鹿児島で75年の歴史を誇る「白鳥バレエ」。その記念公演で、85歳のバレリーナが15年ぶりに舞台に立った。年齢を感じさせない演技に共演者も観客も引き込まれ、会場は大きな感動に包まれていた。

その名を世界に…85歳のバレリーナ

鹿児島市を拠点に活動する「白鳥バレエ」は、2024年に創立75周年を迎えた、鹿児島で最も歴史あるバレエ団だ。

「白鳥バレエ」主宰・白鳥 見なみさん(85)
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レッスン場の片隅で入念にストレッチを行う女性は白鳥見なみさん(85)。今の「白鳥バレエ」を作り上げた人物だ。柔らかい身のこなしは、とても85歳とは思えない。

10歳でバレエを始めた見なみさんは、16歳で白鳥バレエの前身「白鳥会」の2代目に就任し、1969年には文化庁芸術祭に地方で初めて参加した。

そんな見なみさんがバレエをする上で大切にしていたのは「世界中にないことをする」こと。そして「力を入れないでやってみよう」という姿勢。腕を上げる動作ひとつとっても、力を入れたときと抜いたときでは、しなやかさが全く違う。その思いで、国内のみならず海外でも公演を行い、白鳥バレエの名は世界に広がった。

70歳で舞台から退き、団長は娘・五十鈴さんに引き継がれたが、見なみさんは指導者として次世代の育成に取り組んでいる。団員の一人は「(この年齢で)ここまで踊れる人は世界にいないのでは?」と驚きを隠さない。

75周年公演で15年ぶりに舞台へ

白鳥バレエ75周年公演を2週間後に控えた練習にカメラが入った。
この公演では見なみさんの人生を描いた創作バレエが披露され、本人も実に15年ぶりに舞台に上がる。

“若き日の見なみ”と“現在の見なみ”が踊るパ・ド・トロワ

「みなさんにまた見てもらえる喜びがある。うれしい」と語る見なみさん。出演するパートは、娘・五十鈴さん演じる“若き日の見なみ”と“現在の見なみ”がいっしょに踊る。
五十鈴さんは「ひたすら一つのことに没頭して走り続けてきた人間像はバレエだけでなく、いろんな人にもつながるエネルギッシュなところを表現したい」と語る。

実は見なみさん、2023年1月に行われた前回の舞台「楽しい劇場へようこそ VOL.2」に出演する予定だったが、本番中のアクシデントで踊ることができなかった。

見なみさんが出演することができなかった2023年の舞台

母が踊るはずだった舞台で五十鈴さんは「白鳥見なみは近い将来、改めて皆さんの前に“不死鳥白鳥”を示すために登場しますので、ぜひともご期待くださいますようお願いします!」と力強く宣言していた。

「白鳥見なみに再び舞台で踊ってほしい」。それが五十鈴さんの願いだ。

“復活の演技”で観客を魅了

2024年11月30日、白鳥バレエの75周年を祝い、会場のホールには多くのバレエダンサーが集まった。

舞台裏で「うれしいような、怖いような」という見なみさんだったが、「皆さんのおかげで75周年を迎えた」と感謝の気持ちを語った。

会場には舞台を楽しみにする多くの観客が列をつくった。いよいよ開演だ。

第1部は見なみさんの物語。娘・五十鈴さんが作ったオリジナル作品である。
舞台袖で教え子たちが精一杯踊る姿を感慨深げにみつめる見なみさん。いよいよ15年ぶりの本番を迎えた。

ピアノをフィーチャーした静かな曲が流れる中、五十鈴さん演じる若き日の自分と、踊りで交わった。

そして、最大の見せ場「リフト」を迎えた。

屈強な体格の男性ダンサーに細身の見なみさんが持ち上げられる。その手足はスッと伸び、年齢を全く感じさせない。客席から拍手が起きた。

見なみさんが長年築いてきた体の使い方。そのしなやかで美しい演技は人々を魅了した。舞台袖に戻ってきた見なみさんは笑顔に満ちていた。

舞台では若い世代の演技が続く。集団での踊りは見なみさんが白鳥バレエで大切にしてきたもの。みんな、思い切り表現していた。

そして、フィナーレで見なみさんが再び登場。全身で表現される15年ぶりの復活の演技は、訪れた観客を魅了した。

公演終了後、舞台では共演者とハグしたり、孫のような世代のメンバーに笑顔で拍手を送ったりする見なみさんの姿があった。中には思わず涙ぐむ出演者もいた。

「75周年のほとんどを作りあげてきた見なみ先生と一緒に舞台に立てて感慨深い」「(見なみさんは)バレエに対して愛のある人。ずっとバレエを愛し続けて75周年。すごいですね」と、共演者がその圧巻のパフォーマンスをたたえた。

白鳥見なみさんの娘・五十鈴さん

娘の五十鈴さんも「本当に幸せでした。母もうれしそうだったし、舞台にかける執念を感じた」と充実した表情を見せた。

そして、見なみさんは「観客の皆さんが感動して『涙が出たよ、うれしかったよ、楽しかったよ』と言ってくださることが私たちのやること。世界のみんなを楽しませるという大きな夢を持って、これからもバレエ芸術に一生懸命頑張ってください」と出演者に語りかけた。みんな、真剣なまなざしで、じっと聞き入っていた。

世界のみんなを楽しませる…。白鳥見なみさんの情熱は、これからも受け継がれていく。

(鹿児島テレビ)

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