球児の身体づくりをプロテインばかりに頼っていていいのか。北海道の北部、士別翔雲の渡辺雄介監督は、「脱プロテイン頼み」と地元食材を用いた体づくりを提唱する。

 「士別市はお米の産地。隣の和寒町も野菜が有名な産地。1次産業に従事する保護者も多い。北海道全体で見れば、肉も魚も乳製品もなんでもそろう。相当魅力的なのに、選手たちには自覚がない」

 体づくりの第一歩に、おいしく食べるところから始めてほしいと「地元食で身体を作る」を掲げた、栄養講習を始めた。

 昨年度から公認スポーツ栄養士の資格を持つ蜂谷愛氏を講師に招き、1回約1時間の全体講習と個別面談を4回ずつ実施した。体重をもっと増やしたい選手に個別でオンライン指導をして、献立の相談に乗ることもあった。

 地元産の食材をふんだんに食べて育ってきた象徴的な存在が、池沢ツインズだ。下級生の頃から、チームの中心選手として活躍する双子の兄、池沢琉生主将と弟の巴琉選手だ。

 2人は隣町和寒からJRで通う。家族は、約30ヘクタールの土地で町特産の越冬キャベツやカボチャを育てる大規模農家だ。

 カボチャは収穫後に1カ月ほど風で乾かしながら温度管理をし、寝かせて甘みを引き出す。キャベツも、一度収穫したものを雪の下で貯蔵し、シャキシャキ食感に仕上げる。

 2人も冬休みには農作業を手伝う。朝8時から夕方5時まで背丈ほどに積もった雪の中から、ひと球2キロは超えるキャベツを掘り起こしては、コンテナに積み込む重労働を担う。

 カボチャは8月末ごろから12月の冬至まで、キャベツは10月から3月ごろまで、ほぼ毎日食卓に並ぶ。ベータカロテンやビタミン、カルシウムの効果もあり「2人とも病気やけがはほとんどなかった」(母浩子さん)。

 元高校球児の父、哲也さんも2人に期待を寄せる。「1人は主将。みんなを引っ張って欲しいし、もう1人は1番打者として、塁に出てチームを勢いづけて欲しい」

 キャベツやカボチャ以外にも、祖父母が家庭菜園で育てる野菜を食べて育ってきたという兄弟。食環境がいかに恵まれていたのか、栄養講習を通して気付いたという。「短時間、手伝うだけでも精神的にも体力的にもきつい。朝4時に出て、夜9時まで仕事をする親の偉大さを感じた」

 巴琉選手は「中学までは気にしていなかった食に興味を持つようになった。地元食材を食べ、地元の学校で強くなる姿を見せたい」と意気込む。

 渡辺監督は言う。

 「アスリートとしての自立心が芽生えてきた2人は昨年も厳しい試合を勝ち抜いてきた。何をやったら勝てるか肌感覚で体験している強みを生かし、より高い位置に引っ張ってほしい」

 チームは今夏も名寄地区を勝ち抜いた。13日、2年連続となる北大会の開幕試合に臨む。(鈴木優香)

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