派閥の政治資金パーティー裏金事件を受けた自民党の政治資金規正法改正案は、立憲民主党などが禁止を求めた「企業・団体献金」の見直しに手を付けず、温存した。企業・団体献金を事実上容認している米国では、11月の大統領選を控え、巨額の政治資金が批判合戦に投じられ、世論の分断をあおる「敵対的民主主義」の問題も深刻化している。識者は、中途半端な法改正を進めるのではなく、国会であるべき民主主義の在り方の議論を深めるよう訴える。(大杉はるか)

◆企業・団体献金 自民25億円、立憲民主は79万円

 岸田文雄首相は、企業・団体献金の必要性について国会で「多様な収入を確保することが政策立案のバランスにつながる」と繰り返しているが、立民など野党は、巨額の献金が政策決定をゆがめると批判する。  自民の2022年の単年収入は約249億円。6割以上の約160億円が税金を原資とする政党交付金で、寄付収入は約29億円。このうち約25億円が企業・団体献金で、大半は党の政治資金団体「国民政治協会」を経由する。一方、野党第1党の立民は79万円で、自民が桁違いに多い。  現在、政党に対する企業・団体献金の上限は最高1億円と高額だ。自民は「企業の政治活動の自由」を主張し、禁止どころか、規制の強化に抵抗。改正案では献金の上限額を下げるなどの見直しも行わなかった。

◆献金制限撤廃のアメリカ、大統領選に「1兆円」投じられ

 米国では制度上、企業・団体献金を禁止しているが、企業や労働組合が設置した政治活動委員会(PAC)を通じ、役員らが制限内で寄付することが可能だ。

日本円と米ドルの紙幣(資料写真)

 連邦最高裁は10年と14年、献金額の制限は言論の自由の侵害につながるとの判決を出した。これを機に、特定の候補者から独立した政治団体「スーパーPAC」への献金制限が撤廃された。20年の前回大統領選では総額64億ドル(約9600億円)以上の資金がつぎ込まれ、批判合戦が過熱し、政治対立が深まっている。

◆「政治活動の自由」個人と企業では異なる

 言論や政治活動の自由を理由に、際限のない資金集めは認められるのか。  中央大の橋本基弘教授(憲法学)は「主権者である個人に保障される『政治活動の自由』と企業のそれは同じではない。企業献金を続けるということは、日本も米国のような敵対的民主主義の方向に向かうのでは」と懸念を示す。  その上で「お金を集めた方が勝ちという選挙になれば、理性的な討論や調整といった民主主義本来の姿とは懸け離れ、分断を招く。どういう民主主義を目指すのかという議論がない。今国会での成立を急ぐ必要はない」と語った。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。