有識者でつくる「人口戦略会議」が今春、2050年までの30年間で全国1729自治体の4割にあたる744自治体で20~39歳の女性人口が50%以上減少し、いずれ消滅する可能性があるとする分析結果を公表した。一方で、若年女性の減少率が20%未満とされた自治体は「自立持続可能性」と分類され、明暗がわかれる格好となっている。

  • 「消滅」リスクと向き合う自治体 わかれた明暗、対策打っても人口減

 熊本県の中央部に位置する益城町も、「自立持続可能性」と分類された自治体の一つだ。10年前に公表された同様のリポートでは、30年後に若年女性の人口が30・9%減ると予測されたが、今回のリポートでは減少幅が8・0%まで改善していた。

 なぜなのか。きっかけは、災害で芽生えた危機感だった。

 2016年4月に発生した熊本地震で、町を2度の震度7の揺れが襲った。町内の9割の家屋が被害を受けるなど、壊滅状態となった。

 それまでは隣接する熊本市のベッドタウンとして、町の人口は増加傾向にあったが、地震の発生後に一気に1500人ほど減少した。

 「この町はどうなるのか」。町職員だけでなく、町民からも不安の声があがった。

 復興に向けた町づくりを考えるなかで、改めて目を向けたのが「町の強み」だった。

 町は九州全体の「真ん中」付近に位置し、空港のほか、高速道路のインターチェンジが2カ所ある。自然と水も豊かだ。利便性と豊富な資源は企業が拠点を置く場所としても魅力があるのではないか、と気づいた。

 町は18年、若手職員を中心としたワーキンググループを立ち上げ、企業誘致に狙いを絞った施策の検討を開始。そこで出たアイデアをもとに、地震前まで目を向けてこなかった県外の企業に町の魅力をアピールするHPを開設したほか、町内に支店や工場を立地してくれた企業に最大4億円の奨励金を給付する施策を始めた。

 それから6年。ポテトチップスなどを製造する湖池屋や、全国に配送網を持つ日本通運など15の企業が町内に工場や倉庫を建設し、IT企業5社がオフィスを新たに設置した。隣接する菊陽町に世界的な半導体メーカー・台湾積体電路製造(TSMC)が工場の設置を決めたことも追い風となり、町の人口は地震前の3万3500人を超えた。

 企業誘致を担当する産業振興課商工観光係で働く原田将吾さん(34)は、地震直前に入庁し、若手職員としてワーキンググループに参加してきた。「地震という明確な危機に面したことで、役場だけでなく住んでいる人も町の未来を考えるきっかけになった。そのなかで、普段はなかなか目を向けていなかった町の強みに気づくことができた」と振り返る。

 全国の自治体が、人口減少にどう立ち向かうか模索を続ける。原田さんは「立地や状況が違うので企業誘致が必ずしも有効な手段だとは思わない」としつつ、「自分たちの町をもう一度見つめ直すことで、ヒントは見えてくると思う」と話している。(中山直樹)

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