基幹産業の農業を持続的に支えていくために、福島県福島市が進める独自の取り組み「カジュワーク」。市職員が農家の手伝いをするもので、高齢化や担い手不足に苦しむ農業の課題解決に取り組んでいる。 

<出荷の最盛期 人手不足>
2024年6月、福島県福島市の「みちのく観光果樹園」ではサクランボの最盛期を迎え、出荷に向けた作業に追われていた。
「サクランボ終わらないうちに、モモも始まりますから。忙しいです。暇な時はないですね」と話す、社長の片平新一さん。この時期、悩ませているのが「人手不足」だ。
毎日、約300箱を出荷するサクランボ。収穫や箱詰め作業など20人ほどの人手が必要になるという。

<高齢化 助け合いが難しく>
これまでは農家仲間と助け合い繁忙期を乗り越えて来たが、高齢化で廃業する農家も多く、協力を得るのが難しくなっている。
片平さんは「人がいなければ何も始まらない。人がいるんだったら何でもできる。人がいないから、この辺が規模拡大の最後かなと。逆に今度縮小していく可能性も頭のこの辺にはあります」と話した。
福島市で農業に従事する人の数は、この10年で約3割減少。さらに、65歳以上の高齢者の割合は増加している。

<市職員が副業で農業を手伝う>
「担い手の減少」と「高齢化」・・・この課題に取り組むため、福島市で2022年から始まったのが「カジュワーク」だ。
福島市では、職員に勤務時間外の副業を限定的に解禁。(※地方公務員法で副業は原則禁止も服務規定で市長が認める)アプリを通じて農家の求人に職員が応募し、1日単位で農作業を手伝う。
カジュワークはすべての職員が利用できるわけではなく、農業関係の部署の人は農家との利害関係があるのではと誤解が生まれないよう禁止されている。

<公務員の地域貢献にも>
普段は災害対応などの業務にあたる丹治美優さんも、カジュワークをする一人。「私はデスクワークを主にやっているので、実際に外で日差しを浴びながら作業するのはすごいリフレッシュにもつながると思いました」と話す。
これまでに延べ196人の市の職員がカジュワークを利用。「みちのく観光果樹園」でも積極的に活用している。社長の片平さんは「消防署の人は結構来る頻度が高いかな。特殊な仕事だから、筋肉もりもり。何やってもびくりともしないと。使い勝手あるね」と話す。
福島市農政部の佐藤史彦さんは「市内の農業不足の解消を、市としても応援して行きたい。また公務員の地域貢献にも繋がる制度」だと話す。
福島市はこれまで果樹農家に限っていた派遣対象を、2024年6月からすべての農家に拡大。農業を支える取り組みを強化している。

<新規就農者の定着にも注力>
担い手不足の中でも、明るい兆しも出ている。最新のデータでは、福島市の2023年5月2日から2924年5月1日までの新規就農者数は69人とこれまでで最も多くなった。
ただ就農後に辞めてしまう人もいて、定着を図るためのサポートにも力を入れている。
ブドウやモモを栽培する菊地俊作さんは、元々、埼玉県の農業高校で教員として働いたが、2020年に福島市に移住して就農した。農業の知識はあったが、天候や果物の成長を見極めての作業に難しさを感じている。

<大ベテランがサポート>
菊地さんが頼りにしているのが、この道60年の農家・伊藤隆徳さん。
2人を引き合わせたのが福島市の取り組みのひとつ「あぐりっしゅサポート」。就農を希望する人に、経験豊富な農家が2年間相談や研修、営農までを支援する。
支援の期間が終わった後も、相談に乗ってもらっているという。
先輩農家の伊藤さんは「先永く、福島にきて良かったって言えるように、がんばってもらわなきゃ」と話した。

農業の担い手不足や高齢化は、福島市以外の自治体も抱える問題だ。行政だけでなく、企業や地域の力も合わせた支援も求められている。

画像:PIXTA

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