インスタグラム初投稿で、「Hope my welcome to Instagram party goes better than this(インスタグラム開設が〝これ〞より歓迎されることを望んでいます)」と英語で粋なメッセージを送った(写真:公式インスタグラムより)日本ハム時代から大谷翔平を10年以上追い続け、8度の単独インタビューを行ったスポーツニッポン新聞社MLB担当記者の柳原直之氏。同氏によるノンフィクション『大谷翔平を追いかけて 番記者10年魂のノート』から抜粋、3回に渡って紹介します(一部・加筆しています)。第3回は、「2019‐2020シーズン メジャーの壁、新型コロナウイルス感染拡大による短縮シーズン」です。

右肘・左膝手術から復活を目指す

2020年。先が見えない復帰への道のり。それでも大谷は順調に次のステップを踏んでいった。

4月13日に約1カ月ぶりに投球練習を再開。エンゼルスのビリー・エプラーGMは「225〜230フィート(約70メートル)の距離で遠投を行い、週2度のブルペンに入っている」と順調な調整ぶりも明かした。

球団によると、同20日に35球、24日には40球を投げたという。

右肘手術、左膝手術から復活を目指す大谷は医療的な必要性があるとみなされ、右肘痛の右腕グリフィン・キャニングとともに、「特例」で本拠地エンゼルスタジアムでの練習が許可されていた。

本拠を置くカリフォルニア州は、新型コロナウイルス感染拡大で外出禁止措置が続いており、実際にいつ登板できるかは不透明だったが、同GMは「エンゼルスのトレーナーが治療できるし、水原(一平)通訳も一緒に来る。(大谷は)そんなに強く力を入れていない。80〜85%くらいの強度で投げている」と説明した。

5月30日。大谷が実戦形式のフリー打撃「ライブBP」に登板したことを明かした。

28日に開設した自身のインスタグラムに「Live BP from last week(先週のライブBP)」と英語で記し、27秒の投球動画を投稿。おなかの前にグラブを置き、セットポジションに入った大谷。高く上げた左足を踏み込み、思い切り右腕を振った。

意外だったインスタグラムの開設

「ライブBP」とは実戦形式のフリー打撃。打者に投げるのはメジャー1年目の2018年9月2日の敵地アストロズ戦以来、約1年8カ月ぶりだった。左打者のラステラは速球系2球にいずれもバットを振らなかったものの、何度もうなずく姿が球威を物語っていた。

大谷のインスタグラムの開設は意外だった。最初は少し信じられなかった。エンゼルスの広報から告知があってから、正真正銘、これは本人のアカウントだったとやっと認識できた。

初投稿は自身のメジャー初本塁打時にサイレント・トリートメントで祝福された動画を添えて「Hope my welcome to Instagram party goes better than this(インスタグラム開設が"これ"より歓迎されることを望んでいます)」と、英語で粋なメッセージを送った。

その2日後に「ライブBP」に登板した動画を投稿した。

私を含めた日米メディアが次々に速報した。「意外だった」と記したが、コロナ禍で開幕が延期となり、ある程度、自分の時間が取れるようになったことが一番の理由だろう。これまで大谷は忙しすぎた。

大谷がSNSの更新に割く時間はこれまでなかった。割く必要性もなかったのかもしれない。ファンサービスに熱心な選手だが、基本的に目立つことは好まないからだ。

ただ、当時、インスタグラムのストーリーズという機能を利用し、「主に野球関連の投稿をアップしていく予定です。これから皆さんと野球を通じて繋がるのを楽しみにしています」とつづった。

もちろん、野球に全力を注いでいる。一方、ファンあってのプロ野球は海を越えても同じ。開幕が延期となり、何か思うところがあったのかもしれない。

2013〜2018年までエンゼルスの地元紙オレンジ・カウンティ・レジスター紙で、英語記事を執筆していた志村朋哉氏はこんなことを話していた。

「大谷選手が全米レベルでスターになるには、思ったことを積極的に発言することが大事です。野球に興味のない人は選手の人間性や生き方に興味を持ち、"応援したい"という気持ちになるからです」

プロバスケットボールNBAのレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レーカーズ)もそう、女子テニスのセリーナ・ウィリアムズもそうだ。大谷は大スターだが、前述の2選手のように競技の枠を越え、全米レベルで突き抜けた存在になるため、今後は社会に強いメッセージを発信し続けることが大事だという。

