子供が生まれると母親は、夜中の授乳が続いて睡眠不足な毎日…そんなイメージを抱いている人も多いのではないだろうか。あるいは実際に「そうだ」「そうだった」という人もいるかもしれない。

生後3~4カ月が過ぎたら、夜中の授乳はあまりお勧めしません。この月齢を過ぎても“夜に赤ちゃんが泣いたらすぐに授乳”というのは、睡眠の持続が邪魔されて脳の発達のバランスが崩れやすくなり、情緒的な不安定さが生じる原因になりかねないと心配されています」

ぎょっと驚いてしまう人もいるかもしれないが、眠育推進協議会の三池輝久理事長はそう話す。
一生懸命に寝かしつけようと世話をしているはずが、逆に子どもの成長に水を差す結果になりかねないとしたら…。子供の睡眠と、夜中の授乳の関係について話を聞いた。

1歳半~2歳で体内リズムがほぼ完成

子供にとって睡眠は、脳のメンテナンスに加え、未発達の心身を成長させるという重要な役割を持っている。そんな大切な「睡眠」だが、三池さんは、実はお腹の中にいる胎児期から、赤ちゃんは母親の生活リズムの影響を受けていると話す。

(子供の睡眠の大切さについてはこちら:「子供は夜8時台に寝かせて」遅寝が不登校や発達障害のリスクに?睡眠不足が成長に与える影響を専門家に聞いた)

妊娠中に不規則な生活を続けていると、胎児にも影響が出るという
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「母親が寝ようとすると動きだすなどもともと数時間のズレはありますが、母親の生活リズムの影響を受けていることがわかっています。だから、妊娠中の母親があまりにも極端な夜型生活だったり、特に不規則な時間に食事をとっていたりすると、生まれてくる子供にも影響します」(以下、三池さん)

三池さんによると、胎内にいる時から既に、心臓・肝臓・脳などの各臓器それぞれで、内臓の体内時計(「内臓時計」)が動き出す。なお、胎児は母親の臓器の一つとして認識されており、胎児の一日は母親の生活リズムの影響を受けていて、出生後しばらくは、各臓器それぞれのリズムで活動と休息を繰り返しているのだという。

しかし生後2~3カ月頃には、体温やホルモン分泌・自律神経・睡眠と覚醒のリズムといった、生命維持機能をコントロールする「概日リズム」に乗り始める。

内臓時計と中枢時計がうまく噛み合うことで、「体内時計」がうまく機能する(イラスト・さいとうひさし)

光の刺激(明暗)に影響を受け、睡眠・覚醒をコントロールする中枢時計のリズムと、まだそれぞれが自律して活動していた内臓時計が協力して、1歳半~2歳頃までに一日の生活リズムを整える…というのが、体内時計(生活リズム)が作られるまでの大まかな流れだ。

眠いはずが…夜間授乳で“覚醒”

規則的で適切な体内時計が作られると、子どもの心身発達もバランスが取れ、生涯にわたる心身健康維持にも貢献すると報告されているという。
では、体内時計が適切に作られるようにするにはどうすれば良いのだろうか。

三池さんによると、平たく言えば「中枢時計」は主に目に見える睡眠・覚醒リズムによりその形成状態が確認でき、「内臓時計」は食事によって活動が調節される。
つまりこの二つがうまく噛み合うことで健康な生活が維持できるので、適切な時間に睡眠を取ること、規則正しい食事を取ることが必要になるのだ。

ここで、話を記事冒頭の授乳に戻そう。
三池さんによると生まれてすぐの赤ちゃんは、夜でもだいたい3時間ごとに起きるが、生後2カ月には夜に5~6時間続けて眠るようになる。生後3、4カ月になると8~9時間、生後半年になると夜を通して持続的に眠るように成長していくという。

赤ちゃんは約3時間ごとに覚醒する「超日リズム」から、次第に昼夜を認識して「概日リズム」に乗り始める(眠育推進協議会HPより)

ところが、ここで本来眠りが必要なはずの夜間に授乳をすると、内臓時計が動いて赤ちゃんが覚醒してしまう。これを続けると、 定期的に目が覚める体内時計が作られてしまうというのだ。
生後3~4カ月を過ぎても夜間授乳を続けるのは、親にとっても、子供にとっても良くないというのが三池さんの考えだ。

「夜中に赤ちゃんが泣くのは、空腹だからという証拠はないんです。フランスでは生後1カ月を過ぎた辺りから、小児科医は夜間の授乳をやめるように提言し、2カ月目からやめている人もいると聞きます。ただ日本の状況を考えるとそれは現実的ではないので、とにかく夜の睡眠が持続し始める3~4カ月頃にはやめましょう、とお話しています。アメリカの小児科医でも同様の意見があります」

しかし中には、夜泣きがひどい、夜に母乳をあげないと寝付いてくれないという人もいるだろう。そんな人は、どのように対処すれば良いのだろうか。三池さんは「すぐに手をかけず に、再入眠するのを待つのが良い」という。
詳しくは、後編記事『新生児期を過ぎた夜泣きは「授乳せずにできるだけ手をかけない」 再び自分で眠りにつける練習を』でお伝えする。

(後編記事はこちら:新生児期を過ぎた夜泣きは「授乳せずにできるだけ手をかけない」 再び自分で眠りにつける練習を)

三池輝久(みいけ・てるひさ) 
小児科医、小児神経科医。熊本大学病院長、日本小児神経学会理事長、兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター長」などを経て、現在は熊本大学名誉教授、日本眠育推進協議会理事長。子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動は30年を超える。主な著書に『子どもの夜ふかし 脳への脅威』『赤ちゃんと体内時計 胎児期から始まる生活習慣病』(ともに集英社)ほか多数。 

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