料金未納のまま連絡が途絶えた依頼者
1度目の依頼は2021年10月のことだった。その様子は、本連載で過去に配信した「『元は掃除好き』ゴミ屋敷で寝る30代女性の苦悩」で細かに綴っている。
当時、関西地方で看護師として働いていた女性は、ゴミで埋め尽くされたワンルームマンションの一室にできた「くぼみ」で眠り、疲れも取れないまま病院の夜勤に向かっていた。
部屋が散らかってしまったのは、マンションのゴミ出しの時間がきっかけだったという。物件の管理側からきっちり指定されたゴミ出しのスケジュールに、タイミングがどうしても合わなかったそうだ。
次第にゴミが溜まっていき、あるときを境に自分一人では対処できない量まで膨れ上がってしまった。
床が見えないほどにゴミ屋敷化してしまった部屋(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)現場に入ったスタッフは2名。約5時間で部屋は空になり、女性も「救われました」と前を向いていた。しかし、半年かけて6万6000円が振り込まれたところで支払いが2カ月間ストップ。その後、支払いが再開するも、9万4000円が未納のまま連絡が途絶えた。
それから3カ月後の2022年10月に、女性からイーブイに連絡があった。前回の未納分を支払える状況ではないが、また部屋を片付けてほしいという。もちろん、その料金もすぐに支払うことができないので分割での契約となる。普通なら断ってもいい依頼だが、二見氏は受けることにした。
「たしか電話が来たと思うんですが、『今まで支払いができずに申し訳ありませんでした』ってめちゃくちゃ謝られていたんです。私も、『せめて未納分を先に一括で支払ってください』とは言いました。でも、どうしても今すぐには払えなかったみたいで。
それに、部屋の写真を送ってもらったら前よりはゴミの量も少なく、費用も10万円台で済みそうでした。
じつは料金が未納のまま連絡がつかなくなる人はそれなりにいるんですが、それでもまた依頼の連絡をしてくれた人って過去に2人しかいないんですよ」(二見氏)
今回の経緯を話す二見文直社長(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)加えて、女性の依頼を受けた理由は、二見氏の過去にもあった。
自分の非を認めて謝ってきた人のことは許したい
中学を卒業してすぐに働き始めた二見氏。10代のころは少年鑑別所に入った経験もあるなど、両親や友人たちに迷惑をかけてしまった時期があった。
「当時、私はいろんな人に助けられました。本当に謝らなきゃいけないことをして、そのうえで実際に謝る勇気って計り知れないものです。昔の経験からその苦しさは私もわかっているつもりです。だから、自分の非を認めて謝ってきた人に関しては、1回は許そうと思っているんです。
経営者としてはダメかもしれないですけど、最初から突っぱねるのは簡単じゃないですか。この女性みたいな人たちを救ってあげることができれば、この業界はもっと繁栄していくと考えているんです」(二見氏)
最初の片付けの様子。ゴミの山から出てきた布団はカビてしまっていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)また二見氏は現在の業界に入る前、友人と古着屋を開き、その経営に失敗したことがある。いろいろな支払いが滞り、クレジットカードを持てなくなったこともあった。
「私はそのとき家に帰ることができずに車の中で暮らしていました。でも、車のローンの支払いも遅れていたのでファイナンスサービスから『車を引き上げます』と連絡がありました。
ただ、この車を失ってしまったら本当に行くところがないので、担当の方に謝って『分割してでも必ず払っていくのでそれだけは待ってください』と頼み込んだんです。
その方が私を信じてくれたおかげで救われました。そういう経験もあって、この女性を信じました」(二見氏)
1回目の未納分と2回目の費用を合わせると24万4000円。2回目の作業後に端数の4000円が振り込まれたが、そこから支払いはパタリと途絶えた。
女性がその胸中を告白する
「○○(女性の名前)さんを信じて作業させていただいた分かなりショックです」
二見氏が女性にそうLINEを送ると、翌日「支払いが滞っている経緯や自分の気持ちを説明させてください」と返事が来た。支払いをせずにそのまま連絡がつかなくなる依頼主はこれまでに何人もいた。しかしこの女性は、連絡はつく。払う意思はある。二見氏は女性に直接会うことにした。
女性から送られてきたLINE(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)二見:まず、1回目の清掃から2回目の依頼までの間に何かあったんでしょうか。
女性:もともと体調面で精神的にちょっと不安定な状態だったんですけど、2回目の作業に来ていただくまでの間に体調が悪化してしまって。
二見:なぜ2回目もイーブイに頼もうと思ったんでしょうか。
女性:1回目に作業に来ていただいたときにすごく親切で丁寧に対応していただいて、ご連絡もしづらかったんですけど、やっぱり一番安心できるのがイーブイさんだったので、またご連絡させていただきました。
二見:支払いが滞っている間ってお仕事とかで何かトラブルがあられたんですかね。
インタビューを受ける依頼者(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)女性:急に手足が痛くて歩けなくなってしまって。その原因は結果的に不明だったんですけど、本当に家の中で歩こうと思ったら四つん這いじゃないと歩けない状態になってしまい、仕事に行けない状態が続いてしまって。お支払いしたい気持ちは本当にあったんですけど、すぐにできない状態でどのようにご相談したらいいかすごく悩んでしまって。
