今まで見たことがないほど大量の新聞紙
男性が一人で暮らすアパートは関西の地方都市にあった。間取りは2DKで家賃は月6万円ほど。20年間この部屋に住んでいるが、15年前からゴミ屋敷の状態が続いているという。
今回の部屋の間取り(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)もっともゴミの量が多いのはリビングを兼用するダイニング部分だ。入り口のドアはゴミで圧迫されて開かず、男性はそのわずかな隙間に体をねじ込ませるようにして出入りをしていた。
リビングの扉はゴミでつかえてしまい、開けることができない(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)和室とリビングを隔てるふすまもゴミの圧で動かない。ふすまはゴミの重みで丸く変形している。ソファの上だけはスペースが確保されているが、周りには新聞紙、チラシ、ペットボトル、食品の容器などのゴミが腰の高さまで積み上がっていた。
リビングに比べれば量は少ないものの、和室と洋室も新聞紙やチラシなどの紙類を中心にゴミであふれている。新聞紙に関しては「今まで見たことがないほどの量」とスタッフが驚くほどに溜まっていた。
【画像】「開かずの間」を開けてみた…扉の向こうに広がっていた衝撃の光景を見る(41枚)
「(洋室では)寝ているだけです。テレビも見る機会があれば見るという(笑)」
男性は笑いながらそう話す。ソファの一角と洋室にあるベッドで生活の大半を過ごし、仕事に行く際は押し入れのモノをゴソゴソと探る。一人暮らしなのでとくに不便を感じることもなく、15年間その生活を続けてきた。
リビングダイニング以外にも2部屋あるが、どちらもゴミでいっぱいだ。写真は和室の様子(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)生ゴミ屋敷のほうが作業は楽
ゴミ屋敷の様子から住人の生活が透けて見えてくる。この男性の場合、はじめはリビングを中心に生活をしていたが、ゴミが溜まってくるにつれてベッドのある洋室へと次第に移っていった。
ついにリビングのドアも開かなくなり、テレビを見るとき以外は洋室で過ごすようになった。だから、枕元には焼酎の瓶がズラリと並ぶようになったのだ。洋室の押し入れには腕時計が並べられていた。おそらく、仕事に行く際に身につけるモノをここに集めていたのだろう。
洋室にあるベッドの上にも段ボールが。この上で酒盛りをしていたのだろうか、枕元には酒瓶がズラリと並ぶ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)ゴミ屋敷の清掃をする際は、こうした住人の行動を頭の中で思い浮かべているとイーブイ社長の二見氏は言う。
「ゴミ屋敷は部屋の中で使っている場所とまったく使っていない場所にはっきりと分かれるんです。大切なモノはよく使っていた場所にあることが多いので、ゴミの中に紛れていないか、より注意して見るようにしています。
案件によっては依頼者さんがすでに他界されていることもあります。アルバムの中まで見るようなことはしませんが、写真が出てくると“こんな感じの人やったんや”と生前の生活を想像してしまいますね」(二見氏)
今回作業に入ったスタッフは7名。まずは玄関、洋室、和室のゴミを搬出し、その後にふすまを外してリビングの片付けに取りかかる。エレベーターのない3階からの運び出しはかなりの重労働だ。二見氏によれば、「生ゴミでいっぱいのゴミ屋敷のほうが作業自体は楽」なのだという。
地層になったゴミを根気強く片付けていく(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)「この部屋は新聞紙とチラシがとにかく多かったんですが、長い年月をかけて積み重なることによってそれらが圧縮されていくんです。とくに生活の動線になっていた場所は押し固められていて、掘り起こすと倍くらいに膨れ上がる。だから、ゴミ袋の数もなかなか予想できないですし、生ゴミよりもかなり重量があります」(二見氏)
紙類のゴミが溜まり出すと厄介である。物理的に重いので外に捨てに行くことはもちろん、不要なモノをまとめて分ける作業すら億劫になり、あっという間に積み重なっていく。
この男性も住み始めてから5年間は部屋を綺麗に保てていたが、途中から片付けが億劫になってしまった。
「住み始めて5年くらいして転職して、そこはもうほぼ休みがない。寝に帰ってくるだけみたいな状態が5年ほど続いて、この状態になってしまいました。そのときに体を壊して入院したというのもありまして」(男性)
虫が湧いたりなどはしないが、紙類は厄介なゴミだという(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)結婚相手を10年間一度も部屋に入れたことがない
