これから本格化する寒さ。防災のための備蓄品も、季節に応じて必要なものが変化する。降雪や凍結の影響がある地域では、暖房器具の確保が重要となる。また、冬になると想定される被害も大きくなるという。冬の防災について、防災マイスターの松尾一郎さんと考える。
<冬の防災:火事で被害拡大>
2022年11月に福島県会津若松市で起きた火事の原因は、石油ストーブに入れようとした灯油がこぼれて引火し、燃え広がったことだとみられている。
空気の乾燥、暖房器具の使用で火事の心配が増す冬は、災害に対しても他の季節より大きな被害が想定されている。
福島県は2022年11月、約25年ぶりに「県内で大規模な地震が発生した場合の被害想定」を見直した。
会津地方で最大の断層「会津盆地東縁断層帯」で最大震度7の地震が起きた場合、最も被害が大きいのは冬だという。暖房器具の使用が増える冬の夕方に災害が起きた場合、死者が1,624人、3万5,970棟が全壊と想定され、このうち3分の1が火災による焼失と予測。焼失件数で見ると「夏の昼」の2倍以上に上る。
<冬の防災:雪の中での避難・救助>
また、火事だけではなく「避難」「救助」にも支障がでる想定だ。同じく「会津盆地東縁断層帯」での地震被害想定によると、建物の倒壊によって亡くなる人は「冬の夕方」は「夏の昼」の4倍を超える。
そして、注意が必要なのは豪雪地帯だけではない。2024年2月、福島県いわき市の国道49号線では冬用の装備が十分ではない車がスタックしたとみられ、大型の車が何台も立ち往生。「雪に慣れない」場所だからこそ甚大な被害につながる可能性もある。
<冬の防災:避難中の健康管理>
能登半島地震の発生から約1週間後に被災地に派遣された福島赤十字病院の医師・渡部研一さんは「夜、トイレに行くのも寒くて行きたくなくなってしまうし、そうすると水分も取らなくなり、脱水やエコノミークラス症候群のリスクが上がってしまうのが一つ。インフルエンザとかノロウイルスとか冬場に多くなるものも含めて、流行りやすい感染症もある」と、冬の避難生活では体調を維持することが難しくなると話す。
また「被災地ではストレスもあり血圧が皆さん高かった。自分の薬を持って逃げられなかった方もいらっしゃると思う。雪道になると取りに戻るのもなかなか大変、夏よりもそういう意味では持病が悪化するリスクが高くなるのでは」と話し、病気が悪化するリスクもあるので、普段から使っている薬をしっかりと持って避難することも大切だという。
<季節に応じた防災>
東京大学大学院の客員教授で防災行動や危機管理の専門家・防災マイスターの松尾一郎さんは「冬場は、豪雪災害、凍結、低温などが、他の災害と相まって、命をなくすことにも繋がる。2014年の大雪で、徳島県では降雪で町一体が停電、孤立地域も発生し一人暮らしの高齢女性が暖房がきかない自宅で亡くなった。災害は、季節を選ばない。場所も選ばない。寒冷地の能登半島の大地震では、電気がない状態で孤立を強いられた地域もあった」と話す。
<その防災の常識は古い!?>
そして、アップデートが必要なのは「季節に応じて」だけではない。これまで正しいと思われてきた「防災の常識」に変わりつつあるものがある。
「地震の時には、風呂に水をためて汲み水を使ってトイレを流すと昔は言われていたが、今は絶対にダメです。下の階に漏水したり、水の勢いがなさ過ぎて詰まりバックウォーターしたりというケースもある」と話すのは。国境なき医師団で医療支援を行った経験をもち被災地での活動や企業の防災コンサルタントも務める辻直美さん。
私たちの防災の知識が、時代に合っていない「古いもの」を信じ続けている可能性があると指摘する。
辻さんによると、消火する際に揺れが収まる前に行動し引火を引き起こしたり、沸かしている鍋をひっくり返して火傷をしたりするケースも多々あったという。
また新常識として「逃げるときは机の下や風呂場・トイレに、と昔は言われていたが、今は全然ダメで玄関が一番いいと言われている」という。「当時はそれでよかった、だけど今は災害がアップデートしてきているので、防災はもっとアップデートしていかないと立ち向かえない」と辻さんは語る。
これから年末年始に向け外出の機会も多くなると思うが、不慣れな場所に行く場合には出かける前に少し「防災」の観点からも心構えをしてほしい。
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