◆防衛増税や子ども・子育て支援金徴収の停止を主張
自民党総裁選への立候補を表明した茂木敏充幹事長=4日、東京都港区で(布藤哲矢撮影)
「古い常識にとらわれない改革マインドと結果を出せる課題解決力があるベストチームをつくる」 4日に総裁選への出馬を表明した茂木氏。会見で意気軒高に語ったのは政策活動費の廃止に加え、予定される防衛増税や子ども・子育て支援金の徴収停止だ。 政治資金規正法の改正論議の際、政党から党幹部らに支出する政策活動費については、廃止などを求める声が上がった。にもかかわらず、10年後に領収書を公開することで温存された。また防衛力強化に向けて5年間で43兆円程度を予算計上するため、増税の方針が決まった。 ともに自民が軸になって進めた施策。その自民の中核にいた茂木氏が大きく転換させようとしている。◆「次期自民党総裁にふさわしい人」結果は1.8%
同氏の公式サイトによると、東大、米ハーバード大学院を卒業。丸紅や読売新聞などをへて10期連続で衆院議員に当選。外相や経済産業相、経済再生担当相などを歴任した。ただ共同通信社が8月17~19日に実施した世論調査では「次期自民党総裁にふさわしい人」で1.8%にとどまった。5日、記者会見で自民党総裁選の公約を発表する茂木幹事長(木戸佑撮影)
「人気のなさから『1%男』とも呼ばれる。一般の人からすると華がないのだろう。頭はいいが存在感がない」。政治ジャーナリストの鮫島浩氏がこう語る。 過去には官僚が作成した茂木氏の「取り扱いマニュアル」の存在が報じられた。党内でも人への当たりが厳しいという。 「幹事長は実質、党のナンバー2。人事やカネといった党務運営を仕切る立場」と鮫島氏。「だが幹事長とは名ばかりで、岸田氏から信頼されていなかった。政権を中枢で見てきて評判が悪かった政策をひっくり返すことで、支持を得ようとしているのだろう」◆「パフォーマンスにしか見えない」
自民党本部に掲げられた総裁選の垂れ幕(池田まみ撮影)
落語家の立川談四楼氏は「政策活動費の廃止も防衛増税見送りも結構なことだけど、逆の方針を推進してきたのがあなたでしょう、と言いたい」と直言。なりふり構わないように見える姿に強く違和感を抱く。 首相を支える立場の幹事長が総裁選に出馬することに「令和の明智光秀」との指摘もあるが、「政策転換は唐突感が否めず、パフォーマンスにしか見えない。裏切り者の評価が見直されている光秀とはあまりにもイメージが違う」。 知名度の低さについて、茂木氏本人も意識しているようだ。会見で「『モテギ』という名前じゃなければ良かったなと率直に思っています。あいうえお順だと必ず最後になってしまう。『アライ』とか、そういう名前に生まれれば良かった」と漏らす場面もあった。◆「同じように名字が『も』から始まる森氏だって、首相になっている」
とはいえ、名前が知名度に影響するとの持論に「アライ」さんから何とも言えない声が上がる。 本紙(東京新聞)原発取材班キャップの荒井六貴記者は「自分の能力と名前は関係ないでしょう。あ行で得したことなんてない」と嘆息した上でこう続ける。 「茂木氏と同じように、名字が『も』から始まる森氏だって、首相になっている。自身の人気や不人気は名前で決まるものなんでしょうか」◆「地元の理解を得て再稼働を果たす」退任を前に駆け込み
政策活動費の存続に増税という政権の方針を、党の実質ナンバー2に真っ向から否定された形となったのが党総裁の岸田首相。こちらは「なぜ今?」と問いたくなる動きを見せている。GX実行会議で発言する岸田首相。左は林官房長官、中央は斎藤経産相=8月27日、首相官邸で(佐藤哲紀撮影)
「残された任期の間に、GX(グリーントランスフォーメーション)の前進のため尽力する。その一つが、東日本における原発の再稼働の準備だ」 先月27日に官邸であったGX実行会議で岸田首相はそう述べると、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)に触れ「地元の理解を得て再稼働を果たすため、対応策の具体化に向けて確認と指示を行う」と宣言。今月6日に原子力関係閣僚会議を開く見通しだ。 この会議は官房長官や経済産業相らで構成され、原子力政策に関わる重要事項について議論するとされる。安倍政権下の2013年末に始まり、高速増殖原型炉もんじゅ(福井県)の廃炉を決めたこともある。◆地元市議「意味が正直わからない」
ただ岸田首相は退陣表明済みだ。レームダック(死に体)と化す政権が再稼働に躍起になる姿に対し、疑問の声も上がる。 「なぜ今、むきになって進めるのか理解できない」 脱原発を掲げる市民団体「新潟の新しい未来を考える会」の片桐奈保美会長はそう漏らす。1月の能登半島地震以来、原発事故時の住民避難が大きな課題になり、不安の声も大きくなっているだけに「地元軽視もはなはだしい」と憤る。新潟県の東京電力柏崎刈羽原発(資料写真)
再稼働に慎重な新潟市の中山均市議も戸惑い、「退陣直前になって前のめりになる意味が正直わからない」と口にする。「政府が事実上、東京電力を救済してきただけに、破綻させるわけにはいかず、東京電力が唯一稼働できる原発として柏崎刈羽を何とか残したいのでは」 柏崎刈羽の6、7号機は2017年に原子力規制委員会の適合性審査を通ったが、テロ対策の不備が発覚した影響で2021年4月に事実上の運転禁止命令が出た。2023年末に解除されて以降、焦点になってきたのが再稼働を巡る立地自治体の同意。態度を明らかにしていない県の判断が注目されてきた。 そんな中で開催される閣僚会議。地元が求めた避難道路整備などについて協議するとみられる。中山氏は「知事への『中途半端な姿勢じゃだめだ』というプレッシャーかもしれない」といぶかしむ。◆「最後に成果を残したい」? 狙われた柏崎刈羽原発
ジャーナリストの政野淳子氏は岸田首相が2022年12月、原発を積極活用する方針を決め、原子力政策を大転換させた点に触れ「原発回帰を始めた首相として、最後に成果を残したいのでは」とみる。自民党本部(林泰史撮影)
今月12日に告示される総裁選との関係も指摘する。「誰が総裁になるか予断を許さない中、次期政権に委ねずに手を打とうとしている。原発回帰の流れを止めたくない経産官僚や電力業界の思惑に動かされている可能性もある」◆共通する「自分第一」の姿勢
党の総裁である首相と幹事長が見せる残念な姿。自民に何が起きているのか。 明治大の西川伸一教授(政治学)は、裏金問題を受けて進んだ派閥解消の流れと絡めてこう読み解く。 「幹事長として党内で波風を立てられなかった茂木氏は、派閥の縛りがなくなって独自カラーを出そうとしている。岸田さんは派閥の力がなくなり、組織票もとれない中、キングメーカーとして今後活躍するため、爪痕を残そうとしているように見える」 党の中枢から浮かぶ「自分第一」の姿勢。その一方で派閥解消の流れも手放しでたたえられるものではないという。「派閥こそ自民党。ほとぼりが冷めれば復活する」と見通し、「イメージを変えようとしても、国民はなかなか信用できないだろう」と突き放した。◆デスクメモ
長く原発取材を続けるが、原子力関係閣僚会議を耳にする機会はほぼない。存在感の薄い会議。かたや構成メンバーには総裁選に出ようとする大臣が複数。その準備で気もそぞろでは。深い議論など望むべくもない会議でもあえて開く。にじむ「やってる感」。これも自民らしさ、か。(榊) 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。