27日に投開票された自民党総裁選は、石破茂元幹事長(67)が高市早苗経済安全保障担当相(63)との決選投票を制し、新総裁に選出された。10月1日召集の臨時国会で新首相に指名される。 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で党の信頼が失墜する中で行われた今回の総裁選。岸田文雄首相が打ち出した「脱派閥」方針を受け、麻生派を除く5派閥は既に解散するか解散を表明しており、脱派閥の本気度が問われたが、ふたを開けてみれば、旧来の派閥的な動きが目立った。「キングメーカー」たらんとする長老の思惑と、国会議員票を1票でも積み増したい候補者心理が交錯した結果だ。(佐藤裕介)

新総裁に選出され、会場の拍手に応える石破茂氏=9月27日午後、自民党本部で(木戸佑撮影)

選挙戦終盤には、情勢調査などで党員・党友に人気が高い石破氏と高市早苗経済安全保障相、小泉進次郎元環境相が「3強」とされ、この3人のうち2人による決選投票になるとの見方が強まる。すると、3陣営による決選投票に向けた国会議員票の争奪戦が激化。個別の議員に対する電話や面会を通じた支持の依頼にとどまらず、まとまった票を動かせる派閥領袖や実力者への働きかけが活発になった。 とりわけ、麻生派を率いる麻生太郎副総裁と菅義偉前首相という、2人の首相経験者の存在感が際立ち始めた。菅氏は派閥の領袖ではなく、表向きは「脱派閥」を唱えてきたが、実際には自身を中心に「菅グループ」と呼ばれる一大勢力を築いている。

◆最終盤に面会した「犬猿の仲」の2人

麻生太郎氏

最終盤には、「脱派閥」を掲げてきた小泉氏が麻生氏と面会。対抗するように、高市氏陣営で選挙対策本部長を務める中曽根弘文元外相が麻生氏と面談。それぞれ、麻生氏に決選投票での支援を要請したとみられる。 議員票の確保になりふりを構わない小泉氏の姿勢には、党内からも「さんざん『脱派閥』をアピールしておきながら結局麻生さんに支援をお願いをするというのは、国民からみたら矛盾に映るのではないか」(安倍派若手)と懸念する声が上がった。 26日には石破氏が、麻生氏と菅氏の双方を訪ねた。とりわけ麻生氏は、麻生政権時代に農林水産相だった石破氏が閣内にいながら首相退陣を迫った経緯から、石破氏とは埋めがたい溝があるとされてきた間柄なだけに、驚きをもって受け止められた。

◆「反石破」票の取り込み狙う動きも

小泉氏に関しては、選挙期間中、参院安倍派に一定の影響力を持つとされる世耕弘成元経済産業相にも支援を依頼したとの情報も出回った。世耕氏は裏金事件で離党勧告の処分を受けて自民党を離党していることから、党内では「小泉氏は『脱派閥』や『党刷新』を主張しているのに、言っていることとやっていることが違う」(旧岸田派中堅)との批判も出た。 高市氏陣営も、選挙戦の最終盤まで態度を明らかにしない議員がいた参院安倍派の取り込みの成否が「最終的な結果を左右する」(陣営関係者)とみて、世耕氏周辺と水面下での接触を重ねていた。 小泉氏、高市氏の両陣営とも、石破氏が安倍政権に批判的だったことから、決選投票で石破氏と対峙した場合には安倍派所属議員の多くが「反石破」の投票行動をとるとの期待があったとみられる。

◆「キングメーカー」の座を巡るさや当て

菅義偉氏

各陣営の「首相経験者詣で」には、麻生氏と菅氏による「キングメーカー」の座を巡るさや当ての側面もあった。 高市氏の陣営関係者が「小泉氏は当初から菅氏の色が出過ぎていた」と指摘するように、小泉氏は出馬会見時に、菅氏の持論でもある「ライドシェア」解禁を主張。選挙戦でも菅氏と一緒に街頭に立つなど、全面的な支援を受けた。 これに対し、菅氏と距離があるとされる麻生氏も、麻生派から立候補した河野太郎デジタル相が上位争いから脱落すると、高市氏にシフトし始めた。決選投票に高市氏が残った場合、対抗馬となりうる小泉氏は「菅派」、石破氏も菅氏に比較的近いとみられたためだ。 高市陣営内では「麻生さんは菅さんとの相乗りはできない。高市を推すことになるだろう」(安倍派ベテラン)との期待も強まっていた。 とはいえ、菅氏が後ろ盾だった小泉氏は決選投票に進めず、麻生氏が決選投票で支援した高市氏は敗れた。石破政権の誕生で、今回のキングメーカー争いの勝者は相対的には菅氏とも言えるが、党内には「自民党の長老政治は終わった」(閣僚経験者)との受け止めも出ている。 

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