自民党は、裏金事件が明るみに出て初めてとなる9月の総裁選で「カネのかからない選挙」を掲げる。実際、どんな費用が使われてきたのか。2021年の前回選について東京新聞が調べたところ、党側が各候補者に党員名簿の情報を計約830万円で実質的に販売していたことが判明した。候補者が負担するさまざまな経費も加えると、総額で「億円単位」かかるケースも少なくない。(坂田奈央、我那覇圭)

◆都道府県別と衆院比例ブロック別で名簿に価格設定 全国分だと…

 2021年9月の総裁選には岸田文雄、河野太郎、高市早苗、野田聖子の4氏が立候補した。総裁選の費用が含まれる21年分の政治資金収支報告書で目を引いたのは「総裁選挙人名簿貸与料」や「名簿代」などの費目で各氏が党本部に支払ったお金だ。高市氏が391万円、岸田、河野両氏が195万円、野田氏が3回に分けて計46万円だった。  「名簿」とは、立候補を届け出た人に党が有償で貸し出す党員名簿で、各候補者が支持を訴える相手となる党員の電話番号などが記載されているという。本紙が入手した料金表では、都道府県別と衆院選の比例ブロック別で料金を設定。全国に100万人以上いる党員の全名簿を入手すると、計195万円。全部で7万5000ページを超えていた。

◆現実は「資金力が選挙戦を左右してきた」

 名簿は、総裁選終了後、返却しなければならない。党本部から候補者に名簿を貸与するかどうかは、総裁選ごとに総裁選挙管理委員会が判断する。今回の運用はまだ決まっていない。  公開されている政治資金収支報告書から、総裁選のために使われたと明確に判定できない費目も多い。ただ、党幹部らによると、候補者は政策をPRするためのリーフレットなどの製作、印刷物の郵送、ホテルなどの会議室の賃借、党員らへの電話、ウェブサイトの運営、各地での遊説に伴う移動や宿泊など、多岐にわたる経費が必要だ。  関係者は、リーフレットなどの郵送で1億円、自動音声で電話をかけ続ける「オートコール」には数千万円かかると証言。その上で、「派閥の後ろ盾の有無や資金力が選挙戦を左右してきた」と明かす。  今回の総裁選を控え、党内から「非常にお金がかかっている」(渡海紀三朗政調会長)として節約を求める声が強まっている。総裁選管の逢沢一郎委員長は20日、「常識と良識を持って(支出は)自己抑制して臨んでほしい」と要請した。だが、現時点では呼びかけにとどまっており、立候補を目指す陣営関係者は「『常識』は候補者によって違う。対応は難しい」と漏らした。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。