龍神コッコの卵(右)で作ったプリン=和歌山県田辺市龍神村の菓子工房HOCCOで2024年6月7日午後3時19分、駒木智一撮影

 「龍神地鶏はどうなっていますか?」。和歌山市で開かれた第35回全国「みどりの愛護」のつどいの日程に関する事前説明の場で、秋篠宮さまは岸本周平知事にこう尋ねられた。想定外の質問で返答に窮した岸本知事に対し、野鶏などの生物研究を専門とする秋篠宮さまは、田辺市龍神村など限られた地域で飼育されてきた希少な純血の日本鶏について丁寧に説明したという。どんな地鶏なのだろうか?

龍神地鶏、一時は68羽だけに

 県畜産試験場養鶏研究所によると、龍神地鶏は龍神村原産で、300年以上前から一部の愛好家によって観賞用として飼育されてきた。しかし、長年にわたり特定の地域で少数の個体のみが飼育され続けてきた影響で、遺伝的多様性が減少し、個体の小型化や繁殖力の低下を招いたという。

 秋篠宮さまが他の研究者と共同で執筆した論文で、龍神地鶏の早急な保護を訴えたことがきっかけの一つとなり、同研究所が個体調査を実施。2012年4月時点では龍神村を中心に68羽を数えるのみだった。その後、遺伝子調査なども実施して計画的に飼育し、現在は約420羽にまで増やした。

新種開発で保護目指す

 しかし、このうち300羽は同研究所で保護されている。黒田順史副所長は「単に保護するだけではいつか絶えてしまう懸念は消えない。龍神地鶏の特徴を十分いかした商業的な活用法が必要」と指摘する。そこで、同研究所は21年、龍神地鶏と産卵に優れた種のロードアイランドレッドを掛け合わせた新種「龍神コッコ」を開発した。

龍神コッコを抱きかかえる石崎源太郎さん=和歌山県田辺市龍神村のとりとんファームで2024年6月7日午後1時56分、駒木智一撮影

 龍神村で養鶏所「とりとんファーム」を経営する石崎源太郎さん(49)は、龍神コッコ普及協議会の会長を務め、約400羽飼育している。石崎さんによると、龍神コッコは龍神地鶏と同様に小さな個体で卵も小ぶりだが、黄身の大きさは一般的な卵と同じだという。そのため、黄身の濃厚な味わいが際立ち、卵かけご飯に最適とされる。また、龍神村で唯一というケーキ屋「菓子工房HOCCO」を営む榎本大志さん(49)も地域おこしに役立てようと、龍神コッコの卵を使ったプリンを販売している。

 こうした龍神地鶏に関する地域おこしについても、秋篠宮さまは詳しかったという。岸本知事も改めて龍神地鶏について調べ直し、来県に合わせて急きょプリンを用意した。秋篠宮さまからは「おいしかったです」との感想があったという。伝え聞いた石崎さんと榎本さんは「龍神村の名物に育てたいという思いで頑張っている。励みになるし光栄です」と口をそろえる。

 養鶏研究所は龍神地鶏由来の食肉用の新種も開発し、今年度から商用化の準備を進めている。黒田副所長は「龍神コッコや食肉用の新種が商品として広まれば、貴重な龍神地鶏の保護にもつながっていく」と期待している。【駒木智一】

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