がす必要があるが、ハンカチだと胸部を覆い隠せるため抵抗感が軽減できるほか、傷病者のプライバシー保護にもつながる。
心臓マッサージは、動かない心臓に代わって全身の臓器に血液を送り、酸素不足で機能不全になるのを防ぐ重要な救急処置だ。佐藤医師によると、正しい姿勢とリズムで行わないと、命は救えても後遺症が残るなどし、社会復帰が難しくなる可能性もあるという。佐藤医師は「医療従事者はすぐに現場にかけつけられない。その場にいる人たちの行動が極めて重要になる」と的確な処置の必要性を訴える。
亡くなった知人の命、これからも胸に
冨岡さんは、病弱だった子ども時代の出会いがきっかけで医師を志すようになった。数年前にはきょうだいの同級生の家族が倒れ、救急搬送中に亡くなったことから、将来は救急医の道も考えている。発明品について「誰でも抵抗なく、救命行為ができるよう背中を押せる道具になれば」と話す。
「命を救うハンカチ」は学生の発想力を競う2023年度の「パテントコンテスト」(文部科学省、特許庁など主催)で最高賞の特別賞(新しい生活様式アイデア賞)を受賞。特許出願中で、今後も改良を重ねるなどして2年以内の商品化を目指している。冨岡さんによると、器具の素材は肌触りの良さや体への負担を考慮し、シリコーンを検討中。将来的には成人用と子ども用をそろえたいという。【広瀬晃子】
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