衆院島根1区補選に立候補した錦織氏㊧と亀井氏

細田博之前衆院議長の死去に伴う衆院島根1区補欠選挙は与野党一騎打ちになった。1996年に始まった小選挙区制での衆院選以降、自民党の細田氏が9回連続で議席を守り続けた保守王国に「政治とカネ」の問題の逆風が直撃する。

岸田文雄首相(自民党総裁)は21日、1区内の3カ所で同党新人の錦織功政氏の応援演説に臨んだ。突然、移動の車から降りて住民らと握手した。首相の「出没」はこの日5回にのぼった。

立憲民主党の泉健太代表も同日に現地入りし、元職の亀井亜紀子氏への投票を呼びかけた。「補選で勝てば自民党に、国民の声を聴かなければいけないと心変わりを促せる」と主張した。

細田氏と父・吉蔵氏で60年以上、衆院の議席を維持してきた。島根1区は自民が負け知らずの「鉄板区」といえるが、様相が一変した。日本経済新聞の17〜19日の情勢調査で亀井氏が先行する。

自民にとって「弔い選挙」は有利なはず。苦戦する一因に政治資金問題がある。

細田氏は問題の発端となった派閥、清和政策研究会(安倍派)の会長を長く務めた。劣勢をくつがえそうと小渕優子選挙対策委員長は告示後、12日間のうち多くを現地回りに割く予定だ。

派閥「解散」も響く。派閥が勢力の維持へ所属議員や後継者の選挙区に人員や資金を投入するのは一般的だったが、こうした動きは派閥解散前と比べて乏しい。「安倍派の秘書はほとんどいない」(錦織氏の陣営幹部)。

告示前日の15日。錦織陣営の事務所に国会議員8人の来訪予定が掲げられていた。岩屋毅元防衛相(麻生派を退会)や寺田稔元総務相(岸田派)らの名が並んでいた。8人のなかに清和研の議員はいない。

「政治とカネ」に加え世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題も負の要素だ。細田氏は教団との関係を指摘された。応援に来たある議員は「公明党の動きが鈍い」と話す。

日経調査で錦織氏は公明支持層の4割しか固めていない。亀井氏は3割と迫る。

亀井氏は2005年の郵政解散の際に綿貫民輔氏らが自民を離党し結成した国民新党に所属した経歴がある。父は亀井久興元国土庁長官で、自民にながく在籍した。

立民は自民幹事長を務めた小沢一郎衆院議員や党内保守派の代表格である野田佳彦元首相らを投入。野田氏は20日に「保守王国である島根だからこそ、今回はガツンと一発、反省させるしかない」と呼びかけた。

「私は保守」。亀井氏はこう自称する一方で、連合傘下の労働組合の支援を受ける。擁立を見送った共産党の自主的支援も加わる。

亀井氏は立民、共産の支持層をほぼまとめたうえで自民支持層の2割に食い込む。07年の参院選で国民新党から出馬し自民を破った再来を狙う。

自民の牙城で野党が勝利すると、次期衆院選でも地殻変動が起きる可能性がある。島根1区はその先行指標になるのか。全国から視線が注がれる。

◇衆院島根1区補選立候補者
錦織 功政 55 元財務省職員 自新
亀井 亜紀子 58 元農水委員 立元
(注)届け出順。敬称略

衆院3補欠選挙の選挙戦を現地で追いました。

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