石破茂首相は4日午後、衆院本会議で所信表明演説に臨んだ。首相就任前に意欲を示していた政治改革では具体策を示さず、外交安保分野では持論の日米地位協定改定と「アジア版NATO」構想に触れなかった。 マイナンバーカード、選択的夫婦別姓の導入についても言及せず、女性参画でも具体的な数値目標や対策を明らかにしなかった。 総裁選で「原発ゼロ」に言及していた原発政策では、一転して原発の利活用を訴えた。日本、国民、地方、若者・女性の機会、ルールの「5つの『守る』」を政権の方針として打ち出す一方、少なくとも7つの分野で首相就任前の発言や姿勢から後退する形に。国民や野党からの「言行不一致」との批判がさらに強まりそうだ。(佐藤裕介)

衆院本会議で所信表明演説に臨む石破茂首相=10月4日午後(佐藤哲紀撮影)

①政治改革・裏金問題

石破首相は冒頭、自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件について「問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力をあげる」と述べながらも、総裁選期間中に示唆していた「裏金議員」の非公認の可能性などについては具体論を避けた。「さらに透明性を高める努力を最大限していくことを固く約束する」とあいまいな説明に終始した。

②外交・安全保障

総裁選中は、米軍を巡る日米の不平等な関係が規定されている日米地位協定の改定にも踏み込んでいた首相。だが、所信表明では言及すらしなかった。 首相は総裁選中、日米地位協定の見直しに着手すると表明。基地の管理権や米兵の権利などを巡り、米側が有利で日本側が一方的に不利な状況に置かれている現状を踏まえ、「主権国家としての責任を果たさなければならない」と力強く訴えていた。 ロシアによるウクライナ侵攻を踏まえ、「なぜウクライナで抑止力が効かなかったのか、私は強い思いを持っている」としながらも、総裁選で掲げた「アジア版NATO」構想は取り上げず、持論を封印する形となった。

③選択的夫婦別姓

石破首相の所信表明演説が行われた衆院本会議=10月4日午後(佐藤哲紀撮影)

重要な懸案に関する言及や説明もなかった。 首相就任前に「やらない理由が分からない」と賛成の立場をアピールしていた選択的夫婦別姓には触れなかった。

④マイナ保険証への一本化時期の見直し

総裁選期間中は健康保険証の廃止とマイナ保険証に一本化する時期の見直しも掲げていたが、所信表明では取り上げなかった。

⑤女性参画

総裁選で訴えた女性参画についても、所信表明では「社会のあらゆる組織の意思決定に女性が参画することを官民の目標」とするとの表現にとどめ、具体的な目標数値などは示さなかった。 石破内閣の女性閣僚は20人中2人のみで、第2次岸田再改造内閣の5人から3人減となっている。

⑥衆院選の時期

既に表明している衆院解散(10月15日公示、27日投開票)に関する国民への説明もなかった。 首相は総裁選期間中、国会の予算委員会で野党との論戦を交わした上で解散する考えを示していたが、総裁に選出されると「豹変」。首相就任前の9月30日に突如として解散の日程を表明し、野党から「国会軽視だ」(立憲民主党の野田佳彦代表)などと批判を浴びていた。

⑦原発政策

首相は総裁選への出馬表明時、原発について「ゼロに近づけていく努力を最大限にする」と主張。その後、「原発ゼロが自己目的なのではない」「原発のウエイトが減っていくことが結果として起こり得る」などと軌道修正していた。 所信表明では「原子力発電の利活用」によって「日本経済をエネルギー制約から守り抜く」と踏み込んだ。 【関連記事】石破茂首相「デモはテロ」と断言した「タカ派」の地金がジワジワ 「民意に寄り添う」は総理のイスに座るまで?
     ◇ 石破茂首相の所信表明演説全文は次の通り。

一 はじめに

首相官邸に到着し、車から降りる石破首相=10月4日午前(佐藤哲紀撮影)

