藤崎忍社長は赤字続きだったドムドムフードサービスを再建した

赤字続きだった「ドムドムハンバーガー」の運営会社を黒字転換するなど、再建を進める藤崎忍社長(58)。キャリアの原点は、ギャルの聖地と呼ばれた商業施設「SHIBUYA109」だ。専業主婦から初めてアパレルショップで働き、その後、居酒屋を開いた。「見た目もマインドもギャルの同僚から多様な価値観を認める大事さ」を学んだ経験が、働く人一人ひとりの個性を尊重するリーダーシップにつながっている。

【私のリーダー論(上)】

  • 「ドムドムバーガー」社長・藤崎忍氏 全肯定で社員鼓舞

キャリアの原点は「SHIBUYA109」

――39歳で初めて働いた職場がSHIBUYA109のアパレルショップでした。

「友人の母が経営していたアパレルショップの店長として働き始めました。学生時代に通っていた校舎が渋谷にあったので、土地勘があるという自信もありました。ところが働いてみると、10〜20代の自分が知っていた109から様変わりしていました」

「当時はギャル系ファッション人気のピークで、広さ10坪(33平方メートル)のショップで売り上げが4000万円の月もありました。一緒に働く20代のショップ店員もギャルです。髪形や服装はかなり派手でしたが、仕事にはとても前向きで、お客様にも誠実に向き合っていました」

――親と娘ほど離れたギャルの同僚と一緒に働くことに苦労しませんでしたか。

「いいえ。自分自身は小学校からの一貫校に通い、短大を出てすぐに専業主婦になりました。ギャルの同僚と一緒に仕事をしていくうちに、自分の人生では得られなかった価値観を知ることができました。当時の109のカルチャーを誰よりも体現していたのが彼女たちであり、リスペクト(尊敬)の気持ちしかありません。自分よりも優れたファッションセンスを持っているのだから、これまでに培った価値観を押しつけてもうまくいかなかったでしょう」

「お互いの価値観が共鳴し合う経験を得られたこともあり、様々な価値観があっていいと思うようになりました。最近は価値観の異なる相手を認めない人も増えていますよね。もっと多様な価値観と出合い、認め合う機会があった方がいい。ショップ店長時代は、年長者として彼女たちに厳しく接することもありましたが、現在も食事をするなど交流は続いています」

――109で働いた経験は現在も生きていますか。

「ギャルの同僚が熱心に接客する姿を見ていた経験を踏まえて、固定観念にとらわれずに様々な可能性を信じて経営判断できていると考えています。ドムドムハンバーガーには、ファストフードはこうあるべきだという固定観念はありません。カニを丸ごと使ったり、アジフライをはさんだりしたバーガーなど独創的な商品は、ファストフードの常識に縛られていては生まれてこなかったでしょう」

「SHIBUYA109」で働いていた当時の同僚とは今も交流が続く(左から2人目が本人)

仕事は「お客と仲間のため」

――約5年間、109のショップで働いた後、東京・新橋で居酒屋を開きました。

「居酒屋の経営では、一人ひとりのお客様に心を尽くす大事さを学びました。カウンターに座っているお客様の中には、ゆっくりお酒を楽しみたいという方もいれば、会話を楽しみたいという方もいます。一人ひとりに配慮しながら、誰もが楽しめる場をつくるように心がけました」

――様々な職業を経験したなかで、働く意味をどのように考えていますか。

「端的に言えば、自分が所属する企業や団体をもり立てることではないでしょうか。自分のためにというよりも、お客様のため、一緒に働く仲間のために働くことに意味があると考えています」

「仕事が楽しくなると、職場の人間関係も円満になり、仲間が増えると仕事はさらに楽しくなります。109で働いていた際は、ギャルの仲間と一緒に小さなハードルを一つ一つ乗り越えながらショップの売り上げが伸びていくことがとても楽しかった」

――会社の目標を達成しなければならないとのプレッシャーになりそうですが。

「売り上げ至上主義との意味ではありません。最初から売り上げを2倍に伸ばすといった目標達成をめざすのではなく、一歩ずつ踏み出すことで自分の仕事は面白くなることを知ってほしい。売り上げなどの数字は結果として後からついてきます」

「ドムドムハンバーガーでの自分の仕事も、お客様や社員のために会社をもり立てることだと考えています。社員が仲間のために働ける環境づくりに取り組んでいます」

――リーダーとして社員にどのようなメッセージを発信していますか。

「日本で最も古いハンバーガーチェーンとしてお客様に愛され続けてきました。約50年の歴史を継承しながら、スタートアップのように新しいことに挑戦していこうと伝えています」

男女問わず活躍できる社会を

――WOWOWと神明ホールディングスの社外取締役も務めています。日本の企業社会をどのように見ていますか。

「企業社会では、課長や部長といった管理職に就くことが高く評価されがちです。そのため女性の活躍を後押しすることでも、女性管理職比率を30%に高める目標に注目が集まっています。けれども女性だけでなく、男性だって頑張って働いています。性差や年齢、立場を問わず、誰もが活躍していることを認めることが何よりも重要ではないでしょうか」

――管理職を志望しない会社員が増えています。

「管理職になりたくないと思う女性も目立つと感じています。女性のキャリアにとって結婚や出産がマイナスに働くと見られがちですが、まったく違うと思います。結婚や出産も含めて、様々な経験を積むことは素晴らしいことです。例えば、出産で得ることができた価値観や心構えは、本人のキャリアにとって貴重な経験となります。こうした経験を生かすことは、本人にとって大きな意味があると考えています」

「私の学生時代の夢は、お嫁さんになることでした。当時は珍しい価値観でもありません。実際に専業主婦の時は、一生懸命に働いたと思います。主婦業をしっかりできるのだから、別の仕事もできると思えるような社会になれば、もっと女性が働きやすくなるはずです」

(遠藤邦生)

〈リーダーを目指すあなたへ〉

リーダーを目指すには強烈な個性が必要だと思われがちですが、そうではありません。同僚を尊重し、失敗も否定しないことでリーダーとして認められます。

家庭料理でリフレッシュ

小学生の頃から料理の本を自分で買うなど、気がついたら料理好きに。腕前はドムドムハンバーガーでも生かされ、定番メニューの「手作り厚焼きたまごバーガー」は自ら企画して商品開発した。

社長業で忙しい日が続くなかでも料理は欠かさない。週末には家族や友人らを招いたホームパーティーを開催し、プルドポークなど約10品を振る舞うことも。「下準備も含めてリフレッシュできる」。何よりも料理を楽しむ人の笑顔を見られるのが楽しいという。

【過去の「私のリーダー論」】

  • ・「世界の山ちゃん」代表・山本久美氏 優しく厳しく鼓舞
  • ・UNウィメン福岡史子日本事務所長 個々の光る点つなぐ
  • ・米パーソンズ美大・大森美希氏 デザイナーはしゃべる仕事

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