切れ味の良い子ども用包丁を紹介する川嶋康夫さん=岐阜県関市で

 刃物のまちとして知られる岐阜県関市。ここで製造される刃物類は「高品質でよく切れる」と国内外で高い評価を受けている。そんな産地の技術力を生かし、切れ味鋭い子ども用包丁を作り続けているのが、同市のキッチングッズメーカー「サンクラフト」だ。  「お客さんに商品を紹介すると、たいていの人から『危なくないの』と心配されます」。こう話すのは、同社の常務、川嶋康夫さん(37)だ。他社製品には、万が一子どもが触ってもけがをしないよう、刃が付いていないものもある。だが、川嶋さんの考え方は違う。「切れない包丁を使うほうが危ないんです」  同社が子ども用包丁の製造を始めたのは30年ほど前。食育の先駆け的な存在として知られた料理研究家・坂本広子さん(故人)との縁がきっかけだった。当時はまだ、子ども用の包丁が世の中に浸透していない時代。関で作ってくれるメーカーを探していた坂本さんが、同社を訪ねたことで開発が始まった。  そこで坂本さんが注文したのが「よく切れる」ことだった。「上手に切れた」という成功体験が、子どもの成長につながる。切れ味の鈍い包丁では、無理な力が入ってしまい、逆に大けがをするリスクもある。こうした考えから、同社では大人用の高級包丁と同じ鋼材を使用して、十分な切れ味を担保している。  こだわりはほかにもある。刃の部分は一般的な包丁とは違い反っておらず、まな板に対して平行になるよう直線的な形状にした。手首の使い方が未熟な子どもでも、真上からストンと包丁を下げるだけで食材が切れるようにする工夫だ。持ち手の部分は、弱視でも視認しやすい配色に。2カ所にある赤色の目印が手で隠れるようにすれば正しく包丁が持てる。  「上手に切れたとき、子どもは本当にいい笑顔をしてくれます」と川嶋さん。テイクアウト需要が伸びる現代でも、台所に成長の場があると信じている。   文・写真 大野雄一郎

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 関で刃物を探すのに便利なのが、2021年3月にリニューアルオープンした「岐阜関刃物会館」。約2千点の刃物を展示販売する。大人用の包丁やはさみ、爪切りなどを取り扱い、持ち手の握り具合を体験できるコーナーや、包丁に名入れするサービスも実施。子ども向け刃物の専用売り場=写真=も設けている。  最近は外国人観光客も増えているといい、運営組織の専務理事、桜田公明さん(67)は「デザインが美しい商品も多い。ぴったりな刃物を探しに来て」と話している。


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