このたび、第102代内閣総理大臣に就任いたしました。 「すべての人に安心と安全を」 私は、日本国内閣総理大臣として、全身全霊をささげ、日本と日本の未来を守り抜いてまいります。 この決意を申し上げるに当たり、まずは、政治資金問題などをめぐり、国民の政治不信を招いた事態について、深い反省とともに触れねばなりません。 政治資金問題に際し、岸田総理は、自民党内の派閥解消や政治資金規正法改正などに取り組まれた後に、所属議員が起こした事態について、組織の長として責任を取るために退任されました。これらは、全て、政治改革を前に進めるとの思いを持って決断されたものでした。 また、岸田内閣の3年間は、経済、エネルギー政策、こども政策、安全保障政策、そして外交政策など、幅広い分野において、具体的な成果が形になった3年でありました。岸田総理のご尽力に、心より敬意を表します。 その思いや実績を基に、私は、政治資金問題などにより失った国民の皆さまからの信頼を取り戻し、そして、すべての人に安心と安全をもたらす社会を実現してまいります。 千年単位で見ても類を見ない人口減少、生成AI(人工知能)等の登場による急激なデジタルの進化、約30年ぶりの物価上昇。わが国は大きな時代の変化に直面しています。この変化に対し、政治は十分に責任を果たしてきたでしょうか。 政治資金問題で失われた政治への信頼を取り戻すとともに、これまで以上に、わが国が置かれている状況を国民の皆さまに説明し、納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する。それが政治の責任です。 そのために、私は、「ルールを守る」、「日本を守る」、「国民を守る」、「地方を守る」、「若者・女性の機会を守る」、これらの5本の柱で、日本の未来を創り、そして、未来を守ります。

二 ルールを守る

(国民からの信頼)
国民の皆さまからの信頼を取り戻す。そのために、「政治家のための政治ではない、国民のための政治」を実現してまいります。 政治資金収支報告書への不記載の問題については、まずは、問題を指摘された議員一人一人と改めて向き合い、反省を求め、ルールを守る倫理観の確立に全力を挙げます。 それぞれの政治家が国民一人一人と誠実に向き合い、改正された政治資金規正法を徹底的に順守し、限りない透明性を持って国民に向けて公開することを確立せねばなりません。国民の皆さま方にもう一度、政治を信頼していただくため、私自身も説明責任を果たし、さらに透明性を高める努力を最大限していくことを固くお約束申し上げます。

三 日本を守る

首相官邸に入る石破首相=10月4日午前(佐藤哲紀撮影)