この部屋を片付けた後は、新居に引っ越して結婚生活を始めるという。しかし、10年交際している恋人には部屋の状況を相談したことはなかった。
「この10年間、一回も部屋に入れてないんです。“入れない状況や”とは言っていますけど、まさかここまでとは思ってないはずです。アカンのでしょうけど変にプライドというかね。もう最後まで黙っとこうかなと」(男性)
ゴミ屋敷となった自宅についてあっけらかんと話す依頼者(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)男性がゴミを捨てられなくなってしまった原因のひとつに、「部屋の広さ」があると二見氏は考えている。都心で総面積の広い部屋を借りようとすると月の家賃が20万円以上になるなんてザラだ。ただ、地方であればこの部屋のように2DKの広さでも月に数万円で借りられてしまう。
「一人暮らしならワンルームでいいんじゃないかと思っています。片付けが苦手な人が広い部屋に住むとえらいことになります。ゴミって“借金”と似ているんです。初めて借金した人はちゃんと返せるか不安に思うこともあるはずですが、慣れてくると400万円も500万円ももう変わらなくなってくる」(二見氏)
ゴミ屋敷もある一線を越えると、片付ける機会を失ってしまうのだ。
午前中の作業で玄関、洋室、和室は空になった。午後の作業は「開かずのふすま」を取り外すところから始まった。新聞紙が地層のようになっていて、大阪桐蔭高校の藤浪晋太郎が夏の甲子園で優勝投手になったとき(2012年)の記事が出てきた。一番下に埋まっていた新聞は2005年のものだ。男性が言うように、やはり20年近く前からゴミが溜まりだしたことがわかる。
大量の新聞紙以外にも、このゴミ屋敷には大きな特徴がひとつあった。それは、趣味のモノが多いこと。押し入れの上段には箱に入ったエアガンが数丁、玄関には的とネットが設置され、射撃場になっていた。ほかにもスノボーやキャンプ用品も充実している。
的が玄関に取り付けられていたり、エアショットガンの箱が積み重なっていたり、サバイバルゲームが趣味だったのだろうか(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)ゴミ屋敷の住人のほとんどは私生活に何らかの問題を抱えていることが多い。心のダメージによって「セルフネグレクト」のような状態に陥り、部屋が荒れていってしまう。
しかし、この男性にはそういった“陰”がないのだ。ゴミ屋敷になってしまった経緯についても、恋人に部屋の状況をひた隠しにしていたことについても、笑いながらあっけらかんと話していた。
「自分の身の回りのことに執着がない方でした。とっておくモノも最小限で、“もう全部いらないです”と言って作業中は外に出ていました。
支払いは分割だったんですが、期日通りに振り込んでくれましたし、最後は結局まとめて支払っていたのでお金に困っている様子もなかったです。部屋の状況に悩んでいる様子もなく、ただただ片付けるのが面倒くさかった。それだけなんだと思います」(二見氏)
片付け後の部屋の様子。改めて、一人暮らしには広すぎる家だ(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)
必ずしも「ゴミ屋敷の住人=不幸」ではない
この連載の一覧はこちら実際のところ、結婚という機会がなければこの男性も部屋を片付けようとはしなかっただろう。そして、変わらず趣味に忙しく楽しい人生を過ごしたかもしれない。ゴミ屋敷の住人としては、かなり珍しいタイプだそうだ。二見氏が続ける。
「この仕事を始めてしばらくは、ゴミの屋敷の住人が100人いたら100人が部屋の状況に思い悩んでいるものだと思っていたんです。もちろん、ほとんどの方が何かしら心に闇を抱えているんですが、すべてがそうではないことを知りました。
お金もあって私生活も充実していて人生を満喫しているけど、ただ部屋の片付けだけは面倒くさくてできないという人もいるんですよね。そういう人は僕らみたいな業者にパッと頼んで、お金で解決してもらったらいいと思うんです。それくらいドライなら僕らも“散らかったらまた頼んでくれるやろ”と心配せずにいられます」(二見氏)
男性も「どうせ頼むなら早く頼めばよかった」と笑う。
「(ゴミ屋敷に住んでいる人は)迷っているよりはもう頼んだほうがいいです早く。最初はこうやって動画撮られるのもどうかなと思っていたんですけど、戒めのためにもいいですわ(笑)」(男性)
イーブイによってこのゴミ屋敷は「なかったこと」になったのだ。そして、心機一転、結婚生活が始まる。
片付け後の部屋を見て感激する家主(写真中央)。台所も綺麗に片付いた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。