特集は、憩いの食堂です。長野市の67歳の女性が自宅を改装して食堂を営んでいます。
手頃な価格で評判ですが、定期的に音楽イベントも開催。さまざまな人々が集う温かな空間となっています。
3月21日、長野市吉田―。
♪「東京ブギウギ」
明るい歌声が響きます。
テーブルにはおいしそうな弁当も。
にぎやかなこの空間、実は、長野電鉄・桐原駅近くの住宅街にある食堂です。店名は「和は笑」。
普段は朝7時から夜7時までの営業。
「和は笑」・倉石滝子さん:
「おまちどうさま~」
主は倉石滝子さん67歳。2022年、自宅の1階を改装し、オープンさせました。調理から配膳まで一人で切り盛りしています。
ランチは600円。家庭的な味と手頃な価格で地域に親しまれています。
近所の住民:
「隠れ家的な感じで、外食というよりも家で食べてるようなホッとする感じです」
その食堂で定期的に音楽イベントも開催。
これも倉石さんが目指す食堂の姿です。
「和は笑」・倉石滝子さん:
「和んで笑ってっていう感じで、まずは自分が楽しければいいかなって。それで、お客さんに喜んでもらえれば、自分自身がそれが一番うれしくて楽しい」
市内出身の倉石さんは23歳で結婚、2人の子どもを授かりました。離婚してからはビルメンテナンスの会社で事務の仕事をしながら、子どもたちを育て上げました。
60歳を過ぎ、時間に余裕ができるとボウリングに社交ダンスと趣味を楽しむように。
しかし、2019年、生活が一変します。
倉石滝子さん:
「とにかく夜中に、金づちで足が殴られている感じで痛くて寝てられなくて」
突然、右のすねの骨が壊死する病気にかかり、骨を切って人工骨を入れる手術を受けたのです。
倉石滝子さん:
「しばらく毎日ボロボロ涙を流してましたね、もう何もできなくなっちゃったというのがすごく悲しくて」
1カ月続いた入院。倉石さんはこの先の人生を考えました。
倉石滝子さん:
「何ができるだろうって考えて、やっぱり料理が好きだったので。これからの人生を考えたときに、昔は良かったと考えても戻れないので、だったら前向きに楽しいことを毎日やって過ごせたらいいなと思って。やってなかったら暗い家の中で一人でテレビ見ながらグズグズ泣いて後ろ向きになっていた」
リハビリに励む一方、自宅を改装。「和は笑」をオープンさせました。
午前6時ー。
朝の営業は7時から。その前に1日分の小鉢の料理を作ります。
この日はちくわの磯辺焼きや春雨の酢の物など7種類を用意しました。
朝食セットはご飯とみそ汁に小鉢がついて400円。安さには理由があります。
倉石滝子さん:
「この冬菜とハクサイと、ネギ。ほとんど前のお宅、いっぱい採れると食べきれないからと持ってきてくれる。うちが安くできるのは皆さんのおかげだ」
午前7時―。
常連客(豊野から):
「おはようございます」
朝7時、常連の男性客が訪れました。
倉石滝子さん:
「東京出張だとネギ臭いとダメ?」
常連客:
「全然大丈夫」
常連客:
「きょうは東京に出張に行くので、その前に野菜とってチャージしていこうかなと。料理もおいしいし、気さくな人なので、楽しませていただいてます」
この日、朝の営業で訪れた客は4人。ゼロの日もありますが、やめるつもりはありません。
倉石滝子さん:
「夜勤明けの人とか、仕事行くという人がおみえになるので、ボチボチやっていけばいいかしらって。そんなにもうけとかも考えないで」
ランチ営業は午前11時から。
甘辛いしょうゆダレで焼き上げた肉をご飯にのせた豚丼に、2日間、じっくり煮込んだモツ煮と家庭的な料理が並びます。
ランチは10種類ほどある日替わりの「メイン」から一品選び、小鉢もついてきます。
地域の住民などが足を運ぶ―。
客:
「(味つけは)濃すぎず、薄すぎず、いいと思う」
食事を提供するだけではありません。
倉石滝子さん:
「歌、あれなら必ず来てくださいよ」
客:
「歌大好きだから、カラオケも行くもの」
「たのしみだわ」
3月21日―。
倉石さんが誘っていたのはー。
冒頭でも紹介した音楽イベント。この日はアマチュアバンドの演奏会でした。
住民やサークルのメンバーなど15人が集まり、倉石さんが用意した弁当を食べながら楽しみました。
♪「天城越え」
演歌歌手も飛び入り参加―。
今や名物となったイベント。
当初は「集客」が目的でしたが、発表の場を求める声もあって週1回ほどのペースで開くようになりました。
倉石滝子さん:
「幸せな時間ですね、皆さんが大勢来て、ひとつになって歌を歌ったり、話をしたりっていうことがすごいうれしいことです」
♪「春一番」
高齢の一人暮らしも多い住宅街。食堂はそうした住民の憩いの場になっています。
近所の常連客(74):
「みんなでご飯が食べられて、お話しできて、お歌もやっていただけるし、心の洗濯というか楽しいです」
近所の常連客(79):
「そりゃあもう楽しゅうございますよ。ひとりぼっちの私にしては、みんなお友達になったみたいですごく楽しい。私の生き場所というか生きる場所が見つかりました」
♪「川の流れのように」
後戻りのできない人生。
思い切って開いた食堂は倉石さんが目指す場所に近づいています。
「和は笑」・倉石滝子さん:
「(ここが私の『生きる場所』だと言う人がいましたが?)うれしい。幸せです、本当にやってよかった。やっぱり名前の通りのお店ですかね、皆さんここへ来て、和んでいただいて、笑っていただいてという名前の通りのお店になっていければいいと思う」
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