(外交・安全保障)
激変する安全保障環境から日本を守り抜きます。国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアによるウクライナ侵略はいまだに続いており、戦火は絶えません。今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない。そのような不安を多くの方々が抱いております。何故ウクライナにおいて抑止力が効かなかったのか、私は強い思いを持っております。中東情勢なども相まって、国際社会は分断と対立が進んでいます。 そうした現状を踏まえ、私は、現実的な国益を踏まえた外交により、日米同盟を基軸に、友好国・同志国を増やし、外交力と防衛力の両輪をバランスよく強化し、わが国の平和、地域の安定を実現します。その際、自由で開かれたインド太平洋というビジョンの下、法の支配に基づく国際秩序を堅持し、地域の安全と安定を一層確保するための取り組みを主導してまいります。 日米同盟は、日本外交・安全保障の基軸であり、インド太平洋地域と国際社会の平和と繁栄の基盤です。まずはこの同盟の抑止力・対処力を一層強化します。加えて、同志国との連携強化に取り組んでまいります。先日は、早速バイデン米国大統領に加え、韓国、豪州(オーストラリア)、G7(先進7カ国)各国の首脳と電話会談を行いました。 現下の戦略環境の下、日韓が緊密に連携していくことは、双方の利益にとって極めて重要です。日韓間には難しい問題もありますが、来年に国交正常化60周年を迎えることも見据え、岸田総理が尹大統領との間で築かれた信頼関係を礎に、日韓両国の協力をさらに強固で幅広いものとしていきます。また、日米韓で一層緊密に連携していきます。 中国に対しては、「戦略的互恵関係」を包括的に推進し、あらゆるレベルでの意思疎通を重ねてまいります。一方、中国は、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みを、日々、強化しております。先月には、幼い日本人の子どもが暴漢に襲われ、尊い命を失うという痛ましい事件が起きました。これは断じて看過しがたいことです。わが国として主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め対話を行い、共通の諸課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していきます。日中韓の枠組みも前進させます。 拉致被害者やそのご家族が高齢となる中で、時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人道問題、国家主権の侵害であり、政権の最重要課題です。日朝平壌宣言から20年余、残された拉致被害者たちのご帰国が実現していないことは痛恨の極みです。 日朝平壌宣言の原点に立ち返り、すべての拉致被害者の一日も早いご帰国を実現するとともに、北朝鮮との諸問題を解決するため、私自身の強い決意の下で、総力を挙げて取り組んでまいります。 対ロ制裁、対ウクライナ支援は今後とも強力に推し進めます。日ロ関係は厳しい状況にありますが、わが国としては、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。 ASEAN(東南アジア諸国連合)との連携強化に引き続き取り組みます。グローバルサウスとの関係強化や、軍縮・不拡散、気候変動など地球規模課題への取り組みを進めてまいります。また、在外邦人の安全確保に全力を尽くしてまいります。 わが国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しています。中国およびロシアによる一連の領空侵犯も発生しました。これは、わが国の主権の重大な侵害です。北朝鮮は、核・ミサイル開発を継続し、近年、かつてない高い頻度で弾道ミサイルの発射を繰り返しているほか、米国を射程に収める長射程ミサイルの開発も追求しています。これは、国連安保理決議違反であり、わが国のみならず、地域、国際社会の平和と安全を脅かすものです。このような中、国家安全保障戦略等に基づき、わが国自身の防衛力を抜本的に強化すべきことは論をまちません。 防衛力の最大の基盤は、自衛官です。いかに装備品を整備しようとも、防衛力を発揮するためには、人的基盤を強化することが不可欠です。日本の独立と平和を守る自衛官の生活・勤務環境や処遇の改善に向け、総理大臣を長とする関係閣僚会議を設置し、その在り方を早急に検討し成案を得るものといたします。 先の大戦中、沖縄では、国内最大の地上戦が行われ、多くの県民が犠牲になられたこと、戦後27年間、米国の施政下に置かれたことなどを、私は決して忘れません。基地負担の軽減にも引き続き取り組みます。在日米軍の円滑な駐留のためには、地元を含む国民のご理解とご協力を得ることが不可欠です。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。また、いまだ全国最下位である1人当たり県民所得や、子どもの貧困の問題などの課題も存在します。沖縄振興の経済効果は十分に域内に波及しているのだろうか、そしてそれが、本当に実感していただけているのだろうか。沖縄の皆さまの思いに向き合い、沖縄経済を強化すべく支援を継続します。 (少子化対策)
少子化とその結果生じる人口減少は、国の根幹にかかわる課題、いわば「静かな有事」です。 今の子育て世代が幸せでなければ、少子化の克服はありません。子育て世帯の意見に十分に耳を傾け、今の子育て世帯に続く若者が増えるような子育て支援に全力を挙げます。こども未来戦略を着実に実施するとともに、社会の意識改革を含め、短時間勤務の活用や生活時間・睡眠時間を確保する勤務間インターバル制度の導入促進など、働き方改革を強力に推し進めます。さらに、少子化の原因を分析し、子育て世帯に寄り添った適切な対策を実施します。 少子化をめぐる状況は地域によって異なります。婚姻率が低い県は、人口減少率も高いことは厳然たる事実です。若年世代の人口移動を見ると、この10年間で全国33の道県で男性より女性の方が多く転出する状況となっています。若者・女性に選ばれる地方、多様性のある地域分散型社会をつくっていかねばなりません。それぞれの地域において、地方創生と表裏一体のものとして若者に選ばれる地域社会の構築に向け、全力で取り組んでまいります。 (経済・財政)
日本経済のデフレ脱却を確かなものとし、日本経済の未来を創り、日本経済を守り抜きます。その中で、「デフレ脱却」を最優先に実現するため、「経済あっての財政」との考え方に立った経済・財政運営を行い、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」を実現しつつ、財政状況の改善を進め、力強く発展する、危機に強靱(きょうじん)な経済・財政をつくっていきます。 イノベーションを促進すること等による高付加価値創出や生産性の向上、意欲ある高齢者が活躍できる社会を実現し、わが国のGDP(国内総生産)の5割超を占める個人消費を回復させ、消費と投資を最大化する成長型経済を実現します。 このため、コストカット型経済から高付加価値創出型経済へ移行しながら、持続可能なエネルギー政策を確立し、イノベーションとスタートアップ支援を強化していきます。また、経済安全保障の観点から、半導体等のサプライチェーン(供給網)の国内回帰を含む強靱化や技術流出対策等を進めます。あわせて、能動的サイバー防御の導入に向けた検討をさらに加速させるなど、サイバーセキュリティーの強化に取り組みます。柔軟な社会保障制度の再構築を実現するとともに、データに基づき財政支出を見直し、ワイズ・スペンディングを徹底していきます。 私は、国全体の経済成長のみならず、国民1人当たりのGDPの増加と、満足度、幸福度の向上を優先する経済の実現を目標とします。そのために、官民で総合的な「幸福度・満足度」の指標を策定・共有し、一人一人が豊かで幸せな社会の構築を目指します。

