「年齢を重ねるほど婚活は厳しい戦いになりますよね。好きな映画を観たり音楽フェスに行ったりする時間をすべて費やして、休日は複数のお見合いをやっていた時期もありました。
それでも結果が出なくてしんどかったとき、大宮さんの連載を読んで『こんなに多くの晩婚さんがいるのだから私にも相手がいるはず! 結婚できるはず!』と励ましてもらっていたんです。ときには泣きながら読んでいました。だから、婚活が悩んでおられる方がいらして、私のエピソードが励みになるならと思います」
7年間の婚活を経て、43歳で結婚
大阪駅近くのビストロでこんな嬉しいことを言ってくれるのは、関西地方で任期付きの公務員をしている鈴木聡子さん(仮名、44歳)。つらいことが多かったという婚活は7年間に及んだという。
大手の結婚相談所で出会った秀樹さん(仮名、52歳)と婚姻届を提出したのが43歳の誕生日だった。医療系の企業に勤続30年の秀樹さんが建てた一軒家で快適な2人暮らしをしている。
短大を卒業するまではバスケットボールに打ち込んでいた聡子さん。ハキハキと話し、いかにも健康そうな雰囲気だ。「働くことが好き」だと自覚しているが、就職氷河期だったこともあって勤務先にはなかなか恵まれなかった。
「倉庫会社で正社員をしたときは、男の人たちに交じってフォークリフトを運転して、重い荷物も運んでいました。でも、同僚から『女のくせに』とパワハラされるようになって、上司も守ってくれないので退職しました。勤続10年だったので私にしては長く働けた職場だったのですが……。
当時の私は男の人とはり合ってガーッと言っていましたが、もう少しうまく立ち回れたかもと今では思います。ものは言いようですから。民間でのいろんな経験が生かせる今の仕事は天職だと思っているので、正規職員になるための試験を受けているところです」
そんな聡子さんが婚活を始めたのは35歳のときだった。実家にいた姉が結婚することになり、母親が一人になるので聡子さんが実家に戻った。父親はその数年前に他界している。
いずれ結婚するだろうと思いながら5年近くも交際していた2歳年上の同僚とは破局してしまった。久しぶりの実家暮らしで気が緩んだ聡子さんは「結婚相手ではなく恋人がほしい」という緩めの婚活スタートを切った。
「使ったのはいわゆる恋活アプリです。100人以上とはマッチングして食事に行きました。そのうち3人とはお付き合いしましたが、長続きした人はいません。無料のアプリなので変な人も当然います。露骨に体目的だったり、既婚者だったり……」
アラフォー以降の婚活は、カウンセラーとの相性も重要
パートナーはいなくても、ライブや音楽フェスに行けば楽しい。でも、何かが欠けている気がする。尊敬していた父はすでにいないし、仲のいい母もいずれはいなくなる。兄と姉は家庭があって子育てに忙しい。甥っ子姪っ子を可愛がっているけれど、本心では自分の子どもが欲しい――。遊び相手ではなく結婚相手が必要なのだと悟ったとき、聡子さんは40歳になっていた。
「2人の友人が結婚したという大手の結婚相談所に入会しました。でも、お見合いしてから何度かデートしたのに理由がわからないままフェイドアウトされたり。コロコロ変わる担当カウンセラーは親身になってくれず、嫌になってしまって1年で休会しました」
アラフォー以降の婚活は男女ともに苦しいことが多いので、結婚相談所の場合はカウンセラーとの相性は重要だ。「この人の言うことなら耳を傾けられる」「会うだけで元気をもらえる」という信頼感を持てなければ、お見合い相手探しから成婚に至るまでのさまざまな局面を乗り切るのは難しい。
聡子さんは以前から気になっていた別の大手結婚相談所に切り替えた。明るく前向きなカウンセラーが揃っていて、自分の性格に合っていると感じた。そして、入会1カ月後にお見合い申し込みをしてくれた秀樹さんと会うことになった。
「できれば前後3歳ぐらいの男性と結婚したいと思っていたので50代からの申し込みは断っていたんです。でも、主人(秀樹さん)の写真がいかにも優しそうで真面目そうだったので、お見合いOKをクリックしてしまいました」
その結婚相談所に漂うやたらに前向きな雰囲気に背中を押されての心境の変化だったのかもしれない。しかし、会ってみると秀樹さんは恥ずかしがりの口下手で、「会話のキャッチボール」ができない相手だった。
「何を考えているのかもわからないし、私のことをどう思っているかもわかりません。かなりしんどい時間だったので、(お互いに結婚相手を探す)結婚相談所での出会いでなかったらもう一度会うことはなかったと思います」
そのフォローをしてくれたのがカウンセラーだった。明るい聡子さんと過ごす時間を楽しんでいるという感想を秀樹さんから聞き出して伝えてくれたのだ。気が楽になった聡子さんは何度か会ううちに秀樹さんの美点を見つけられるようなった。
「とにかく真面目な人で、食事中に私が話し始めると箸を置いて傾聴の姿勢になるんです。デートの行き先はいつも私が決めるので『たまにはアイデア出してや』と思ったりしますが、USJでも美術館でも本人もちゃんと楽しんでいるようなので、感覚はズレていないと思うようになりました」
秀樹さんは趣味がないわけではない。ゴルフやバイクに親しんでいる。しかし、聡子さんはどちらにも興味がない。結婚後もゴルフ場やツーリングには秀樹さんは一人で出かけている。
「家を建てるぞ、新婚旅行に行くぞ、といった大枠は主人が決めてくれます。私はいろんなことをコチョコチョ調べる担当です。いい役割分担なのかもしれません。主人は医療現場で鍛えられているので、目覚ましが鳴ったらパキッと起きられるのもすごいなと思っています。私は寝床でグズグズしてしまうほうです……。今では頼れる主人のことがすごく好きです」
お互いの親族を一緒に大事にできる喜び
他にも意外な喜びがあった。聡子さんと同じく、秀樹さんも兄と姉がいる末っ子で、しかも年齢が離れている。甥っ子はすでに結婚していて子育て中だ。秀樹さんの両親は末っ子の結婚相手である聡子さんをカラオケブース付きの家でいつも大歓迎してくれる。
「特にお父さんは周りにいる人のことを大好きな人で、私の甥っ子や姪っ子にもお年玉を用意してくれるんです。私の父も人好きだったので、葬儀にはびっくりするほどたくさんの人が来てくれました。主人と結ばれたおかげで、父親が再来したような気持ちになれています」
この連載の一覧はこちら秀樹さんも聡子さんの母親のために車を出してくれたりしている。お互いの親族を一緒に大事にできるのは結婚生活の大きなメリットだ。実の親とは衝突しやすくても相手の親とはほど良い距離感で付き合えたりする。人間関係の妙味だと思う。
「私は結婚前から妊活サプリを飲んでいました。主人も子どもが欲しいと言ってくれているので、1年ほど不妊治療をしているところです。今のところ結果は芳しくないので、45歳をめどに終わりにしようかなと思っています」
人生の道のりは決して理想通りにはいかない。別れに耐え、夢を諦めなければいけないことも多い。「もう若くない」と自覚した頃からそういう悲哀はますます増えていく。しかし、肩を寄せ合えるパートナーが傍らにいてくれたら、励まし合って前を向いて歩き続けられるのではないだろうか。
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