二見:こういった事情さえわかれば私たちも、ある程度は融通を利かせられたとは思うので。たとえば月1万円でも厳しければ月5000円とかでも構わないんで、ご連絡いただきたかったなっていうのが本音ですね。私たちからアクションを起こすっていうよりも、やっぱりお客様のほうからご連絡いただきたかったです。
でも、責めるつもりはなくて。支払いが滞られた方って今まで連絡は一切つかなかったんです。2回目の依頼をするときの心境をちょっとお聞きできればと思います。
最初の片付けで綺麗になった部屋。依頼者はここから再スタートを切ったはずだった(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)女性:一番信頼しているのがイーブイさんだったんですね。ご連絡を長期間私のほうからできていなかったので、人としてはどうなのかと自覚はしていたんですけれども。(部屋が)ひどい状態でもすごく丁寧に親切に対応してくださったので、その気持ちを裏切るような形になってしまって。それを続けているのが本当によくないなという気持ちでした。
連絡が途絶えてしまった理由
二見:2回目に片付けたとき、気持ち的には前に向かれていたと思うんです。
女性:作業に来ていただいた直後は一時的に安定していたんですけど、すぐに悪化してしまって、ご連絡をどのようにしようかなと悩んでいました。
1回目の片付けの後には前向きな言葉を発していた依頼者だったが……(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)二見:悪化というと体ですか、メンタルですか。
女性:どちらもですかね。数年前に突然歩けなくなってしまって、そこから徐々に歩けるようにはなったんですけど、今も手とか足が動かしづらかったりとかすることがあって。動きたいっていう気持ちはあるんですけど、体が言うことを聞いてくれない状態というか。
二見:仕事の悩みとかそういったこともあるんですかね。
女性:ありますね、やっぱり。人間関係ですかね。パワハラとかそういうところですかね。ちょっと詳しく言ってしまうと今の職業がわかってしまうので。コロナで経営状態が悪化したのを、私のせいにされたりとか。そういうので悩んでしまったことありましたね。
二見:連絡が不通になった理由とかってあるんですかね。
最初の片付けではペットボトルが散乱していた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)2回目の片付けでは、部屋は散らかっているもののペットボトルをまとめようとした形跡が残っていた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)女性:やっぱり体調が悪化してしまって、仕事も行けない状態になってしまって。いつからお支払いできますっていうのを言えない状態だったので、それだと申し訳ない気持ちもあって。でも、連絡しないのはもっといけないことだと思うので、気持ちが頭の中でぐちゃぐちゃになってしまって。それでご連絡できない状態になってしまって。
二見:どうにかちょっとずつでも支払ってもらって、また困ったときにはご連絡いただけると嬉しいですし、私たちは気持ちよく作業はさせてもらえるんで。連絡しにくくなるようなことっていうのはあまりしてほしくないです。いつでも連絡してほしいので。
最初の片付けのときよりも、片付けようと努力する依頼者の葛藤が見えた(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)納得はできないが、批判をしても仕方がない
この連載の一覧はこちら女性は二見氏と会った際、5000円を支払った。そして、23万5000円が未納のまま3回目の清掃を依頼したという。
気持ちとしてはやってあげたいが、これ以上は会社の代表として受けることはできないと判断し、二見氏は断った。この女性に批判が集まるのは二見氏も理解している。しかし、動画や記事で配信するのは、何も視聴者にこの女性を批判してほしいからではない。
「私たちが動画を配信する意味って片付けるきっかけづくりだと思うんです。水漏れで工事が入るとか引っ越しとか、それこそ私たちの動画を見たとかいろんなきっかけがあると思うんです。だから、私たちはいろんな角度からいろんなきっかけを提供し続けないといけない。
私はゴミ屋敷をゼロにしたいとか、ゴミ屋敷の住人に二度とゴミ屋敷にならないでほしいとはまったく思っていません。どうしたら部屋を片付けられるかを考えるよりも、誰かに気軽に相談をできる状況をつくるほうが、ゴミ屋敷という社会問題の解決に近づく気がしているんです」(二見氏)
「誰かの救いになれたら」とゴミ屋敷を片付けつづけるイーブイのスタッフたち(画像:「イーブイ片付けチャンネル」より)「経営」という観点で見れば、分割払いの場合は利子をつけたり、そもそもクレジットカード支払いや口座引き落としにしたりするといった対策が合理的だろう。しかし、そういった「水際対策」を講じてしまうことで、救われない人が一定数出てくる。そして、そんな人たちこそを救いたいというのが二見氏の考えだ。
「私も正直、全額払ってもらうまでは納得はできないです。でも、批判をしても仕方がない。この女性みたいな方が逃げられる場所もつくっておかないと。全員で崖に追い詰めてしまったら、もう落ちるしかないじゃないですか」
“追い詰めたら、落ちるしかなくなってしまう”
あらゆる社会問題に対して張られるセーフティーネットを考えるうえで、必要不可欠な考え方だと感じた。
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