「マシュマロだけしか食べられなかった」
吉野こまちさん(22)は中学3年生のとき、何を食べても、おなかが痛くなる状態が続きました。体重も38キロまで減少。
食道から腸にかけて炎症が見つかり、「クローン病」と診断されました。
腸などの粘膜の炎症により激しい腹痛や下痢などの症状が出ますが、原因は不明。一度発症すると完治が難しく、国の難病に指定されています。
吉野さんは、半年間、入院して絶食。点滴を受けながら過ごしました。
その後も、脂質や食物繊維、刺激物などで腸に負担をかけないよう注意しながら、症状がち着いた「寛解」と呼ばれる状態を目指しました。
症状が落ち着いた後も、吉野さんは徹底した食事制限を続けました。
退院してからの3年間、食べていたのは主に、うどんとごはん、魚と鶏肉を少しだけ。
高校時代、食べることができるお菓子は、脂質や食物繊維がほとんど含まれていないマシュマロくらいだったといいます。
吉野こまちさん
「甘いものが食べたい時は全部マシュマロ。ひたすら色んな味のマシュマロを食べ、友人もマシュマロばっかり買ってきてくれる時期もありました。
やっぱり美味しいもの、周りの健康な方が食べているようなものを私も食べてみたいという思いはすごくありました。やっぱり食事は、娯楽や生きる目標になっていたりすると思います」
IBD患者に「お菓子図鑑」を
吉野さんがかかった「クローン病」は、「潰瘍性大腸炎」とあわせてIBD=炎症性腸疾患と呼ばれています。
若い世代で発症する患者も多く、発症のピークはクローン病が10代から20代、潰瘍性大腸炎が20代から40代となっています。
食事への悩みが尽きないIBDの患者向けに、新たに完成したのが「お菓子図鑑」です。
武田薬品工業が8つの製菓会社の製品について、患者が食べられる目安をまとめ、ホームーページで無料で公開しました。
図鑑にはそれぞれのメーカーの商品ごとに、チョコレート2枚、ポテトチップス4分の1袋など、IBD患者が食べられる目安の量がまとめられています。
監修した東京医科大学病院栄養管理科の宮澤靖科長が「脂質5グラム以内」を基準に定めました。
患者はこれまで、お菓子を選ぶときには、一つ一つパッケージの栄養成分表示を確認する必要がありましたが、一覧にまとめていることで選択肢が広がるといいます。
東京医科大学病院栄養管理科 宮澤靖 科長
「患者や家族から、おやつに何を選んだらいいのか分からないという声を日常的に聞いていました。患者は小学生から高校生が中心で、お菓子を我慢しなければいけないつらさもあったと思います。『お菓子図鑑』を参考にしながら担当医や管理栄養士とも話し合って、食べたいものを食べられる時間を楽しんでもらえれば」
お菓子図鑑のイラストは患者が担当
お菓子図鑑の表紙などのイラストもIDBの患者が担当しました。
ピンク色の腸のキャラクター「チョウ=チャン」を描いたイラストレーターのカメダさん。
2017年にクローン病と診断され、「回腸」という腸の一部を切除する手術を受けました。
現在も定期的に投薬や検診を受けながら、みずからの病気の経験や、食生活などについて、漫画にしてSNSに投稿を続けています。
カメダさん
「チョコレートを食べたくても脂質の制限で食べられないので、親にチョコレートをみじん切りしてもらって、1本1本食べておなかが痛くなったらやめるというチキンレースのようなことをやっていて、漫画にしたら面白いかと思って投稿を始めました」
ハンバーガーとフライドポテトが大好きだったカメダさん。
病気で食事制限が必要となり、食べられなくなったとファーストフード店の看板を見て号泣したこともあったといいます。
お菓子はできるだけ手作りするようになり、スライスしたジャガイモをオーブンで焼いて、ポテトチップスを作ったこともありました。
そんな中で依頼された、お菓子図鑑。
表情豊かな腸のキャラクターとカラフルなお菓子を描いて、明るく楽しい印象になるよう心がけたといいます。
カメダさん
「お菓子図鑑は『これしか食べられない』ではなく、『この量だったら、これも食べられる』という、実用的ですごくポジティブな企画だと感じました。なかなか自分の好きなものを食べられないと落ち込んでいる人にじっくり読み込んで使ってほしいし、私も楽しんで使おうと思っています」
お菓子図鑑を見た患者たちは…
完成した「お菓子図鑑」を見たクローン病患者の吉野さん。
これまで食べられないと思っていたお菓子が載っていることに驚いたといいます。
吉野こまちさん
「スナックは揚げられているイメージがあったので食べられないと思っていたし、小麦麦芽のクラッカーはパッケージに『食物繊維』って書いてあるので、お菓子図鑑に書いていなかったら選ばないと思います。チョコレート系など今まで食べられないと思ってスルーしていたお菓子も、自分のお腹と相談しつつ、無理のない範囲でお菓子に挑戦したいです」
また、患者団体によると、市販のお菓子を食べられる目安についてまとめたものは、これまではなかったそうです。
団体には「おやつを食べさせたいけれど、何を食べさせたらいいか分からない」という相談が寄せられているということで、「お菓子図鑑」への期待は高いといいます。
全国およそ30の患者会で作るIBDネットワーク 山田貴代加 理事
「『お菓子図鑑』はこれを食べても大丈夫と思うヒントになって、食の幅が広がると感じます。脂質5グラムの目安が何本だよ、何個だよというのはとてもいい視点だと思いましたし、好きなお菓子を何本までとすぐに覚えられるところもいいですね」
お菓子だけじゃなく食事も
IBD患者の食生活を支えようという動きは、食事でも。
患者の交流サイトの運営会社は、去年から患者向けにレシピサイトを立ち上げました。
寄せられたレシピについて、管理栄養士が栄養価を算出したり、コメントを載せたりしながら、患者が安心して食べられるように工夫しているといいます。
レシピサイトを立ち上げた グッテ 宮崎拓郎社長
「患者さんは症状そのものの悪化が怖いということで食事に気をつけないといけない。また食の楽しみが失われることで、すごいショックを受ける方が多いです。いろんな切り口でレシピを探したいというニーズに対応できるようにしています」
病気を理由に好きな食事やおやつを諦めなくてすむように。さまざまな形で支援が進んでいます。
5月19日は世界IBDデー。
IBDのことについてみんなで考えてみませんか?
(5月19日 おはよう日本で放送予定)
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