四 国民を守る

事務次官連絡会議に臨む石破首相=10月4日午前、首相官邸で(佐藤哲紀撮影)

(物価に負けない賃上げ)
日本の経済を守り、国民生活を守り抜きます。 生鮮食品、エネルギーなどの物価高に国民の皆さまは直面しておられます。物価上昇を上回る賃金上昇を定着させ、国民の皆さまに生活が確かに豊かになったとの思いを持っていただかなければなりません 日本経済がコストカット型の対応を続けてきた「失われた30年」とコロナ禍での苦難の3年間を乗り越え、経済状況は改善し、賃金もようやく上がるようになってきました。しかしながら、国民の皆さまに安心して消費をしていただける経済になるまでは道半ばです。 こうした中、賃上げと人手不足緩和の好循環に向けて、一人一人の生産性を上げ、付加価値を上げ、所得を上げ、物価上昇を上回る賃金の増加を実現してまいります。適切な価格転嫁と生産性向上支援により最低賃金を着実に引き上げ、2020年代に全国平均1500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続けます。そのために、政府として、自由に働き方を選択しても不公平にならない職場づくりを目指した個人のリスキリング(学び直し)など人への投資を強化し、事業者のデジタル環境整備も含め、将来の経済のパイを拡大する施策を集中的に強化します。 高付加価値のモノとサービスを、グローバル市場において、適正な価格で売ることのできる経済を実現します。輸出企業の競争力を強化し、中小企業を中心とする高付加価値化、労働分配率の向上、官民挙げての思い切った投資を実現します。 物価上昇を上回って、賃金が上昇し、設備投資が積極的に行われるといった成長と分配の好循環が確実に回り出すまでの間、足元で物価高に苦しむ方々への支援が必要です。こうした物価高への対応に加えて、成長分野に官民を挙げての思い切った投資を行い、「賃上げと投資がけん引する成長型経済」の実現を図るため、経済対策を早急に策定し、その実現に取り組みます。当面の対応として、物価高の影響を特に受ける低所得者世帯への支援や、地域の実情に応じたきめ細かい対応を行うこと、構造的な対応としてのエネルギーコスト上昇に強い社会の実現など「物価高の克服」。新たな地方創生施策の展開、中堅・中小企業の賃上げ環境整備、成長力に資する国内投資促進など「日本経済・地方経済の成長」。能登半島をはじめとする自然災害からの復旧・復興、防災・減災、国土強靱化の推進、外交・安全保障環境の変化への対応、誰も取り残さない社会の実現、など「国民の安心・安全の確保」、を柱とします。 (エネルギー)
エネルギーの安定的な供給と安全の確保は喫緊の課題です。AI時代の電力需要の激増も踏まえつつ、脱炭素化を進めながらエネルギー自給率を抜本的に高めるため、省エネルギーを徹底し、安全を大前提とした原子力発電の利活用、国内資源の探査と実用化と併せ、わが国が高い潜在力を持つ地熱など再生可能エネルギーの最適なエネルギーミックスを実現し、日本経済をエネルギー制約から守り抜きます。このため、GX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みを加速させ、アジア諸国の多様な取り組みを日本の技術力や金融力で支援し、同時に、アジアの成長力をわが国に取り込んでいきます。 (イノベーションとスタートアップ支援)
日本経済の活性化と成長を加速させるため、科学技術・イノベーション、宇宙などフロンティアの開拓を推進するとともに、スタートアップ支援策を引き続き強化していきます。政府の「スタートアップ育成5カ年計画」を着実に進め、アジア最大のスタートアップハブを実現します。AIの研究開発・実装がしやすい環境をさらに充実し、政府のAI政策の司令塔機能を強化します。 (「投資大国」の実現)
