大阪アタッカーズでシッティングバレーの練習を楽しむ嵯峨根望さん(中央)=大阪市東住吉区で2024年4月27日、滝川大貴撮影
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 パラスポーツのシッティングバレーボールの体験会や講演会を通じて、障害への理解を求めている。東京パラリンピックに出場した元日本代表選手の嵯峨根(さがね)望(のぞむ)さん(36)。幼い頃から両足義足で、心ない言葉や視線に傷つくこともあったが、「障害者は可哀そうではない」と語る。4月に仲間と大阪府シッティングバレーボール協会を設立。活動し続けるのは理由があった。

 コート面積はバレーボールの半分以下。高さ1メートル超のネットを挟み、尻をつけたままボールを打ち合う。大阪府内で唯一のシッティングバレーボールチーム「大阪アタッカーズ」では、障害のある人とない人が一緒にプレーを楽しむ。

大阪アタッカーズでシッティングバレーの練習を楽しむ嵯峨根望さん=大阪市東住吉区で2024年4月27日、滝川大貴撮影
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「義足をとってもいい?」

 代表を務める嵯峨根さんは生まれつき両手足に障害があり、3歳ごろには両足義足の生活になった。保育園に通い始めると、人との違いに気づいた。「スーパーマンみたい」。その頃は前向きに思っていた。だが、小学生になると、同級生や上級生から引きずる足や義足を「ロボットみたい」などと言われ傷ついた。引きずって歩く右足を見られないよう右手でカバンを持ち、プールにはバスタオルで義足を隠して入った。

 自身を変えてくれたのは友人だった。中学2年の夏に友人宅へ泊まった時のこと。義足の装着部分が痛くて我慢できなくなった。友人の前でさえ義足を外すのに抵抗があったが、意を決して尋ねる。「義足をとってもいい?」。すると、友人は「やっと見せてくれるんやな」と笑った。義足を気にしていたのは自分だけだったと気がつき、そこから着替えなどで足を隠すこともなくなった。

大阪アタッカーズでシッティングバレーの練習を楽しむ嵯峨根望さん(中央)=大阪市東住吉区で2024年4月27日、滝川大貴撮影
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 大学2年ごろから始めた講演会では、このような自身の体験を話している。「嫌なことがあったら隠してもいいよ。いつかクリアにできる時がくるから」。講演会では障害の有無に関係なく、全員が前向きになれるよう心がける。「障害があってもみんなと一緒。足がなくても、みんなと変わらないということを伝えたい」

娘の障害を告げられ「俺の子やな」

 大学4年の時からシッティングバレーボールを本格的に始め、2021年の東京パラには日本代表選手として出場した。障害への理解を深めるため、現在は日本代表を引退し、訪問介護事業所に勤めながら講演会やシッティングバレーの体験会を仲間と開いている。

大阪アタッカーズでシッティングバレーの練習を楽しむ嵯峨根望さん=大阪市東住吉区で2024年4月27日、滝川大貴撮影
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 20年には妻ももこさん(34)との間に長女の希咲(きさき)ちゃん(4)が生まれた。嵯峨根さんと同じく、希咲ちゃんも手足に障害があり、生まれる前から医者に告げられていた。

 東京パラの強化選手として練習に励んでいた19年。ももこさんの妊娠が分かり、12月に性別を調べるため2人で病院へ行った。医師が突然、「お父さん、何か障害がありますか?」と尋ねてきた。希咲ちゃんの手足に障害があることを告げられた。嵯峨根さんは「当たり前やけど、その時『俺の子やな』と思ったんです」と当時を振り返る。

大阪アタッカーズでシッティングバレーの練習をする嵯峨根望さん(右)=大阪市東住吉区で2024年4月27日、滝川大貴撮影
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 驚きのあまりか、ももこさんが病院の帰り道などに涙を流している姿も見てきた。それでも2人で寄り添い、希咲ちゃんが生まれるのを待ち望み、20年4月に無事出産した。

 それ以降、嵯峨根さんは積極的に半ズボンをはき、自身の生活などを仲間とユーチューブで配信するようになった。「見慣れてほしい。義足をはいている人を見かけても『義足なんや。ふーん』ぐらいの感じになればうれしい」

大阪アタッカーズでシッティングバレーの練習をする嵯峨根望さん=大阪市東住吉区で2024年4月27日、滝川大貴撮影
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昨年は講演会や体験会を約50回

 いまだに理解されない場面に出くわすこともある。嵯峨根さん夫婦と希咲ちゃんの記事が23年にネットに掲載された。共感のコメントが多数を占めたが、「障害と分かっているのに産むのは可哀そう」などと否定的な反応もあった。嵯峨根さんは理解してもらう難しさを感じた。

 それでも、落ち込み、引きずることはしなかった。「まだ障害に対する理解がこんなところですよ、と(講演会などで)話ができる」と前向きだ。23年には、学校や地域の人権研修などで大阪府内だけでなく、茨城や愛媛、熊本など全国各地に出向き、昨年だけで約50回は講演会や体験会を開いた。

大阪アタッカーズでシッティングバレーの練習を楽しむ嵯峨根望さん(中央)=大阪市東住吉区で2024年4月27日、滝川大貴撮影
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 24年4月には仲間と大阪府シッティングバレーボール協会を設立。東京や千葉、兵庫などにも競技団体があり、背中を押された。シッティングバレーの体験会のほか、協会主催の大会開催などを目指している。今後も講演会やユーチューブなど、さまざまな手立てで発信を続けていく。希咲ちゃん、さらには全ての人にとって生きやすい社会をつくるために。【大坪菜々美】

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