大谷はそれほど影響力のある選手

大谷が自身のSNSに求めているものとは少し違うかもしれない。ただ、将来的に大谷が自らの言葉で日本はもちろん、米国内に向けた強いメッセージを発信する日が来てもいい。大谷はそれほど影響力のある選手だと思っている。

6月23日。MLBは、7月23日か同24日に2020シーズンを開幕し、レギュラーシーズンを60試合制で実施すると発表した。新型コロナウイルスの影響で当初の3月26日から約4カ月遅れの開幕で、無観客となる。

強行開催を決めたMLBに対し、選手会が安全規約などに同意した。大谷が2年ぶりに二刀流として迎えるシーズンが、ようやく幕を開ける。

エンゼルスタジアムに、甲高い打球音とともに「フンッ!!」と気合のこもった叫び声が響いた。大谷は短パン姿で帽子を後ろ向きにかぶり、右足を上げない打撃フォームで鋭い打球を飛ばした。

自身のインスタグラムで「First outside BP in a while(久しぶりの屋外打撃練習)」とつづり、動画を投稿した。続いて、スライドショーのように表示できるストーリーズ機能に「WE'REBACK(戻ってきたぞ)」とメッセージ。2018年10月の右肘のトミー・ジョン手術を経て、二刀流で復活を期すシーズンへ順調な調整ぶりをうかがわせた。

選手会は7月1日までにキャンプ地に集合することや、健康と安全面の規約を含む運用マニュアルに同意。ロブ・マンフレッド・コミッショナーは「2020年シーズンの開幕が迫っていることを発表でき、喜んでいる。既に選手会に60試合制のスケジュールを示し、近く素晴らしいファンに野球をお見せできることを楽しみに思う」とコメントした。

例年より102試合短縮されたシーズン。ウイルス感染防止のため同地区内の対戦が中心となり、延長戦は走者二塁から始めるタイブレーク制が導入された。

7月3日。新型コロナウイルス感染拡大の影響で3月中旬に中断したキャンプを、「サマーキャンプ」と題して再開した。

右肘手術からの投手復帰を目指す大谷はブルペン投球を行い、打席で同僚投手の球筋も確認。無観客でポジションごとに時間と場所を区分し、"密"を避けて練習するなど厳戒態勢でのスタートとなった。

大谷「100%の状態で貢献したい」

大谷は翌4日にオンライン取材に応じ、投打二刀流でのプレーについて「しっかり100%の状態で貢献したい。60試合制なので最初から最後まで全力でしっかりと飛ばしていきたい」とフル回転を誓った。

キャンプ中断以降で初めての会見。3日のキャンプ再開までに実戦形式の投球練習を週に一度行い、最多で60球ほど投げていたという。

右肘に負担をかけない投球フォームのテーマは「よりシンプルにしたい」。打者では今春のキャンプでは右足を上げるフォームを試したが、昨季同様上げないとし「(60試合制で)短いですし、飛ばせるだけ飛ばして(投打)両方しっかりやりたい」と繰り返し話した。

7月7日。大谷は本拠地で行われた特別ルールの紅白戦で先発。打者10人に50球を投じ、7四球を与えた。結果は出なかったが、右肘のじん帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)前の2018年9月2日のアストロズ戦以来、674日ぶりの実戦登板が無事に終了。完全復活に向けた大きな一歩となった。

登板後のオンライン会見。大谷の表情が少しだけ明るくなった。「問題なく球数を投げられたので良かった。(腕を振る)怖さは特になかった」と素直に投手復帰を喜んだ。

674日ぶり実戦登板。3回50球をメドとし、15球程度で攻守交代の特別ルールが敷かれた。

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初回は四球や暴投で1死一、三塁となって打ち切り。2回は2者連続四球から、ラステラに右中間適時打を打たれ終了した。3回も修正できず、先頭から3者連続四球(レンドンへの死球がボール扱い)を与え、1死も取れず降板となった。

結果だけを見れば散々な内容。だが、この日の収穫は「投げた」ことだ。「もちろん思い切り投げにいっていない。右打者中心で置きにいってしまったのが強い。術後明けの不安というより、そういう面が大きかった」と大谷。

打者と10度の対戦で右打者が8度。抜け球の死球を恐れ、「ブルペンとは全然違う。味方に投げる経験も(2018年のキャンプ以来)ないので、そこら辺は違いがある」と分析する。ジョー・マドン監督も「何も心配はないし、警報を鳴らすこともない」と信頼する。

コロナ禍の影響で現場に行けない私はSNSの映像などでチェックしながら、現地で取材する通信員と意見をすりあわせ、原稿を進めた。

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