能登半島地震の風化を防ぎ、教訓を伝える「語り部列車」が16日、運行を始めた。第三セクター「のと鉄道」(石川県穴水町)の列車に愛知県から訪れた15人が乗り、車窓から地震の爪痕を眺めながら、被災者の話を聞いた。

 「いま見えて参ります白いガードレール、あの上を、私たち登っていったわけなんです。ちょっと振り返った七尾湾、横一直線に津波の姿が見えました」

 ゆっくり進む列車の中で、「語り部」を務める主任列車客室乗務員の宮下左文(さふみ)さん(67)が話した。元日も、宮下さんは観光列車の案内役として乗車していた。海辺の能登中島駅(七尾市)に停車中に震災に遭い、連結する一般車両もあわせた乗員乗客計48人で津波から逃れるために、近くの高台に向かった。そこで一夜を明かし、翌日、帰り着いた輪島市の自宅は全壊していた――。

 宮下さんは体験を織り交ぜながら、車窓から見える道路の復旧状況や瓦屋根にいまだブルーシートのかかる風景を案内。写真パネルを使って、輪島朝市などの被災状況も説明した。

 穴水駅(穴水町)から和倉温泉駅(七尾市)まで30分余り乗車した竹内正和さん(68)は、愛知県安城市の電気工事業者たちでつくる団体で参加した。「ご本人が実際に災害に遭われて、最後はちょっと涙も流されていて、想像すると目元がゆるむ。ここに住んでみえる方は大変だっただろうと思い、これからももっともっとできる範囲で協力させていただきたい」と話した。

 語り部列車の企画にあたっては、宮下さんはほかの語り部たちと一緒に7月、東日本大震災について学ぶ三陸鉄道(岩手県宮古市)の「震災学習列車」を訪れ、いざというときに命を守る大切さを学んできた。初の語り部を終えた宮下さんは「うんうんと聞いてくださり、お客様に支えられ、助けられた。お見送りのときには、握手して『がんばってね』と励ましていたき、また涙がぽろぽろと。これまでお話を聞いてきた(被災)地域のことも、代弁者として復興のために語っていきたい」と話した。

 「語り部列車」は、当面は旅行会社のツアーに組み込まれる形で運行する。(上田真由美)

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