天然に近い環境で育てられたスッポン=浜松市中央区の服部中村養鼈場で
首を伸ばし、口を大きく開いて威嚇する姿は、怪獣映画を思い起こす。10月半ば、浜松市中央区の浜名湖のほとりにある「服部中村養鼈場(ようべつじょう)」を訪れると、冬眠前のまるまるとしたスッポンが出荷を待っていた。天然に近い環境で育ったスッポンは、鍋の材料などとして県内外の料亭などから引き合いがある。 「食べ物で初めて感動した」と語るのは広報担当の鈴木康正さん(41)。焼いたスッポンの肩の肉は、口に運ぶと、上品な脂とうまみが広がった。「どう猛な見た目なのに繊細な味。面白い生き物」と話す。 ここで養殖が始まったのは1900年。明治時代に東京で魚問屋を営みつつスッポンを育てていた服部倉治郎が、温暖な浜松の気候に目をつけた。スッポンは水温が25度になるとえさを食べ始め、15度になると冬眠に入る。水温が高い期間が長ければ、それだけ餌を食べ、成長につながる。 それでも、11~3月ごろは冬眠し、出荷に適した1キロ前後の大きさになるには3、4年かかる。温泉水などを利用し、冬眠させずに1、2年で出荷するところもあるが、同社は露地養殖にこだわる。独自配合の餌の効果も相まって肉質は柔らかく、臭みもなくなる。「自然のリズムに合わせて育つのでストレスがかかりにくいのだろう」と、鈴木さんは推測する。 ただ、自然との闘いはつきものだ。水温を上げるため水面の水草を除去し、池に日が当たるようにしたり、サギに食べられないようネットを張ったりする。病気にかかる恐れもあるが、安心安全のために薬剤は使用せず、水を入れ替えて成育環境を整えている。 「他のものとは脂が違う」と取引先の飲食店からの信頼も厚い。最近は中華やフレンチ、イタリアンの店でも提供されている。服部征二社長(55)は「『スッポン=スタミナ、生き血』の印象があるが、『スッポン=おいしい』に変えていきたい」と意気込む。 文・写真 加藤祥子 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。