東宝と、東京電力と中部電力が出資する発電会社JERAは29日、JERAの子会社「JERA Cross」を通じて、総面積2万4000坪の日本最大級の撮影スタジオ・東宝スタジオへ、水素発電による電力供給を開始したと発表した。二酸化炭素を全く排出しないスタジオづくりを目指す。

東宝スタジオでは、映画、ドラマ、CMなど、多岐にわたるジャンルで年間300本のコンテンツが生み出されている。
「七人の侍」をはじめとする黒澤明監督作品や、「ゴジラ」シリーズ、「踊る大捜査線」シリーズ(1998~2012)、「海猿シリーズ(2004~2012)、「劇場版コード・ブルー-ドクターヘリ緊急救命-」(2018)などといった数々の大ヒット作品も、このスタジオから誕生した。

作品制作において、欠かすことができないのが電力。東宝スタジオの電力消費量は、小規模商業施設と同等の水準に達するという。ライトなどの照明機材、カメラ機材、編集などのデジタル機材、さらに3DCG背景をリアルタイムで表示する最新のLEDパネルなど、電力の重要性はますます高まっている。

TOHOスタジオ・窪田義弘 プロデューサー:
海外のスタジオに行った際も、スタッフの方は口々に環境配慮に関して話していて、そういったことがハリウッド大作の誘致につながる話も聞いたので、そういう意識が世界的に高いんだなと感じている状況。

主にエンタメ分野で事業を展開する東宝とエネルギー分野のJERAが、24時間365日、二酸化炭素を出さないというカーボンフリーな世界を目指して、たどり着いたのは、太陽光発電などの再生可能エネルギーと水素発電機の組み合わせだった。
太陽光発電のみでは補いきれない夜間や雨の日などの電力を水素発電で補う。

そして今回、水素だけを使った環境に優しい発電方法で作られた電気の商用利用に日本で初めて乗り出すことになる。

東宝がエンタメ業界の先駆けとして二酸化炭素を一切排出しない電力の導入を始めた理由について、TOHOスタジオの島田充社長はこう語る。

TOHOスタジオ 島田充 社長:
まずはエンターテインメント企業として、東宝の社会的役割として先進的に取り組まないといけない役割になっている。映画づくりが今まで、環境にそれほど配慮した形でやってはこなかったので、最初に東宝が一歩踏み出さないと、他社や他の業界の方のきっかけにもならないと思っている。

両社は、2021年12月に映画制作のゼロエミッション化に向けた覚書を締結。
そしてプロジェクトの構想から電力の供給開始までは約2年。

JERAは2024年9月からドイツから日本へ水素発電機の海上輸送を行うなど、袖ケ浦火力発電所の構内への「東宝スタジオ専用の水素発電設備」の設置に向けて作業を進めてきた。
そして建設工事や試運転が完了したことから、電力供給の開始となった。

水素発電機の4面には、東宝らしく「ちびゴジラの逆襲」という東宝のIP(知的財産)がラッピングされた。

供給開始までの道のりについて、TOHOスタジオの島田社長、そしてJERA Crossの一倉健悟取締役執行役員は次のように振り返る。

TOHOスタジオ 島田充 社長:
すごく長いプロジェクトだった。ようやくこの日を迎えられたという思い。
まさに3年がかりのプロジェクトにようやく一つの区切りがついた。

JERA Cross 一倉健悟 取締役執行役員:
本当にゼロから作ったプロジェクトで、本当に感慨深い。いかに二酸化炭素を出さないような仕組みを作るかといったところの次の未来へ向けたチャレンジをしているのは珍しい。

今回の東宝とJERAの取り組みは「24/7カーボンフリー」という考え方に基づくもので、24時間365日、いかに二酸化炭素を出さないためにどのように電力を作るかという点で、これまでとは異なる概念だという。まだ世界にも浸透していない環境配慮への考え方に東宝はこだわった。

東宝スタジオのカフェテリアやメインゲートなど6箇所には、スタッフやキャストなど働くすべての人に環境配慮への意識付けができるように、スタジオの電力需給をリアルタイムで把握できるモニターも設置。

東宝スタジオの年間の消費電力量は一般家庭約1500世帯分の電力で、今回の水素発電の商用利用によって1日あたり約5~6トンのCO2の削減が可能になる試算だ。

最初は化石資源から抽出するグレー水素を活用して、徐々に再生可能エネルギーを活用したグリーン水素に切り替えることで、二酸化炭素の使用を徐々に減らしていく。

東宝は、東宝スタジオでは2030年ごろに二酸化炭素の排出ゼロを目指すほか、東宝全体としても2030年までに2017年比で50%の二酸化炭素削減を目標に掲げる。

映像コンテンツに欠かせない電力も、環境に優しいものでなければ、持続的に楽しむことはできないとして、東宝は新たな一歩を踏み出す。

TOHOスタジオ・窪田義弘 プロデューサー:
作品としても、環境に配慮した作品ということの付加価値というようなものが公開するときに広がっていくことで、受け取っていただく観客の方々や、社会全体に環境配慮っていう何か気付きみたいなものにつながるんじゃないかなというような期待もあるかなと思う。

JERA Cross 一倉健悟 取締役執行役員:
エンタメを代表するような東宝がこうした取り組みで、社会の課題に対して発信をすることが非常に重要だと思っていて、かつエンターテイメントを通じて、一般の方々に広く身近に知ってもらうことにつながると思っていてそういったことを期待する。

TOHOスタジオ 島田充 社長:
(水素発電機の導入は)正直、非常に環境に配慮した電力なので、経済性は、考慮にいれなければならなかった部分ではあるが、まずは弊社のようなところが少しずつ広げて一般の企業の方も含めて中小企業の方も含めて取り組みやすくなるような形になればいいな思う。

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