イトーヨーカドーを運営する「イトーヨーカ堂」が、数年以内に上場を目指す見込みであることがわかりました。没落するGMSですが、復活できるのでしょうか(筆者撮影)この記事の画像を見る(6枚)

4月9日、セブン&アイ・ホールディングスが、イトーヨーカドー(以下、ヨーカドー)を運営する「イトーヨーカ堂」を中核とするスーパー事業の上場を検討していると報道され、翌日の会見で詳細が明かされた。

4年連続の最終赤字を受けて、ヨーカドーが北海道などの複数地域から撤退するという報道があった際、筆者は3回にわたってヨーカドーのレポートをしてきたが、果たして上場によって状況は変わるのだろうか? 

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会見内容や、現在のヨーカドーの改革の進捗状況を見ながら、その可能性を探りながら、ひとりのヨーカドーファンとして「こんなヨーカドーになったらいいなあ」という想いを胸に、大胆にも復活への提言をしてみた(お節介)。

ヨーカドーの改革を促す「上場」という判断

会見や資料の内容を要約すると、以下のようなポイントが浮かび上がってくる。

まず、業績不振が続くイトーヨーカ堂のスーパー事業について、2027年以降の株式上場を目指す方向で検討が進められているという。

これにより、イトーヨーカ堂に自律的な財務体制の立て直しを促す一方、セブン&アイ・ホールディングスとしては経営資源をコンビニ事業に集中させることができる。イトーヨーカ堂の最終決算が4年連続赤字という状況を踏まえれば、セブン&アイ・ホールディングス側の危機感は相当なものだったと推察される。

セブン&アイ・ホールディングスとしては、コンビニ事業を中心とした経営資源の選択と集中を進める狙いがあるのだろう。上場によって、イトーヨーカ堂に自律的な経営を促しつつ、グループ全体の最適化を図る。それが狙いかもしれない。

……ということで、イトーヨーカ堂には、自力での財務状況改善に向けた抜本的な改革案が求められているわけだが(実際、発表ではイトーヨーカ堂に対する月次モニタリングにも言及されている)、その具体的な内容はまだ明らかになっていない。

資料にも「イトーヨーカ堂のブランドポジショニングの再設計を含む、包括的な成長戦略が不十分である」との文言が確認できる(出所:セブン&アイホールディングスIR資料)

このように、今後の改革案については見えていないところもあるものの、最近の報道では、ヨーカドーの改革は徐々に進行しているともいえる。

例えば、かつての主力であった「アパレル」事業からの完全撤退が発表されており、実際にアパレル大手で、グローバルワークやニコアンド、ローリーズファームなどを運営する「アダストリア」と提携し、店舗のアパレル売り場をアダストリアに委託する動きも出ている。

代わりにヨーカドーが注力するのは「食」の分野だ。今回の発表でも触れられていたように、セブン&アイ・ホールディングスとヨーカドーは食品分野での積極的な連携を続けていく方針だという。さらに、地方店舗の積極的な閉鎖や、都心部での営業強化など、いくつかの具体的な改革も実行に移されている。

ヨーカドーの「顧客理解の欠如」という根本的な課題

このように、いくつかの改革が進んではいるが、根本的な部分での問題があると筆者は思う。ヨーカドー全体に漂う「顧客理解の欠如」の問題だ。

筆者はこれまで、低迷するヨーカドーの原因を探るべく、同社が注力するという都心部(東京23区)の15店舗をすべて訪問し、一消費者の視点からその空間の弱点を分析してきた。その際に指摘した、主な問題点は以下の4つだ。

①どの店舗も、食料品売り場とテナントのチェーンストアにしか客がいない  ②改装に伴い、売り場のあちこちに空きスペースがあり、バックヤードが丸見えになっている③改装店舗では商品構成が大幅に変更されているが、かえってわかりにくくなっている④セルフレジが十分に機能していない

これらの問題点に共通しているのは、「顧客理解の欠如」だと思う。

例えば、④のセルフレジの件で言えば、ヨーカドーの客層は高齢者が多いにもかかわらず、DX推進のためにセルフレジを増やし有人レジを減らした結果、有人レジに長蛇の列ができている光景をよく目にした。

現場レベルで「誰が」「どのように」店を利用しているのか、あるいは利用する可能性があるのかについての把握が不十分なのではないか。上場を機に、ヨーカドーには自社の店舗の強みと弱みを徹底的に分析し、顧客理解を深めることが求められる。ただ、それはヨーカドーにとって最も苦手な部分かもしれない。相当の覚悟が必要だろう。

では、ヨーカドーの強みを生かすためには、どのような改革案が考えられるだろうか。

筆者は、ヨーカドーの最大の強みは「場所」にあると考える。ヨーカドーの多くの店舗は、駅前の一等地に広大な敷地を持っている。このような好立地を十分に活用しないのは、社会的にも大きな損失だ。土地だけ持って、それを活用しないのは、罪だとさえ言える。

かつて、総合スーパーが全盛だった時代は、「立地」と「商品」の両方が魅力的だったため、相乗効果で多くの客が訪れた。そもそも、「商品」自体の供給量が多くなかった時代において、衣料品から食料品までさまざまなものが1カ所に集まっていることは、大きな優位性になったはずである。また、それらがこれまでより安価で手に入ることも、ヨーカドーで売られる「商品」の魅力を高めていた。

しかし、時代とともにさまざまなカテゴリーキラーが登場し、「商品」で勝負することが難しくなったのが、ヨーカドーの現状だろう。「商品」の魅力が低下したわけである。当然ながら、「立地」だけでは集客力を維持できない。つまり、そこに残された「場所」や「空間」をどう活用するかが重要なのだ。

