電気機関車E500の車端部。貨物列車のみならず旅客列車にも対応するため、取り付ける接続器具が多く、設計に苦労したという=東京都府中市の東芝府中事業所で2024年4月11日、渡部直樹撮影

 すでにJR線内で輸送される姿を見た人も多いかもしれません。

 電気機関車「E500」。東芝インフラシステムズが台湾の公営鉄道会社「台湾鉄道」向けに製造しています。旅客列車、貨物列車両方のけん引を目的とした最高時速130キロを誇る車両。今回は東京都府中市にある製造現場にお邪魔し、出荷前の姿を撮影してきました。

電気機関車E500の先頭部ユニット(左)と運転室ユニット。先端部分には事故の際に衝撃を吸収する「クラッシャブルゾーン」が備えられている=東京都府中市の東芝府中事業所で2024年4月11日、渡部直樹撮影

 外観はとてもシンプルな印象です。外の空気を取り込む吸気口は屋根に配置されていて、側面は平滑。中央部はオレンジ色ですが、運転室の上部は黒色で、その境界線が窓の端から先端部に向けてカーブを描きながら回り込んでいてスタイリッシュです。

 一方、車端部は大迫力です。貨物列車だけでなく旅客列車もけん引することから、客車の制御や、電気供給に使う多数の接続器具が配置されているからでしょうか。

東芝府中事業所内の試験線を走行する電気機関車E500。線路は三線軌道になっている=東京都府中市で2024年4月11日、渡部直樹撮影

 「シーサースクロッシング(渡り線が交差する分岐器)などを連結した車両が通過すると位置関係が大きく動きます。ケーブル間が干渉せず、空気ホースなどが周囲の構造物に当たらないところがどこなのか。配置設計がかなり難しい部分でした」。同社交通システム部の西川明伸さんはそう話します。各部の配置の裏には緻密な検討の繰り返しがありました。その上で、車体下部を覆うカバーの先端部には、万が一にも干渉しないよう高さ約5センチの「切り欠き」をつけたといいます。

 1両の製造には約3カ月、事業所内で行う試験まで含めると4カ月程度かかるそうです。工場内では複数のE500が同時並行で製造されています。「運転室ユニット」「タンクユニット」「コンプレッサーユニット」などが整然と置かれ、真新しい5車両が並んでいる様子は壮観でした。4月17日時点で受注した68両のうち8両が出荷済みで、出荷が終わるのは2026年度の予定です。

電気機関車E500のモーターを冷却するための「たわみ風道」。三軸台車の動きに追従するため段数が多いことが特徴だという=東京都府中市の東芝府中事業所で2024年4月11日、渡部直樹撮影

 完成した機関車はJRや神奈川臨海鉄道の線路を通って浜川崎工場(川崎市川崎区)に搬入し、そこから海上輸送で台湾東部の花蓮港に運ばれます。

 現地では4月3日に大きな地震が発生しましたが、台湾に到着していた車両はすべて無事で、輸送ルートにも問題がないことが確認できました。西川さんは「鉄路は経済発展や物資輸送、復興に不可欠な存在。E500には早期復興という使命を持って活躍してもらいたいと思います」と話しています。

【写真・文 渡部直樹】

電気機関車E500の車端部の覆い。接続器具などが万が一にも干渉しないよう、高さ約5センチの「切り欠き」がある=東京都府中市の東芝府中事業所で2024年4月11日、渡部直樹撮影

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。