経済活動の基盤である金融資本市場の変革にも取り組みます。貯蓄から投資への流れを着実なものとし、国民の資産形成を後押しする「資産運用立国」の政策を引き継ぐとともに、産業に思い切った投資が行われる「投資大国」に向けた施策を講じます。 (社会保障)
社会保障制度は、さまざまな境遇にある国民の方々に安心を提供するセーフティーネットです。将来不安を取り除き、皆が安心して充実して暮らせる、こうした日本を実現することによって未来を守り、次の時代に負担を先送りしない。それが今を生きるわれわれの責任です。 医療・年金・子育て・介護など、社会保障全般を見直し、国民の皆さまに安心していただける社会保障制度を確立します。その際、今の時代にあった社会保障へと転換し、多様な人生の在り方、多様な人生の選択肢を実現できる柔軟な制度設計を行います。人口減少時代を踏まえ、意欲のある高齢者、女性、障害者などの就労を促進し、誰もが年齢にかかわらず能力や個性を最大限生かせる社会を目指します。 (良好な治安の確保)
子ども、女性、高齢者をはじめ、全ての方々が安心して暮らせるよう犯罪対策を推進し、「世界一安全な日本」を実現します。 (防災、東日本大震災からの復興)
度重なる災害から、国民の生命、身体と財産を守り抜きます。 コロナ禍の最中は、ふるさとに戻ることすらできませんでした。やっと里帰りができるようになり、皆が待ちわびていた家族のだんらんが、能登半島では、今年の元日、地震により一瞬にして奪われました。亡くなられた方々に哀悼の誠をささげるとともに、被災されている方々に心よりお見舞いを申し上げます。その後さらに能登半島地震の被災地を豪雨が襲い、河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、多くの尊い人命が失われました。度重なる被災の前の活気ある能登を取り戻すため、復旧と創造的復興に向けた取り組みを一層加速してまいります。 世界有数の災害発生国である、この日本において、近年のさらなる風水害の頻発化・激甚化に早急に対処できる人命最優先の防災立国を構築しなければなりません。防災・減災、国土強靱化の取り組みを推進します。事前防災の徹底に向けて、まず、現在の内閣府防災担当の機能を予算・人員の両面において抜本的に強化するとともに、平時から不断に万全の備えを行うため、専任の大臣を置く防災庁の設置に向けた準備を進めてまいります。 日本では、ひとたび災害が起きると、被災者の方々は避難所で厳しい生活を強いられます。平成28年に起きた熊本地震では、直接亡くなられた方々の4倍もの方々が、避難生活の中で健康を崩されるなどして、災害関連死として亡くなられています。被災して大きな悲しみや不安を抱えている方々に手を差し伸べ、温かい食事や安心できる居住環境を提供することが必要です。災害関連死ゼロを実現すべく、避難所の満たすべき基準を定めたスフィア基準も踏まえつつ避難所の在り方を見直し、発災後速やかにトイレ、キッチンカー、ベッド・風呂を配備しうる平時からの官民連携体制を構築します。 福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生はありません。被災者の生活や、産業・生業の再建に全力で取り組んでまいります。一部の国・地域による日本産水産物の輸入停止に対し、岸田政権での取り組みを生かし、あらゆる機会をとらえて即時撤廃を強く求めるとともに、影響を受ける水産物の国内需要の拡大や新たな輸出先の開拓など、わが国水産業のさらなる発展のために、政府として責任を持って支援を行ってまいります。