ここで筆者は、こう言いたい。「ヨーカドーよ、プラットフォーマーになれ」と。

ヨーカドー、プラットフォーマーになれ(という願い)

プラットフォームとは、ある商品やサービスを扱う「場所」のことである。プラットフォームにさまざまな商品、つまり「コンテンツ」が集まる。ヨーカドーができるとすれば、そのようなプラットフォームとしての価値を高めることではないか。

ここで参考になるのが、他の商業施設の事例だ。

この点で最近の動きとして興味深いのは、「ミニコストコ」としても知られる、コストコ再販店の例だ。「コストコ」は会員制スーパーマーケットとして知られており、倉庫型の巨大な売り場に大量の商品が並べられているのが特徴。このコストコがミニサイズになり、出店する例が増えている。

例えば、東海地方では、スーパーマーケット「ピアゴ」にこの「コストコ再販店」が入居する例が見られる(ちなみにこうした店舗では、年会費は必要なく、その点でも人気を集めているという)。

(筆者撮影)

コストコの商品は人気が高く、ネットで取り上げられることも多い。一方、その店舗数は多いとは言えず、欲しいけれど買いに行けない人が多いことも事実。「コンテンツ」として優れているのが、コストコだといえるわけだ。

コストコをヨーカドーに移植できないか?

そこで筆者は考えた。例えば、コストコをヨーカドーに移植するのはどうか? 商品を売るだけでなく、フロアを丸ごとコストコにしてしまうのだ。コストコがコンテンツとして優れているならば、ヨーカドーはプラットフォーマーとして、それを取り入れる。

そもそも東京都近辺にはコストコは少ないし、車を持っていない人も多い。コストコに興味はあるが、なかなか使うことができていない……という層は、決して少なくないと思うのだ。

「責任のない立場だから、そんな突拍子もないことが言えるんだ」と思う人もいるだろうが、「コンテンツが集まる場所」を目指して生まれ変わろうとしている場所も実際存在する。渋谷のTSUTAYAだ。

間もなくリニューアルオープンとなる、渋谷のTSUTAYA。令和の「文化のインフラ」になるのだろうか(筆者撮影)

CDやDVDのレンタル、書籍の販売などから、「IPエンタメコンテンツが集まり、ファン同士がつながる空間」へと変化しようとしている。渋谷TSUTAYAの改革が成功するかはまだわからないが、ドン・キホーテやブックオフなど、様々な消費空間をウォッチしてきた筆者には、筋の悪くない改革に感じられる。

あるいは、最近、人が多く集うのは「カフェ」。筆者はここ最近、特に都心周辺のカフェについてリサーチをしているが、休日となると、どこのカフェも行列ができている。

そういえば、ヨーカドーの敷地は大きい。いっそのこと、ワンフロア、すべてカフェにしてみるなどどうだろうか?

郊外のショッピングモールのフードコートに行くと、そこで中高生たちが、だべりながら勉強をしている様子などが見受けられる。彼らは店の回転率の点から言えば、優良顧客ではない。しかし、彼らの存在はショッピングモール全体に活気を与えている。「人がいる」ということの重要性。それを、カフェやフードコートは作れるはず。

ヨーカドーを15店舗見て思ったことの一つに、「とにかく人がいなくて寂しい」ことがあった。せっかく改革を進めたとしても、人がいなくて寂しさばかりが目立っては、運営はうまくいかない。

昨今、都心はカフェが全然足りていない。これは多くの人が感じていることだろう。先日、筆者が何気なく投じたポストに、驚くほど多くの共感が寄せられたのだが、時代が変化したということなのだろう。

(出所:筆者のXより)

ところで、現在、ヨーカドーは前述したアパレル大手・アダストリアとの協働を進めていて、そこではアパレルと食料品との買い回り需要を追求しているらしい。

いるらしいのだが、現状では衣料品コーナーと食料品コーナーがフロアとして分かれていることなども踏まえると、正直、この策がうまくいくかは、よくわからない。

それよりも、明らかに目的があって行く人が見込めるカフェを大胆に進出させてしまったほうが、店全体の活気が生まれるのではないだろうか。実際、アダストリアは「ニコアンド」でカフェ事業も展開している。

二子玉川ライズにある「niko and … COFFEE」。近くに住む担当編集によると「いつも、すごく混んでいる」という(編集部撮影)

いっそ、カフェ事業とのコラボのほうが、光明があるのでは?と思ってしまうのは、私だけだろうか。

「楽しい」空間をヨーカドーに作ってほしい

勝手に、いろいろ書いてしまった。

『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

でも、それぐらいの大胆な改革がない限り、「ヨーカドー」の「場所」としての優位性を生かすことはできないのではないか。

さらに、以上の提案は、GMSのあり方を否定するものかもしれない。

ただ、実質的にセブン&アイ・ホールディングスからも見離され、自律的な改革案を求められている今、ヨーカドーは、本当にこれまでの姿から脱皮しないといけないのかもしれない。

ちなみに、こんなめちゃくちゃ書いているが、私はヨーカドーファンである(じゃないと、23区の全店舗をめぐらない)。日本全国に、私のようなヨーカドーファンはいるはずで、きっと、その人たちは、ヨーカドーという空間で、楽しい体験をしてきたと思う。

だからこそ、ヨーカドーには、これからもさまざまな人を幸せにしてほしい。そして、「空間」という強みを生かせば、きっとヨーカドーはまだまだ人々を幸せにすることができると思う。そう思うからこそ、こんな記事を一本書いてしまうのだ。

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