輝くようなオレンジ色にプリッとした黄身のブランド卵「あかねの虜」。2024年3月の販売開始から臭みのない味で人気に。28歳の若き養鶏家は、家族の協力を得ながら、こだわりの平飼い卵で日本一を目指す。

レストランでも主役になる濃厚な卵

福岡・飯塚市のあかね農場。8棟の小屋では約7000羽のニワトリが“平飼い”で育てられている。「犬を飼ったり猫を飼ったりしてかわいいとめでているのと同じで、私もニワトリがかわいいなと思います」と話すのは、農場長の山崎登希代さん(※山崎さんの「崎」はたつさき)、28歳。

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小屋に入る時には、ニワトリを驚かさないように必ずコンコンとノックして入るほどの気の使いようだ。急に開けるとびっくりして「バーッと逃げちゃう」という。そして小屋に入ると「おはよー、おはよー」と山崎さんがニワトリに声をかける。

山崎さんが育てている「あかねの虜」は、福岡市のホテル、グランドハイアット福岡で採用され、7月からはランチやディナーのメイン料理に「あかねの虜」を主役にしたメニューも提供されている。

「実際に食べてみて、本当に感動したんですよ。この卵は“主役”になる食材だと。それで、ぜひランチ、ディナーでも使おうと」考えたと、グランドハイアット福岡のレストラン料理長・深佐彰博さんも絶賛する。

とろりと濃厚なポーチドエッグがのったポルチーニ茸のカルボナーラ風リゾットに、牛フィレ肉の味を引き立てるのはタマネギと卵を使ったソース。「濃厚さというのが第一で、食べたときの重みというか、感じが全然違います」と深佐料理長がその魅力を語った。

原点は「卵をお腹いっぱい食べたい」

山崎さんの作業は、ニワトリが産卵箱の外で産んだ卵を回収することから始まる。

農場を始める以前は一般の企業で働いてきた山崎さんだが、幼い頃から「とにかく卵を『お腹いっぱい食べたい』」と卵に対して深い思いがあった。

「私、4人姉妹の長女で、途中から母子家庭だったので、卵かけご飯にするときに卵を1個、割って溶いたものを皆のご飯にかけていたから、白いご飯に1人1つの卵を割るっていうのにすごく憧れてたんですよ」と山崎さんは原点を振り返った。

社会人になると、全国の卵について勉強を始め、次第に養鶏家になりたいという思いが募る。

しかし、「農家なんか汚い」「女の人がやる仕事じゃない」など、周りから聞こえてくるのは、反対の声ばかり。それでも、養鶏家の夢は諦められず、自宅の庭に平飼いの小屋を建ててヒヨコから育て始めた。その時、山崎さんは「平飼い卵はうまい」ということに気付いたという。

そして幸運が訪れる。山崎さんが働く企業が、養鶏場を始めることになったのだ。山崎さんはそこで農場長を任されることに。「大チャンス!みたいな感じでした」と山崎さんは話す。

山崎さんが働く株式会社メメントの森智寛代表は「卵の良さやニワトリが頑張って作ってくれていることを、お客さんに真剣に、かつ熱くしっかり話せる。『山崎さん以外ならやらない』ぐらいの感じ」だったと振り返り、「やっぱり任せてよかった」と話す。

ニワトリが快適な環境にこだわる

自ら探し歩いたというエサにもこだわりがある。
無添加のカツオ魚粉やうまみ成分の海藻など、0.1%単位で配合を研究し、卵の味や色などを追求した。

またケージがコンクリ―トだとニワトリの足裏がボロボロになってしまう恐れもあるので、足の保護や体の汚れを落とすための砂浴びができるよう、地面にはもみ殻と砂を敷くなど、ニワトリにとっての快適な環境を与えている。

ストレスを感じさせない取り組みが臭みのない卵の味につながり、「あかねの虜」は広く周知されるようになった。

発売と同時に、県内のスーパーでも取り扱いを開始。1週間に一度の入荷分は、毎回完売するほどだ。

ただ、平飼いの場合は広大な敷地が必要で、飼育できるニワトリの数も制限されるため、全国の卵のうち5%ほどしかないという。

卵でかなえたい「みんなの幸せ」

養鶏家として歩み始めたばかりの山崎さんにとって、今は踏ん張り時だ。

6歳と4歳の子どもを持つ母親でもある山崎さんは、自宅から片道約50分かかる養鶏場に、週に3日ほどは泊まり込む。山崎さんが不在の日は、基本的に夫の雄也さん(28)が食事の支度をするという。

「いろいろ優しくしてくれる。寂しくはないけど、パパがおるから大丈夫」と4歳の唯央ちゃん。6歳の大惺くんも「ギュッとしてくれるところが好き」と笑う。1日1冊、必ず一緒に本を読むなど、子どもたちとの時間は惜しまない。

夫の雄也さんも「応援はしてますし、ここまで来たら何があってもやってほしいなと。僕の方が厳しいのかもしれないんで、逃げるなとずっと言っているので、最後まで頑張ってほしいなと思います」とエールを送る。

家族の協力を得ながらの農場長1年目。こだわり抜いた自慢の卵で目指すのは日本一だ。「平飼い卵といえば『あかねの虜』。平飼い養鶏場といえば『あかね農場』というふうになっていきたい」と意気込む。

「人も鳥も、みんなの幸せがつながっていくみたいなのを、この卵でかなえたいなって思います」と山崎さんは笑顔で語った。

愛情のこもった平飼い卵「あかねの虜」は、スーパーやインターネットで販売されている。

(テレビ西日本)

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