学校行事を撮影する「学校カメラマン」の不足が深刻化している(写真:yukiotoko / PIXTA)

運動会や修学旅行、文化祭など、学校行事を撮影する「学校カメラマン」の不足が深刻化している。背景にはコロナ禍と、「激務に報酬が見合わない」という課題があるようだ。

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これから多くの学校で運動会シーズンを迎える。徒競走やリレーで力走し、団体競技に挑んだ記憶は、子どもにも家族にもよい思い出になることだろう。

そんな運動会を写真として残すのが、学校カメラマンだ。

今年2月、ひとつの「炎上」で学校カメラマン不足の実態が表面化した。ある撮影会社が、小中学校の入学式を撮るカメラマン約100人をXで募集したのだ。

すると、「SNSで集めたよくわからない人たちが子どもを撮るなんて、マジで怖い」「何かあったらどうやって責任をとるつもりなんだろう」などと、批判が相次いだ。

「代写カメラマン」が足りない

「Xの投稿は、『代写カメラマン』を募集したものです。本当に人手が足りず、ギリギリだったのでしょう」

関西在住のカメラマン、松本さん(30代・仮名)はそう話す。

多くの場合、学校カメラマンとして撮影実務を請け負うのは、地元の写真館や写真スタジオのカメラマンだ。だが、行事日程は複数の学校で重なることが多く、スタッフだけではまわりきれない。

そのため、助っ人のカメラマンに業務委託して撮影を分担する。彼らは写真館の撮影の代理を務めることから、「代写カメラマン」と呼ばれる。

松本さんは大学で写真を学んでいたとき、先輩の紹介で初めて代写カメラマンを務めた。その後、中堅の卒業アルバム制作会社を経てフリーになり、学校撮影をメインにしていた時期もある。

現在は出版社を中心に活動しているが、「学校写真の師匠」が経営する首都圏の写真館から声がかかれば、代写カメラマンの仕事も請け負っている。

今春も首都圏の入学式の撮影を頼まれた。関西から代写カメラマンを呼ばなければならないほど、人手不足は「深刻」だという。

Xに投稿した会社は必要な人数を確保できなかった。だから、異例ともいえるXでの募集にふみきったのではないか――。そう松本さんは推察する。

写真館の経営者らで構成される日本写真文化協会は、カメラマン不足についてこう語る。

「以前から、学校行事が重なることが原因でカメラマンが不足します。最近はコロナ禍明けで学校行事が再開され、人手不足がクローズアップされているということだと思います」(事務局の澤田京一さん)

だが、昨今の「代写カメラマン」獲得競争はあまりに苛烈だ。なんと2024年4月現在、すでに来年の学校行事のスケジュールが押さえられていたりする。

「今秋の首都圏の運動会の撮影も受けました。10月12日に幼稚園や保育園、小中学校の運動会が集中していて、いまだカメラマンを確保できていない写真館もあるようです。代写カメラマンの募集はいつでもあります」(松本さん)

記者が求人サイトを覗いてみると、すぐに募集が見つかった。

“副業も大歓迎。写真撮影が好きな方、興味がある方にピッタリなお仕事です”

“これからカメラマンとしてやっていきたい、という学生さんもご相談ください!”

記者は長年、写真雑誌「アサヒカメラ」の編集に携わってきたが、代写カメラマン経験者の知り合いは多い。代写をメインにしているカメラマンもいる。だが、学校行事が軒並み中止になったコロナ禍をきっかけに、この業界から去った人は少なくない。

東京商工リサーチによると、昨年1~8月の写真館などの倒産は過去最多の20件だった。

以前からの苦境に加え、コロナ禍で入学式、修学旅行、結婚式などが減少し、関連支援も打ち切られたことが倒産の原因だという。代写メインのカメラマンの窮状は推して知るべしだ。

30年前から報酬変わらず

そもそも、高価な機材が欠かせず、機材を運搬する車も必要なのに、報酬は決して高くない。大手卒業アルバム業者が価格破壊を引き起こし、潰れた写真館はかなりある。

残った写真館も値下げに追従せざるを得ない状況になった。代写カメラマンの報酬は、首都圏の場合、1校につき2万円ほどで、30年ほど前からほとんど変わらないという。

首都圏に拠点を持つ60代の広告カメラマンも「代写の仕事を長年引き受けてきたが、本音を言うと、もうやりたくない」と漏らす。

友人が卒業アルバムの制作をしていて、卒業式や入学式などが重なる繁忙期に代写を頼まれると、断れない。

「ギャラがあまりにも安すぎる。これでは、他のカメラマンを紹介することもできない」

さらに、学校写真の現場は重労働だ。

例えば、運動会では児童生徒全員を確実に写すことが求められる。学校にもよるが、撮影枚数は1日約5千枚。重い機材をかかえて校庭を走りまわり汗だくになった後は、学年別に写真をセレクトして納品しなければならない。

修学旅行の同行撮影では朝7時に東京駅に集合。新幹線での移動から撮影は始まり、名所旧跡をまわる生徒たちを一日中撮影する。夜は11時ごろまで学校や旅行会社と打ち合わせる。翌朝は6時起床、また撮影が始まる――。

「卒業式などの集合写真の撮影が1日で終わればいいですが、ほとんどの場合、欠席者があって、報酬なしで追加撮影がある。それが1回で済まないと、ストレスがたまります。学校はこちらのギャラについては配慮してくれない」(広告カメラマン)

「平日は4泊5日の修学旅行、週末は運動会で30連勤くらいしたことがあります。その間に納品もあるので、とてつもなく忙しい」(前出の松本さん)

写真の仕事に憧れて、今でも学校写真を目指す若者もいるが、実際に働いてみると、あまりにもきついので5年以内にやめてしまうことが多い。ある程度、撮影技術が身についてくれば、ECの商品を撮影したほうが楽に稼げたりするので、学校の撮影には戻ってこない。

理不尽なクレーム

保護者や教職員からクレームを受けることもある。

クレームの定番は、「うちの子の写真が少ない」。全員をほぼ同じ枚数で撮影しても、そう責められることはある。

時に理不尽なクレームもあり、卒業証書授与式で生徒の前髪が顔にかかってしまったりして再撮影になった際、教職員から「プロなのに再撮影はありえない」と激昂されたこともあった。

さまざまな苦労を経て出来上がる卒業アルバムは、カメラマンにとっては成果物でもある。だが、卒業アルバム制作の最大手ダイコロの担当者によると、アルバムにカメラマンの名前が載ることは「まれ」だ。

撮影クレジットが入らないから、学校撮影のカメラマンには提示できる作品がない。そのため「プロ」扱いされず、機材修理の割引サービスを受けられないこともあるという。

松本さんは、それでも「学校写真の撮影が好き」だと言う。大学時代から自分を育ててくれた写真館の師匠への恩義もある。

「学校カメラマンの職務は、家庭とは違う子どもの姿を撮影し、記録すること。写真は本人の思い出になるだけでなく、保護者にとっても大切なものです。この写真文化をつないでいきたい」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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