災害から住民の命を守るために、市町村では様々な防災対策を進めている。市町村の代表者である市町村長や住民代表から、それぞれの地域の防災「わがまち防災自慢」について話を伺う。今回、東京大学大学院の客員教授で防災行動や危機管理の専門家・松尾一郎さんが訪ねたのは、福島県二本松市。

<地域そのものをハザードマップに>
二本松市の三保恵一市長が案内してくれたのは市内にある電柱。そこには想定される浸水の深さが書かれていた。これは二本松市が進める「まるごとまちごとハザードマップ」というもので、川の氾濫で「この場所がどこまで浸水するか」を示すもので、市内に106カ所も設置されている。
安達太良山や阿武隈山地に囲まれ、中心には阿武隈川が流れる二本松市。恵みをもたらす豊かな自然は時として脅威にもなり、2019年10月の令和元年東日本台風では洪水や土砂災害が発生し2人が犠牲となった。二本松市はこの被害を受けて、ハザードマップを改定した。

<経験が油断につながるケース>
しかし、東日本台風については心配なデータもあった。
各地区の区長に行った調査で3分の1以上が「自分の地区で災害が起こるかもしれないと思っていた」と回答した一方、「過去に経験した程度におさまるだろう」など経験が間違った安心を呼んでしまったケースも同じくらいあったという。
市のハザードマップも「内容までは覚えていなかった」など理解に課題があることが分かっている。

<危険を目に見える形に>
街並みそのものを「ハザードマップ」にするこの取り組み。
国土交通省の公表に基づき、阿武隈川流域に2日間で300ミリを超える大雨が降ったという最大規模の氾濫を想定し、危険を目の前に見える形にしている。
三保市長は「これまで想定できなかったような大きな災害が起きている。市民の皆さんの尊い生命身体財産を守るということが最も大切。市民の皆さんに、いち早く的確に情報を提供することが大切」と話した。

<防災マイスターの視点>
ハザードマップを「見る」ものから「自然と目に入る」ものにする取り組み、私たちの防災意識を高めるうえでも重要といえる。
防災マイスターの松尾一郎さんは「ハザードマップや防災マップは、お住まいの市町村から印刷物で配布されているが、いつでも見られるようにしている人は、少ない。6割は記憶にない・よく見ていないという人もいる。命を守る情報なので、その危険性を知る事は重要。だから、街なかに浸水看板としていつも目に届くようにすることは必要な事」と話す。

<経験を教訓に自主防災>
二本松市は東日本台風で大きな被害を受けた自治体の一つでもある。この台風をきっかけに住民たちも動き出している。
二本松市西谷地区。東日本台風では、地区の避難所としていた建物もあわや浸水という状況だったという。自主防災組織のリーダーを務める菅野拡さんは「避難して来た人たちがここで待機していた。こわかったです…これ以上、水が来たら逃げるところないなって」と当時を振り返る。

<住民同士のつながりで被害軽減>
東日本台風で、西谷地区では住宅2棟が水没、道路が寸断されるという大きな被害にあった。台風の被害を受けて川幅の拡張工事は実施されたものの、住宅に比較的遠い場所などは拡張工事の対象でない部分もある。また、災害級の雨にならなくても、場所によってはすぐに水かさが増してしまう所もあるという。激甚化する災害に対し、ハード面の対応を待ってはいられないと、住民同士のつながりで被害を減らしていくため、台風の被害後に西谷地区の自主防災組織が立ち上がった。

<課題も…できることから>
地区の1軒1軒を回って聞き取った「災害が起きたときに不安なこと」をもとに、声かけのタイミングなどを模索しているという。
「いざというとき」に備え、地域の防災力を高めたい一方、住民が100人に満たず3分の1から半分が高齢者というこの地区では、避難所での備蓄品や避難誘導に必要な道具を揃えるなど、物資面で組織を強化することは難しく、まずは「できることから」というのが現状だ。
自主防災組織のリーダーを務める菅野さんは「防災のために5000円出してくださいとは、私の口からはなかなか言えない。我々ができることは見回りとか、災害があった時に手助けをすること。みんなで見回り活動とか、お互いに協力し合うことが、災害を最小限にできる地区でありたい」と話した。

<高齢化 防災組織の維持が難しく>
全国各地で自主防災組織が立ち上がっているが、特に高齢化が進む地区では組織を維持できるかという点も課題となっている。
防災マイスターの松尾一郎さんは「防災力や体制を維持するのは、どこも同じ課題。地域の祭りや交流会・訓練の中で人を集めて、つながりを深めることが重要」と指摘する。
また松尾さんは「災害はみなさんが暮らす地域で起こる。そこに暮らす消防団・民生委員・児童委員・自主防災・自治会などそれぞれが役割を全うして、被災回避行動をすれば、災害に強い地域になれる。基本的には役割をどう全うするかということ。そういう地域社会が必要だろう」と話した。

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