包括連携協定を結んだJR九州の古宮洋二社長(左)と福岡県篠栗町の三浦正町長=同町で2024年7月11日午前10時02分、久野洋撮影

 JR九州が、福岡市郊外の自治体との関係強化に乗り出している。九州全体ではローカル線の利用が低迷する中、福岡市周辺では人口増加を背景に乗客が伸びている。こうした「ドル箱」を育てようと駅を中心とした街づくりを自治体と進めたい考えで、まずは篠栗・香椎線沿線の2町と包括連携協定を結んだ。

 「人口が増えており、大きなターゲットだ」。JR九州の古宮洋二社長は5月、福岡県粕屋町と包括連携協定を締結し、そう語った。町内には篠栗・香椎両線の計6駅がある。町は駅を核としたコンパクトな街づくりを進めており、JR九州も駅舎への保育園整備といった駅の機能強化や、駅中心の交通ネットワークづくりに協力する。

 7月には隣の篠栗町とも同様の協定を交わした。町内には篠栗線の3駅があり、駅周辺の利便性向上や住民の生活サービスなどで協力する。町内には寺院も多く、「福岡市は観光地が少ない。相乗効果を生み出せる」(古宮氏)と観光PRでの連携も約束した。

 JRは九州の各県や長崎市など県庁所在地と包括連携協定を結んできたが、町との協定は今回が初めて。従来は広域的な観光集客や新幹線駅再開発での協力などが中心だったが、2町とは駅を中心とした街づくりへ向け、JR側から打診した。

 福岡都市圏では九州各地からの人口流入を背景に宅地やマンションの開発が進む。鹿児島線や西鉄天神大牟田線に沿って郊外でも地価高騰が続き、近年は割安感が残る篠栗、粕屋両町でも開発が盛んだ。両町と福岡市を結ぶ篠栗線の輸送密度(1日1キロ当たりの平均旅客数)は22年度、2万9744人(吉塚―篠栗)で国鉄分割民営化(1987年)当時の2倍。JR九州の在来線約60線区の中でも4位の賑わいだ。

 JR九州は両町について「今後の伸びしろも大きなエリアだ」(古宮社長)と評価。人口増加に加え、駅周辺の駐車場整備やバスなどの2次交通の利便性を高めれば、マイカー利用者からの掘り起こしも見込めるという。さらにJR九州はグループで不動産や小売りも手がけており、両町での事業拡大を狙う。

 地方のローカル鉄道を巡っては、人口減少やマイカー利用が進んだ結果、国鉄民営化以降は利用の低迷が加速し、乗客が半分以上減ったローカル線も多い。民営化当時の路線統廃合の際、輸送密度4000人がバス転換の基準とされたが、現在はJR九州の約60線区の半分が、基準を下回っている。

 もともと国鉄時代の駅は蒸気機関車の煙を避けるために町はずれにあるケースも多い。近年は幹線道路沿いに大型商業施設ができるなど、マイカー移動を前提とした街づくりも目立ち、鉄道は苦戦を強いられてきた。JR九州は、自治体との関係強化を通して人口増加地域での鉄道の存在感を高めたい考えだ。【久野洋】

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