手足口病の感染が拡大している。長崎県では9週連続で警報レベルを超え、多くの保健所で注意が呼びかけられている。子どもだけでなく大人も油断できないこの感染症について、最新の情報と対策を探った。

コロナ後の感染爆発 長崎県9週連続警報

手足口病は、その名の通り手足と口に特徴的な症状が現れる感染症で、手のひらや足の裏、口の中に水疱(すいほう)性の発疹が現れるのが特徴だ。

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手足口病の流行が例年と異なる様相を見せている。

県内では2024年6月下旬から定点当たりの報告数が警報レベルの「5」を超え、その後も「10」前後が続いていた。8月18日までの1週間(第33週)は前の週より237人減っていて定点当たりが「4.6」だったが警報終息基準の「2」は上回っている。このため、警報レベルは9週連続となりここ10年間で最長となっている。

背景には、過去5年間の特殊な状況が大きく影響している。長崎大学医学部小児科の森内浩幸教授は、この現象を「枯れ木に火がつく」という比喩を用いて説明する。

「コロナに対する感染対策をしっかりしている間、他の感染症も流行しなくなった」と森内教授は指摘する。

2019年以降、手足口病の大規模な流行が見られなかったことで、この病気に対する免疫を持たない人々が徐々に増加していったのだ。教授はこの状況を「枯れ木がいっぱいある山」に例える。

「一旦そこにウイルスが持ち込まれると、一気に広がりやすくなる」というのだ。つまり、免疫を持たない人々が「枯れ木」であり、ひとたびウイルスという「火」がつくと、急速に感染が拡大するという構図だ。

ワンシーズンに3度の可能性も!一度かかっても安心はできない

さらに、手足口病を引き起こすウイルスには主に3種類あることも、長引く流行の要因となっている。「2019年以降、久しぶりの流行ということになりますけれども、その間に3つのウイルスどれにもかかっていない子供たち、大人も含めてですけども、すごく増えてしまった」と森内教授は説明する。

この状況下で人々の生活が通常に戻り始めたことで、感染の機会も増加した。「前だったら人と人との接触とかも随分控えていたのが、また元の生活に戻りました」と教授は指摘する。これにより、免疫のない人々がウイルスに接触する機会が急増し、感染が広がりやすい環境が整ったのだ。結果として、2024年の手足口病は例年よりも大規模で長期的な流行となっている。

森内教授は「2019年以降5年ぶりの流行なので、結構な規模でそれ、いつもよりも長く続く」と予測する。長期間の流行の空白期間が、皮肉にも大規模な流行の素地を作り出したのだ。

 大人こそ要注意 「子どもより重症化」のなぜ

主に乳幼児がかかりやすいとされるが、大人も決して安心はできない。大人が感染した場合、より重症化するリスクが高いことが分かっている。森内教授は「手足口病に限らず、大人がかかった方が、子供がかかるよりも重症になる病気っていうのはいっぱいある」と指摘したうえで、「大人の重症化リスク」の背景にある興味深い免疫学的メカニズムを説明してくれた。

その理由は、子供と大人の免疫システムの違いにある。

子供の免疫システムの特徴は生まれつきの「自然免疫」が効果的に機能し、病原体に対して柔軟に対応できる。

「子供は元々生まれつき持っている自然免疫っていうのが上手に働いて、それなりにいろんなウイルス、病原体と上手に対応することができる」と森内教授は説明する。

一方、大人の免疫システムの特徴は、「自然免疫」の機能が徐々に低下し、「獲得免疫(抗体やリンパ球による免疫)」が強く反応するという。「獲得免疫」は異物に応じた攻撃方法を記憶する後天的なものだ。

森内教授は「大人は自然免疫がだんだん、衰えてきている。その代わりに、免疫の力そのものが決して弱ってるわけではなくて、むしろ若い大人であれば活発に動いている」と話す。

この違いが重症化の原因となる。大人の免疫システムは、ウイルスに対して強力に反応するが、それが逆効果となることもあるのだ。「まともに抗体とかいろんなリンパ球などが攻撃をすると、その攻撃の力が強いために症状としては強くなってしまう」と森内教授は説明する。具体的な例として、発熱のメカニズムを挙げ、発熱は入ってきたウイルスに私たちの免疫の仕組みが反応して出しているもので大人の強い免疫反応が高熱を引き起こし、結果として症状が重くなるのだという。

このように、大人が手足口病で重症化しやすい理由は、皮肉にも成熟した免疫システムの「過剰反応」にあるといえる。

「アルコールでは死なない」正しい予防法は

手足口病は主に飛沫感染と接触感染で広がる。咳やくしゃみのしぶき、あるいは感染者の便に含まれるウイルスが原因となる。

手洗いが最も効果的な予防法だが、ただ洗えばいいというわけではない。「指の間や爪の中、手首まで丁寧に洗うことが大切です」と具体的な方法を示す。

注意すべきは、このウイルスはアルコールでは死滅しないこと。「石鹸と流水で十分に洗い流すことが重要です」と教授は強調する。

完全な感染防止が果たして最善か

森内教授は、今後の展開について「9月以降も警戒は必要ですが、現在のような急激な拡大は落ち着くでしょう」と予測する。しかし、油断は禁物だ。

「完全に感染を避けることは難しいですし、それが最善とは限りません。大切なのは、重症化を防ぐこと。そして、大流行によって医療機関が逼迫する事態を避けることです」と話した上で、最後に「適度な感染予防を心がけつつ、かかってしまったら適切に対処する。そのバランスが重要です」と話した。

手足口病との付き合い方、それは完全な回避ではなく、賢明な対処にあるようだ。正しい知識を身につけ、この大流行を乗り切りたい。

(テレビ長崎)

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