宿泊税や外国人観光客からの徴収金のあり方について有識者会議の福島伸一会長(右)に諮問する吉村洋文知事=大阪市中央区の府庁で2024年4月24日午後3時44分、藤河匠撮影

 将来的なオーバーツーリズム(観光公害)対策として、大阪府が全国に先駆けて検討を始めた外国人観光客への徴収金制度の行方に注目が集まっている。吉村洋文知事は当初、2025年大阪・関西万博が開幕する来年4月の運用開始を目指すとしたが、課題も多く、見通しは立っていない。【東久保逸夫】

全国で前例なく、業界の反発懸念

 制度検討のきっかけは3月府議会中だった。吉村知事は外国人観光客の快適な滞在と地域住民との共存を挙げ、景観美化などに充てる財源確保の必要性を訴えた。徴収方法として、ホテルなどを利用する際に支払う宿泊税と同じく、府内の施設などを利用した際を想定していると説明した。

建設が進む大阪・関西万博の会場=大阪市此花区で2024年3月11日、久田宏撮影

 宿泊税については既に府が17年に導入した。現行は1人1泊7000円以上のホテルなどに宿泊した場合、国籍や居住地に関わらず料金に応じて100~300円を課税している。

 各自治体の条例で徴収できる「法定外税」の位置づけで、国の同意も必要となる。だが、今回のように外国人を主とした課税は全国で例がなく、租税条約が禁じる差別的扱いに当たる可能性がある。

 さらに徴収方法も一筋縄にはいかない。在日外国人らに「訪日客ではない」と証明するための身分証を提示してもらう必要があり、施設側は予約システム改修の事務手続きも生じる。煩雑となって利用を敬遠することも予想され、業界団体から反発を招きかねない。

「閉幕後実施を」BIE事務局長

 早急に検討が進むとみられた議論に突如「待った」の声も掛かった。万博開幕1年前にあたり来日した博覧会国際事務局(BIE)のディミトリ・ケルケンツェス事務局長が吉村知事らとの意見交換会で、「(徴収金制度は)万博後の導入を考えてほしい」と要望し、再考を迫ったためだ。

JR大阪駅構内で販売されている大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」のぬいぐるみ=大阪市北区で2023年12月4日、佐藤賢二郎撮影

 万博には海外から約350万人の来場が見込まれており、徴収金は「歓迎されていない」とのメッセージになりかねない。とはいえ、府内への訪日外国人観光客は2月に約110万人と新型コロナウイルス感染拡大前の水準を超え、制度構築を急ぐ府の思惑とBIEの懸念が交錯する。

 ケルケンツェス氏の発言について、吉村知事は「無理くり万博に合わせてやるつもりはない。長い目でみて政策をどうするか」との立場だ。24日に導入を検討する有識者会議の初会合があり、インドネシア・バリ島で観光資源保護を目的に導入した観光税など、海外の事例を参考にすることを確認した。委員からは「外国人差別もはらんでいる」「正当化する根拠があるかどうか」などの意見も出ており、今後、慎重に議論を進める方針だ。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。