『保護者からのクレームなどの対応は、学校ではなく、市役所が受け付けます』…そんな「専用窓口」を、奈良県天理市が開設しました。

保護者からの「理不尽な苦情や要求」が、ただでさえ忙しい先生の負担を増やしています。そんな現状をなんとかしようと、奈良県天理市が、学校とは別の「保護者対応の専用窓口」を設置。一体どんな電話がかかってくるのでしょうか。


■保護者からの理不尽なクレーム 休職した教員は過去最多の6539人に

小学校の、そうじの時間。子ども同士のちょっとしたいさかいでも先生は、しっかり話を聞き、向き合います。…と思ったら、小走りで急ぐ場面も。

授業はもちろんのこと、準備・丸つけ・生活指導、クラブや委員会活動、そして会議…先生が「忙しすぎる」ことは、まさに社会問題になっています。

この状況で、先生にさらに負担をかけているのが「保護者からの理不尽なクレーム」です。


関西の小学校で働くAさん。

保護者に呼び出され、怒鳴られた経験が何度もあります。

【小学校の教員Aさん】「きつい感じで『なんでこっちが出向かないとあかんねん。お前らが来い』みたいな感じですね」

例えば…
入学したばかりの1年生の同士が、家で遊ぶ約束をしました。
しかし、片方が約束を忘れて外出。
訪れた子は、誰もいない家に勝手に入り、お菓子を食べて、ゲームをしていたということです。
この出来事の怒りの矛先が、担任であるAさんに向きました。

【小学校の教員Aさん】「学校に『お前らの教育がなってないからや』と怒鳴り込んできて、『裁判を起こす』と言われたり、『議員と知り合いで、お前を辞めさせることは簡単なんだぞ』というふうに言われたんです」

夜中になっても保護者の怒りはおさまらず、翌日からは、さらに行動がエスカレートします。

【小学校の教員Aさん】「『ちゃんとお前が教育せえへんからや』ということで、僕の授業を、教室の後ろで腕を組みながら、朝からずっと見ていました」

(Q.保護者の話に納得できた?)
【小学校の教員Aさん】「全く…だって学校関係ないですもんね。もう学校外のことなんで」

事態をおさめるのに1週間ほどかかり、心身に異変が出たと言います。

【小学校の教員Aさん】「眠れない、眠れない…でも寝ないといけないし。しんどかったなぁ…ずっとその人のこと考えてるし」

「保護者からの過度な要求や苦情への対応」。これがひとつの要因となり、うつ病などの精神疾患で休職した教員の数が、2022年度に過去最多の6539人にのぼるなど、深刻な事態につながっています。


■奈良県天理市で「保護者対応の専用窓口」を開設 親の怒りの根底に「保護者の不安や悩み」

このような状況を改善しようと、奈良県天理市は4月から、学校とは別に「保護者対応の専用窓口」を開設しました。

欠席などの日常の連絡は今まで通り学校に入れて、意見や要望などは基本的に市の専用窓口が対応する形をとります。

臨床心理士や学校の元校長などが常駐し、電話やメール、対面での相談に乗ります。

【相談職員】「いや~大変だったんですね」

取材中にかかってきたこの電話は、学校の子どもへの対応に不安を感じている母親からのものでした。連日、同じ人から複数回にわたり電話がくるケースもあるため、どの職員でも対応できるよう、情報共有をしています。

【相談職員】「いえ、とんでもないです。お話聞かせてもらったら」

窓口の開設から約1カ月。対応にあたるスタッフは、効果を感じています。

【臨床心理士・中尾俊夫さん】「怒りの矛先になっている先生たちは、どんなふうに説明しても聞いてもらえなかったり、謝罪をするしかなかったりする。保護者は『どういうことだ』と言って、さらに先生とこじれていくことが多いと思います。その、かみ合わせがうまくいかない場合に、お役に立てると思っています」

また、怒りの根底に「保護者が不安や悩み」を抱えているケースも少なくないと話します。

【臨床心理士・中尾俊夫さん】「保護者の方たちも、ただ怒ってるんじゃなくて、もともと根底に不安がある。子育てとか、学校現場がどんなことをしているのか見えない。話を冷静にしていくと、なぜお怒りになっているか整理できてくる」


■「保護者とのつながりが希薄にならないか心配」と心配する教員も

天理市の教員たちは、どう受け止めているのでしょうか。

【天理市の教員】「専門家の方が入ってくださるというのは、大きいかなと思います。なかなか学校だけでは難しいところを、つなぎやすくしてくれるのはありがたい」

一方で…。
【天理市の教員】「保護者とのつながりが希薄にならないか心配がある。こっちでつながっておきたい部分もたくさんあるので、全てを任せるのは違うなと思う」

本当に先生たちの業務改善につながるのか…天理市は今後も、適切な相談窓口のあり方を模索していきたいということです。


■「教員の負担軽減」「保護者と学校とのつながり」バランスが重要

取材をしてみると、先生も「保護者と話はしたい」ということですが、20件に1件ぐらいは理不尽なクレームが来るということです。

【理不尽なクレーム事例】
・「子供が家で壁を蹴って穴を開けた。学校でのストレスが原因だ!」と家に呼び出された
・「3月のまだ寒い時期に、雑巾がけさせる意味が分からない」と1時間半、つめられた

【大阪大学大学院 安田洋祐教授】「件数としては20件に1件でも、こういったものがあると、時間的・精神的に先生たちが、どんどん追い詰められていく。そうならないための窓口で、すばらしい取り組みだと思います。一方で、保護者との関係性が希薄にならないかと心配の声が教師からあがっていました。どうやって運用するかが難しくて、窓口ではなく教師に聞いてほしいときたものを、窓口にお願いしますと言ってしまうと、『うちの話は聞かないのか』と逆恨みされてしまうかもしれない。逆に、窓口が判断するようになると、今度は遠慮して、聞きたいのに教師に聞けないことになってしまうかもしれない。その辺のバランスを試行錯誤しながら、見出だしていくことが重要じゃないかな。これ、結構時間かかると思います」

これは学校、これは相談窓口、という風にうまく選り分けができて、学校と相談窓口の連携がうまくできると、この制度が機能してくるのではないでしょうか。今後に注目したい制度、奈良県天理市で始まりました。

(関西テレビ「newsランナー」2024年4月30日放送)

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