NPO法人「にわとりの会」代表の丹羽典子さん=愛知県小牧市内で2024年4月15日午後5時34分、田中理知撮影

 外国にルーツがあり、母国語も日本語も十分に使えない「ダブルリミテッド」と呼ばれる状態の子どもたちがいる。幼少期に来日したり、日本で生まれたりしたため、日常会話には困らないが、年齢相応の言語が習得できずに学校や社会で孤立しがちだ。

 こうした子どもたちの学びを支援しようと、元小学校教諭で、NPO法人「にわとりの会」(愛知県小牧市)の丹羽典子代表(66)はオリジナルの漢字教材を作った。

母語を交え、段階的に

 2011年から作り始めた「にわとり式漢字カード・ドリル」は小中学生の常用漢字を学べる。18年にはアプリ版も完成した。

 例えば「一」を学習するカードには「一日に一つりんごを食べた」の例文を載せた。つまずきやすい音読み、訓読みの違いを、知り合いの通訳の協力を得て英語やスペイン語など最大で10カ国の対訳を付けた。付属の音声ペンやアプリを使えば、音でも確認できる仕組みだ。

 ポイントは、母語を交えて段階的に学んでいけること。丹羽さんによると、外国ルーツの子は一つずつ丸暗記しがちだが、中学卒業までに習う漢字は2000字以上ある。「難しい漢字も部首から関連付けて理解すれば、効率良く、学びやすくなります」

まずは教科書を読めるように

 国語が専門だった丹羽さんは、09年に小牧市立小学校の日本語指導教員に。自動車関連工場の多い同市で暮らす外国人の数は当時から増加傾向にあり、来日した子どもたちが授業についていけず、次第に学ぶ意欲を失ってしまうケースも耳にしていた。

 子どもが自分の思いを伝えられる人に成長してほしい――。そんな思いで国語教諭を志したが「外国ルーツの子どもたちは、それができずに困っているのではないか」と感じていた。

 指導の現場は想像以上の大変さだった。教員3人で、ほとんど日本語が分からない新入生10人を担当したこともある。専用の教材はなく、まずは教科書を読めるようになってほしいと、丹羽さんは漢字カードやドリルの開発に取りかかった。

 教材は寄付した分を含め200以上の小中学校に提供されているほか、にわとりの会が小牧市内で開く日本語指導教室でも使っている。

 これまで丹羽さんが関わった外国ルーツの子どもたちは約500人に上る。「日本の子どもたちと同じように夢をかなえて、自分の望む人生を歩んでほしい」。そう願いながら、これからも背中を押し続ける。【田中理知】

丹羽典子(にわ・のりこ)さん

 名古屋市出身。会の名称は教諭時代、自身の名前から「にわとり先生」と呼ばれていたことに由来する。教え子の大学4年、広(ひろい)ヒオゴさん=ブラジル国籍=は「厳しいが、楽しく学べるよう支えてくれた恩人」と話す。

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