政府は26日、重要経済安保情報保護・活用法に関する有識者会議の初会合を開いた。年内をめどに経済安全保障上の機密情報を扱う「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」の具体的な運用基準を策定する。

セキュリティー・クリアランスは政府が保有する経済安保上の機密にアクセスできる資格を政府職員や民間人らに付与する制度だ。5月に成立した新法に基づき2025年5月までに施行する。政府は会議での議論を踏まえて政令や運用基準を閣議決定する。

適格性評価は機密へのアクセス権を与えるにあたって、本人の同意を前提に身辺調査し、犯罪歴や薬物使用の有無、家族の国籍などを確認する仕組み。各省庁は調査結果を踏まえて機密を扱うのに適した人物かどうかを判断する。資格の有効期間は10年以内とし機密漏洩には罰則もある。

岸田文雄首相は「情報保全の強化のみならず、民間の国際的なビジネス機会の確保・拡充のため非常に重要な法律だ」と語った。

高市早苗経済安全保障相は対象情報の明確化や適格性評価のあり方、調査結果の目的外利用を禁止する担保策などを課題にあげた。「日本に望ましい、国際的に通用する制度の実現に向けて検討したい」と話した。

運用基準の策定を巡っては保全する情報の範囲が論点の一つとなる。野党は恣意的な情報指定に懸念を訴えており、政府は会議での議論によって透明性を意識しながら守るべき対象分野や基準を設ける。

新法は漏れると安保上の支障が出て国益を損なう機微な経済情報を「重要経済安保情報」に指定する。政府は重要インフラや半導体など重要物資のサプライチェーン(供給網)に関わる情報、サイバー攻撃への防御策などを含める方針だ。

14年施行の特定秘密保護法は防衛、外交、スパイ活動防止、テロ防止の4分野について機密を保護する仕組みを整備した。この制度の対象の多くは公務員だった。今回の新法は先端技術分野にも適用するため、研究開発に関わる民間企業の従業員らに対象が広がる見通しだ。

企業側の関心は適格性の評価方法にある。政府側の判断を予見しやすいように基準の明確性を求める。

政府は身辺調査でプライバシーに配慮すると主張する。調査に同意しなかったり、結果的に不適格となったりしても業務上不利にならないようにする設計をめざす。

高市氏は対応策として制度運用を巡って従業員に不利益が生じた場合、企業との契約を打ち切るといった措置を例に挙げる。

先端技術の分野は民生・軍事の両方に活用できる「デュアルユース」の研究開発が進んでいる。人工知能(AI)や量子といった領域で海外と協業する動きが活発になるなか、適格性評価の法整備がない日本企業は機密技術を含む共同開発や公共調達の入札に加わりにくい状況となっていた。

新法によってこうした問題を解消すれば、国際的なビジネスチャンスの拡大につながるとの期待がある。実効性を高めるためには情報保全の向上と企業側の利用しやすさの両面を意識した運用基準の策定が重要となる。

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