早稲田大の創造理工学部がある西早稲田キャンパス=東京都新宿区で2024年5月15日午後2時3分、森田采花撮影

 2月にあった早稲田大(東京都新宿区)の一般入試で、東京都内の私立高校に通っていた受験生の男性(18)が、試験問題を眼鏡型の電子機器「スマートグラス」で撮影し、SNS(ネット交流サービス)を通じて外部に流出させていたことが捜査関係者への取材で判明した。警視庁は16日にも男性を偽計業務妨害容疑で書類送検する方針。

 通信機器を悪用した大学入試での不正行為は後を絶たない。今回悪用されたとみられる眼鏡型のように小型化が進み身に着けられる「ウエアラブル端末」が普及したことで、不正防止も年々困難になっている。通信機器が進化を続ける中、受験生に過度なプレッシャーを与えずに公平な受験環境をどう守るか、現場は対応に苦慮している。

 通信機器による不正は10年以上前から存在する。2011年に京都大、早稲田大など4大学で実施された入試で、試験中に問題がネットの質問掲示板「ヤフー知恵袋」に投稿される事件があり、男性が京都府警に偽計業務妨害容疑で逮捕された。

 22年1月の大学入学共通テストでは、袖口に隠したスマートフォンで撮影した問題を外部に送信し、解答をイヤホンで聴いていた女性が偽計業務妨害容疑で書類送検され、再び注目を集めた。

 文部科学省は同年6月、不正対策として23年度入学の試験から不正行為の類型や使用を認めない通信機器を募集要項などに明記して受験生に周知するよう大学や大学入試センターに通知。各大学の判断によって、警察に被害届を提出する旨も明示できるとした。

 一方、外部との通信を物理的に妨げる電波の遮断措置についても検討したが、共通テストだけでも100億円程度かかるなどコスト面の理由で対策には盛り込まなかった。

 文科省の通知を受け、早大では入試要項に「スマートフォンやウエアラブル端末の使用は認めない」「使用を認めていない物品を使用したり机上に置いたりした場合は不正とみなすことがある」と明記。広報課によると、24年度入試では試験会場でも机上に同様の注意書きを置いたという。

 ただ、警察に通報する可能性があることは周知していなかった。理由について同課は「まずは不正をさせないような仕組みを強化すべきだという教育的な観点から盛り込まなかった」と説明した。

 東北地方のある国立大は文科省の通知後、募集要項に「不正が発覚した場合、警察に通報する場合がある」と明記した。ただ、担当者は「ただでさえ受験生は緊張しており、さらにプレッシャーを与える懸念もある」と明かす。

 大学入試センターの担当者は「共通テストでは受験票の顔写真と照合するため眼鏡を外してもらうことはあるが、一つ一つの確認はしていない」と話す。不正の発見は試験官による見回りに頼らざるを得ないのが現状だ。

 ウエアラブル端末は今後も小型・軽量化が進み、眼鏡型よりもさらに持ち込みやすいものが悪用される可能性は否定できない。先の国立大担当者は「通信機器の進化はめざましく、包括的な対策は難しい」と吐露した。【西本紗保美、斎藤文太郎】

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