結石ができる理由はさまざま
尿の中には、シュウ酸、カルシウム、リン酸、尿酸など、さまざまな成分が含まれている。これらの成分はふつう尿の中に溶け込んでいるが、何らかの原因で溶け切らないと固まって結晶となり、それが集まって結石となる。
なぜ結石ができるのか。その原因について、荒川医師はこう説明する。
「結石ができる原因は1つではありません。水分の摂取量が少ない、偏食や栄養バランスの乱れ、ストレス、性差、遺伝的要素、尿路の異常など、さまざまな因子が関与して結石を作ります」
例えば、水分の摂取量が少ないと、尿中のシュウ酸やカルシウムなどの濃度が上がり、結石ができやすくなる。動物性脂肪やタンパク質、糖分や塩分の摂りすぎも結石の原因となる。ストレスが結石を作るメカニズムは明確ではないが、関連するといわれている。
男女で違うかかりやすい年齢
性差については、男女の割合は2.4:1で男性のほうが結石は多い。尿路結石にかかりやすい年代のピークも、男性は50代、女性は60代でズレがある。
「男性の場合は、働き盛りで暴飲暴食しやすい世代が尿路結石になりやすく、女性の場合は、閉経後に女性ホルモンの分泌が減少するタイミングで発症しやすくなります。女性ホルモンの分泌が低下すると骨からカルシウムが流出し、尿中のカルシウム濃度が上がると考えられています」(荒川医師)
実は尿路結石は50年前から増加傾向で1975年と2005年を比べると3倍に増加しているが、2005年と2015年の患者数を比べると、ほぼ変化しておらず、高止まりの状態が続いている(日本泌尿器科学会、日本尿路結石症学会、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会『尿路結石症診療ガイドライン2023年版』)。
理由として挙げられるのが、メタボリックシンドローム(メタボ)の存在だ。
「関係が明らかになっているわけではありませんが、尿路結石になった男性の43%、女性の31%でメタボを合併しているほか、肥満、高血圧、脂質異常などの生活習慣病を併発している傾向があります」(荒川医師)
結石を作りやすくする食生活
尿路結石は再発しやすく、腎臓の形などによって結石を作りやすい体質の人もいる。
例えば、腎臓から尿管への移行部が狭くなっている人、前立腺肥大症で尿が出にくい人などだ。また、特に男性の場合、祖父や父が尿路結石を経験しているとリスクが上がるといわれている。
「尿路結石は一度でも発症したことがある人は一生付き合っていく病気と考えて、結石を作りにくくする生活を意識したほうがいいでしょう。症状はなく、健康診断などの画像検査で腎臓に結石や石灰化があると指摘されたことがある人も同様です」と荒川医師。
尿路結石を機に生活を見直すことは、メタボに起因する、心筋梗塞や脳梗塞の予防にもつながる可能性があるという。
リスクが高い人は、これから紹介する点に気を付けたほうがいいそうだ。
尿路結石の約8割はシュウ酸とカルシウムが結合した「シュウ酸カルシウム結石」だ。
シュウ酸は食べもののアクの元になる成分なので、幅広い食品に含まれている。特に多く含まれているのが、紅茶、コーヒー、緑茶、ココア、ほうれんそう、たけのこ、さといも、さつまいも、ナッツ類などだ。
では、シュウ酸やカルシウムの摂取を控えれば尿路結石はできないのか。
荒川医師は「どちらも極端に大量摂取するのは控えたほうがいいですが、大事なのはシュウ酸とカルシウムのバランス」と言う。
「2つが均等に摂取された場合、腸の中でシュウ酸カルシウムの結晶ができます。腸管は尿道に比べて太いため、ここに結晶ができても問題はなく、便として排出されます。しかし、カルシウムが不足するとシュウ酸が腸から体内に再吸収され、尿中に排出されて、尿路結石となります」
そもそも日本人は食べものから摂取するカルシウムの量が少ない。
加えて、動物性脂肪の過剰摂取があると、さらにカルシウムが不足してしまう。というのも、動物性脂肪は腸内でカルシウムと結合しやすい性質があるため、動物性脂肪をたくさん摂ると結果的に、シュウ酸と結合できるカルシウムが不足してしまうのだ。
糖分や塩分の過剰摂取は、腸ではなく尿中のカルシウム濃度を高める。
また、尿酸も問題になる。
尿酸が増えると、尿酸結石ができやすくなるだけではなく、シュウ酸カルシウム結石もできやすくなる。尿酸は痛風の原因として知られているが、レバーなどの内臓類や動物性タンパク質に多く含まれるプリン体が分解されるときに生じる老廃物だ。
“食べてすぐに寝る”生活も結石を作りやすくしている。
我々は寝ている間に汗をかく。だが、睡眠中は水分を補給できない。すると食事から摂ったシュウ酸や尿酸といった結石のもととなる成分の尿中濃度が上がり、結石ができやすくなるというわけだ。
「結石のもととなる成分が尿中に排出されるまでには、4時間かかるといわれているので、夕食から就寝までは4時間空けるのが理想です」(荒川医師)
結石を作らない生活術とは?
以上のことから、動物性脂肪やタンパク質、塩分、糖質の過剰摂取を控えること、食べてすぐに寝ないことが尿路結石の予防になる。水分は1日2L以上摂ることが推奨されている。
シュウ酸の大量摂取を控えること、カルシウムが不足しないようにすることもポイントだ。例えば、シュウ酸の含有量が多いほうれんそうは、湯がいたあと水分をよく絞れば、シュウ酸の含有量は半分になる。
ほうれんそうは湯がいたあと、しっかり絞ること(写真:タカヒロ/ PIXTA)シュウ酸が多く含まれるというコーヒーや紅茶は、どうしたらいいのだろうか。
「一度でも尿路結石になったことがある人は、1日7~8杯など大量に飲むのは控えたほうがいいです。ただ、コーヒーや紅茶を毎日何杯も飲む習慣がある人が、急に飲むのをやめるのは難しい。その場合には、不足しがちなカルシウムを一緒に摂取するためにも、低脂肪乳を入れて飲むことをおすすめしています」(荒川医師)
ちなみに紅茶に含まれるシュウ酸は、コーヒーの約3倍あるそう。結石が気になる人は、ミルクティで飲んだほうがよいだろう。お茶を飲むなら緑茶よりもシュウ酸の少ない麦茶やほうじ茶がおすすめ。
一度発症した人は特に注意を
動物性脂肪の過剰摂取を控えるといったことは、ほかの生活習慣病予防にも共通することなので、誰もが意識すべきことだが、シュウ酸についてはどうだろうか。
この連載の一覧はこちら「シュウ酸は再発予防のためには気を付けるべきですが、尿路結石を一度も発症したことがない人は、そこまで意識しなくても問題ありません」(荒川医師)
以上のことをまとめると、以下のようなポイントになる。結石ができやすい人はこれらのことに注意するといいだろう(※外部配信先では表を閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。
(取材・文/中寺暁子)
新百合ヶ丘総合病院泌尿器科 尿路結石破砕治療センター センター長荒川孝医師
1979年、北里大学医学部卒。興生会相模台病院泌尿器科尿路結石破砕治療センター所長、北里大学医学部泌尿器科助教授、国際医療福祉大学付属三田病院泌尿器科教授、同院尿路結石破砕治療センター長、国際医療福祉大学医学部腎泌尿器科学教授などを経て2019年から現職。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本尿路結石症学会名誉会員。
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