場を沸かし、湯を湧かす――。温泉の泉質をテーマにした2次元アイドルユニット「おんせんし」に注目が集まっている。プロデュースするのはこれまで500湯以上の温泉につかり、温泉インフルエンサーとしても活動する永井千晴さん。異色のユニットにかける思いや、目指す姿を聞いた。
7月、神奈川県の20代女性、追い焚きさん(仮名)は友人と静岡県の熱海温泉に足を運んだ。きっかけはおんせんしだ。2023年11月のアニメ系イベントで誕生間もない同ユニットを知り、魅力にハマったという。
おんせんしは、温泉の泉質から生まれたキャラクターで構成する。追い焚きさんの推しは二酸化炭素泉を由来とする「タンソ」くんだ。「炭酸風呂のようにくっつくと離れないという性格がとにかくかわいい。二酸化炭素泉がある(兵庫県の)有馬温泉に行ってみたい」と話す。
おんせんしのプロジェクトは、エンタメ事業を手掛けるチョコレイト(東京・渋谷)に所属する永井さんのあふれる温泉愛からスタートした。
永井さん「温泉をテーマにしたコンテンツはすでにいくつかあって、その1つが『温泉むすめ』です。でも、温泉むすめの場合、例えば草津結衣奈ちゃんに会いたければ群馬県の草津温泉に行く必要があって。だからこそ特別なんですけど、それよりはもう少し身近なものにしたいなと思ったんです。もちろん有名温泉地にも行ってほしいけれど、近所の温泉でもキャラクターを感じてほしい。そう思って、温泉の中でも泉質をテーマにしました」
おんせんしは全部で10人。単純温泉の「ジュン」や塩化物泉の「シオ」、放射能泉の「ラドン」など、いずれも温泉の泉質がベースになっている。温泉は単独の泉質で成り立っているものもあれば、組み合わせで成り立っているものもあり、メンバーはそれぞれの温泉で「ソロ」「デュオ」「トリオ」など組み合わせを変えながら活動する。
永井さん「泉質の特徴をベースにしながらも、キャラクターとしてどれだけジャンプさせられるかも重視しました。泉質の効能には、諸説あるものもあるんです。例えば『動脈硬化に効く』みたいなものより『アンチエイジング』みたいなものをベースにしようと。でも、時間がかかったり、迷ったりしたキャラクターも多かったですね」
例えばシオのベースになった塩化物泉は、塩を多く含み、保温効果が高い。海の近くにある温泉に多く、ほとんどの泉質と一緒になれる組み合わせの多さが特徴だ。そこで、誰とでも仲良くなれる明るいキャラクターにしていった。
永井さん「泉質的解釈からいくと私の推しは単純温泉のジュンくん。単純温泉は塩を加えれば塩化物泉になるし、硫黄が加わると硫黄泉になる。すべてのもとにもなっているし、何か足りないという解釈もできる。それゆえジュンくんは『圧倒的アイドルを演じている人』という性格にしました。自分は完全体だとみえを張っているけれど、本当は何か欠けている。そこがすごくいとおしいなと思うんです」
23年11月には熱海温泉をテーマにした楽曲「おいで☆ATAMI」、24年3月には有馬温泉をテーマにした楽曲「有馬でアリガト♪」を発表。6月にはテーマ曲として「沸かせ!For you」を発表した。
SNSなどで特に注目を集めたのがその歌詞だ。「血行(結構)いい感じ」「SPAっと流して」「湯浴み(You&Me)」など、風呂を連想させるワードがちりばめられている。
奈良県に住む女性、津田島さん(仮名、25歳)は「楽曲のよさにとりこになり、そのままキャラについて調べているうちにすっかりハマってしまった」と話す。追い焚きさんは「温泉地に基づいた曲と歌詞になっていて、実際に熱海を訪れた際は『おいで☆ATAMI』がガイドブック代わりになりました」と笑う。
永井さん「ばかばかしくて元気になる曲を作ろう、と。令和ではシティポップでクールでエモくてかっこいいものが好まれますけど、私も含めてチームのメンバーは皆、平成育ち。モーニング娘。の楽曲のように印象に残るものにしたかったんですよね。私たちには100個以上の『風呂ギャグ』のストックがあって、世に出していないものもまだたくさんあります」
6月に10人目のメンバー、ジュンのキャスト(声優)を発表し、本格始動した。意識するのは銭湯ライブからブレークした男性ユニット「純烈」だ。
永井さん「愛され方のイメージとして、2次元界の純烈を目指したい。忙しいキャストさんの都合を考慮せずに理想を言うと、できれば直接、その場に行って沸かしたいんです。知名度がそこまで高くない温泉地でも『この子とこの子が沸かしている』というだけで温泉の特徴がわかるようになれば、温泉地を選びやすくなるし、温泉の個性を伝える言語になれる」
「将来的な夢はでっかくて。日本経済にとって重要な観光とアニメの『要』になりたいんです。おんせんしを好きになれば温泉地に行きたくなる。将来的には国の観光を推進するキャラクターにしたいですね」
日本全国の温泉地を「沸かす」存在になれるのか――。おんせんしの今後から目が離せない。
(長田真美)
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