川勝平太前知事の辞職に伴う静岡県知事選は26日投開票され、立憲民主、国民民主両党推薦で前浜松市長の鈴木康友氏(66)が自民党推薦で元副知事の大村慎一氏(60)との激戦を制し、初当選を決めた。自民は4月の衆院3補選に続いて事実上の与野党対決で連敗し、県政では4選した川勝氏との争いに続いて実質5連敗になった。浜松、静岡両市の政財界が両氏をそれぞれ支援する「静浜対決」は鈴木氏に軍配が上がり、初の浜松出身知事が誕生する。15年続いた川勝県政から鈴木県政へと新たな時代に入る。

 15年ぶりに新知事を決める選挙戦には新顔6人が立候補した。リニア中央新幹線静岡工区に対する姿勢のほか、県が浜松市に計画する新県営野球場、能登半島地震を受けた防災対策、人口減少対策が争点になった。

 鈴木氏を初当選に導いたのは「西部」「リニア」「川勝」の三つの支持だ。

 鈴木氏は浜松市長を昨年まで4期16年務めた「実績」を訴えた。自動車大手スズキ(浜松市)の鈴木修相談役を中心に地元政財界が支援し、県西部で圧勝した。立憲の泉健太代表ら野党幹部も応援に入り、自民への批判票を取り込んだ。

 リニアは推進を掲げ、着工に向けて議論を進めると訴えた。一方、岐阜県でリニア工事が原因とみられる水位低下が起きたのを受け、「拙速に事を進めない」と柔軟な姿勢も示した。

 同時に、大井川の水資源や南アルプスの自然環境の保全を訴えて着工を認めなかった川勝氏を高く評価した。発信力や文化面でも川勝県政の功績を強調した。こうした訴えがリニアに慎重な民意や川勝氏の支持者を引きつけた。

 しかし、三つの支持は裏を返せば、新たな鈴木県政が抱える難題にもなる。

 試金石は、西部の政財界が求める新県営野球場だ。県が示した3案のうち、鈴木氏は建設費が最も高い「ドーム形」の大型球場を主張する。

 県は県議会6月定例会で3案からの絞り込みを検討していたが、ドーム形の大型球場には県東部や中部からは「西部優先」と反発する声が多い。県議会の最大会派「自民改革会議」にも反発があり、県政運営には最大の難題となる。

 初当選から一夜明けた17日、鈴木氏は「県と市と協議会のようなものを作れないか」と述べた。「(周辺も含めた)全体構想を作るところから進めていかないといけない」とも話し、議論を仕切り直す可能性も示唆した。

 一方、リニアでは着工に向けてJR東海や国と議論を進める構えだが、岐阜の水位低下問題など水資源や環境への不安の声は根強い。性急な議論には批判も多く、慎重な対応が必要だ。

 川勝氏に対しては東部や伊豆などの市町長から、対話不足などとの反発が噴き出した。知事選では自民推薦の大村氏を支持する市町長が多く、今後、信頼関係を作れるかが課題となる。(大海英史)

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 「私の不徳のいたすところで、力が及ばなかったということに尽きる」。26日夜、大村氏は敗北が決まると、静岡市内の会場に集まった支援者に頭を下げた。

 選挙戦では総務省官僚や副知事の経験を生かし、国や県内市町との連携を訴えた。また、川勝県政からの立て直しを強調し、「対話」と「オール静岡」を掲げた。

 地元静岡市の政財界が初の地元出身知事を出そうと支援し、東部や伊豆でも市町長の支持を得た。一方、自民は派閥の裏金事件の影響を意識して党幹部らが応援に入らず、「自民色」を薄めた。

 鈴木氏に水をあけられていたが猛追し、東部、伊豆、中部の得票は上回った。最後は人口が多い浜松など西部で鈴木氏の地盤を崩せず、わずかに及ばなかった。

 一夜明けた27日朝、大村氏はJR静岡駅前に立ち、通勤客らにあいさつした。記者団の取材に「投票をいただいた皆様に感謝を申し上げたい」。

 鈴木氏に対しては「お互いに『オール静岡』と主張してきた。愛するふるさと静岡県がより暮らしが豊かになるようがんばっていただきたい」とエールを送った。

 同行した後援会の岩崎清悟会長(元静岡ガス会長)は「短い選挙戦で精いっぱいやったが、もう少し時間があればもっと訴えは届いたかという気がする」と話した。

 推薦した自民の県議会最大会派「自民改革会議」の相坂摂治代表は27日、記者団の取材に「半分以上の支持をいただいた自治体も多く、伝えたかったことを多くの方々に尊重してもらった」と振り返った。鈴木氏に対しては「第1会派として県議会の厳粛さを守り、新知事と我々の考え方を伝え合いながらきちんとやり取りを始めていく」と述べた。(斉藤智子、田中美保、青山祥子)

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 10万票を超える得票で健闘したのが、11年ぶりの共産党公認候補になった同党県委員長の森大介氏(55)だ。26日夜の記者会見で「命の水を守ってほしいと激励をいただいたり声をいただいたりして、訴えが響いた」と話した。

 鈴木、大村両氏がリニア推進を掲げたのに対し、水と環境を心配する民意に応えようと「中止」を訴えた。浜岡原発再稼働も「ノー」を主張し、暮らし・福祉最優先を打ち出した。

 会見では、リニアについて「一気に推進にならないように皆さんの声をよく聞いていただきたい」と語った。

 共産はいま県議会に議席を持たないため、「次期県議選での議席奪還、次回の県知事選も新しい県政が生まれて以降の経過を見ながら戦っていく」と述べた。(良永うめか)

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 自民党県連会長の城内実衆院議員(静岡7区)が会長を辞任する意向を固めたことが27日、関係者への取材でわかった。26日投開票された知事選で党推薦の大村慎一氏が敗れ、責任をとるとみられる。

 城内氏は2022年5月に会長に選任され、今年4月に再任する人事が内定していた。川勝平太前知事の辞職に伴う今回の知事選では、大村氏推薦を党本部に上申した。

 大村氏は立憲民主、国民民主両党推薦の鈴木康友氏に約7万7千票差で敗れ、自民は衆院3補選に続いて連敗となった。県連も4選した川勝氏に続いて知事選で実質5連敗を喫した。

 後任には勝俣孝明衆院議員や井林辰憲衆院議員、牧野京夫参院議員の名前が挙がっている。6月の県連大会で選任される見通しだ。(青山祥子、大海英史)

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