「甲子園」など注目度の高い高校野球ですが、硬式野球部員は20年前と比べると全国で3万人以上、県内で600人以上減っています。背景にあるのは少子化や競技としての難しさなどとみられていますが、そうした中で部活動としての高校野球は変わりつつあります。新たな取り組みのキーワードは「成長」です。
千坂紗雪アナウンサー
「栗原市の築館野球場です。仙台二高対加美農業高校の試合が行われています。この試合は『リーガ・アグレシーバ』と呼ばれるもので、高野連の公式戦や通常の練習試合などとは異なった特長があります」
「リーガ・アグレシーバ」は選手の成長の機会を増やすことを目的にしたリーグ戦です。全国に同様のリーグ戦がありますが、宮城県では13チームが参加し8月から11月にかけて試合を組んでいます。公式戦ではなく練習試合の一環であるため、7回までの試合を2試合行ったり、全員が出場するイニングを設けたりするなど独自のルールで試合を行い、多くの選手が試合経験を重ねることができます。中でも大きな特徴が、試合後に両校の選手同士で行われる「感想戦」です。
仙台二高の選手
「最後投げてたピッチャーなんですけど、投球のテンポがすごく速かったじゃないですか。それ、どういうことを意識しているんですか?」
加美農業の選手
「自分はテンポというより、チームがちょっと雰囲気悪いなとか、流れが相手に傾いているなというときに、自分でテンポを上げて守備をのせてあげるということをしています」
他にもバッテリーの配球や普段の練習方法など、話題は尽きることなく感想戦は続きました。選手たちはどのように感じているのでしょうか。
仙台二高の選手
「野球に関する話を他の高校とする機会はあまりないので、すごく有意義な時間だなと」
「普段、出場機会がない人も積極的に出られるし、ミスを恐れずに積極的にプレーすることが許されるリーグ戦でもあるので」
県内の「リーガ・アグレシーバ」立ち上げに尽力した仙台二高の金森信之介監督はこう話します。
仙台二高野球部 金森信之介監督
「勝つことは楽しいよねという根本はあるので、勝ちを目指す方法論として、たくさん失敗してもいいよ、そこから考察していこうねという、勝ちをつかむチャンスをたくさん与えるみたいな感じなので。基本は勝ちが生徒たちは楽しい、その中でどんな取り組みができるかというのがポイント」
チームの勝利とともに重きを置かれるようになった、選手個人の成長とそのための機会。「リーガ・アグレシーバ」に参加していた加美農業高校野球部はかつて部員数の減少で廃部の危機にありましたが、「成長」「挑戦」といった言葉がチーム再建の柱となりました。全校生徒140人ほどの加美農業高校。野球部はここ15年、夏の1勝から遠ざかり、2017年には部員数は2人と最も少なく、連合チームを組んで公式戦に出場していました。そんなチームを復活させたのが2019年に就任した佐伯友也監督です。熱心な勧誘で少しずつ部員が増え、今では3学年合わせて26人と単独チームで公式戦に出場できるまでになりました。キーワードはやはり「成長」です。
加美農業高校野球部 佐伯友也監督
「自分自身の成長が実感できる環境が整っているよと話をして。私自身、成功体験というものはいろんなところにあるのかなと思っているので、その日常の中できのうできなかったことがきょうできるようになったとか、こないだの試合でのいろんな失敗がこの練習の中でできるようになったとか、それだけでも成功体験なのかなと」
「成長」や「挑戦」を掲げたことで、高校から野球を始めたいという生徒も入部するようになり、現在、部員の3割ほどが初心者です。
加美農業高校野球部 高橋章良選手
「自分、中学時代は吹奏楽部をやっていました」
(Q、どうして高校から野球を?)
「友達の誘いもあったんですけど、周りの人から『加美農業に行くと佐伯先生という人がいて、その先生野球の教え方もうまいし、人間的にも成長できるから絶対野球部入れ』って周りから言われて。野球部に入ってからいろいろ挑戦させてもらえることが増えて、初心者なのに練習試合に積極的に選手として入れてもらえたり、挑戦する機会を与えてもらっているなと感じています」
3年生の佐藤永遠選手は、中学時代は卓球部、初心者からの挑戦で感じたことがありました。
加美農業高校野球部 佐藤永遠選手
「入部する前はつらいとかそういう気持ちもあったんですけど、実際に入ってみると思った以上に練習に参加できているというか、自分でもできるんだなと実感しました。ある高校と練習試合をしたんですけど、そこでランニングホームランを打ったのが一番感動した試合。監督や顧問の先生方には『野球部入ってよかったじゃん』って、すごくうれしい言葉をかけていただいて、自分自身も野球を続けてよかったなって感じています」
佐伯監督は本人の意思に関係のないところで野球を諦めることがないよう配慮もしているといいます。例えば、保護者の負担軽減のため、親の会を廃止。道具はレンタル可能、冬休み中は遠征費を得るためのアルバイトも許可しています。佐伯監督は高校野球のあり方も多様であることが大事だと話します。
加美農業高校野球部 佐伯友也監督
「甲子園を本気で目指すような高校もあれば、入ったから野球やってみようかなというきっかけになるような学校もあったりとか、いろんな学校があっていいと思います。高校野球はこうじゃなきゃいけないとか、野球をやる以上はこうじゃなきゃいけないとか、そういう固定概念を一旦取っ払って、どういう子供たちでも挑戦できる間口を広げてこちらも迎え入れる環境を作っていくのが大事なんじゃないか」
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