五 地方を守る

閣議に臨む石破首相。左は村上誠一郎総務相、右は中谷元・防衛相=10月4日午前、首相官邸で(佐藤哲紀撮影)

地方創生)
地方創生の原点に立ち返り、地方を守り抜きます。10年前に私は初代地方創生担当大臣を拝命し、文化庁の京都移転、それまでの補助金とは一線を画する地方創生推進交付金の創設をはじめ、一生懸命取り組みました。以来、交付金などを活用し、住民の方々が気持ちを一つにして地方創生の取り組みに頑張っていらっしゃる姿を全国各地にたくさん見てまいりました。そして、その姿に勇気づけられてまいりました。 竹下(登)総理はかつて、「地域が自主性と責任を持って、おのおのの知恵と情熱を生かし、小さな村も大きな町もこぞって、地域づくりをみずから考え、みずから実践していく」と述べられました。「産官学金労言」、すなわち、産業界、行政機関、大学だけでなく中学校・高等学校も含めた教育機関、金融機関、労働者の皆さま、報道機関の皆さま。こうした地域の多様なステークホルダーが知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出し、都市に住む人も地方に住む人も、すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会。それが地方創生の精神です。いま一度、地方に雇用と所得、そして、都市に安心と安全を生み出します。 「地方こそ成長の主役」です。地方創生をめぐる、これまでの成果と反省を生かし、地方創生2・0として再起動させます。 全国各地の取り組みを一層強力に支援するため、地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増することを目指します。 少子高齢化や人口減少に対応するため、デジタル田園都市国家構想実現会議を発展させ、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間集中的に取り組む基本構想を策定します。ブロックチェーンなどの新技術やインバウンドの大きな流れなどの効果的な活用も視野に入れ、国民の生活を守りながら、地方創生を実現してまいります。 地方の成長の根幹である農林水産業は、農山漁村の雇用と所得を生み出すとともに、国家の安全保障の一環でもあることから、その持てる力を最大限引き出してまいります。新たな基本法の下、最初の5年間に計画的かつ集中した施策を講じることにより、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、農林水産業の持続的な発展、中山間地域をはじめとする農山漁村の振興を図ります。国内の生産基盤の維持の観点も踏まえ、農林水産物の輸出をより一層促進します。持続可能な食品産業への転換を促進し、循環型林業など強い林業づくりや、海洋環境の変化を踏まえた操業形態や養殖業への転換、海業の全国展開など漁業・水産業の活性化に取り組みます。 観光産業の高付加価値化を推進するとともに、文化芸術立国に向けた地域の文化、芸術への支援強化にも取り組みます。地域交通は地方創生の基盤です。全国で「交通空白」の解消に向け、移動の足の確保を強力に進めます。 地方創生に終わりはありません。「地域づくりは人づくり」。人材育成こそ全てです。私が先頭に立って、国・地方・国民が一丸となって地方創生に永続的に取り組む機運を高めてまいります。 (大阪・関西万博)
2025年大阪・関西万博は、世界と交流を深め、日本の魅力を世界に向けて発信する絶好の機会です。多くの方に来場いただき、楽しみ、そしてそれぞれの将来に夢と希望を持ってもらう、またとない機会です。成功に向け関係者と心を合わせて取り組んでまいります。

六 若者・女性の機会を守る

若者・女性、それぞれの方々の幸せ、そして人権が守られる社会にしていかなければなりません。 (教育改革)
「人づくりこそ国づくり」。この考え方のもと、デジタル技術の活用を前提に、自ら考え、自由に人生を設計することができる能力の育成を目指します。あらゆる人が、最適な教育を受けられる社会を実現します。教職員の処遇見直しを通じた公教育の再生に全力を挙げます。 強靱で持続性ある「稼げる日本」の再構築のためには、教育やリスキリングなどの人的資源への最大限の投資が不可欠です。人生のあらゆる局面で何度でも必要な学びが得られる体制を整備します。 (女性活躍と女性参画)
意思決定の在り方を劇的に変えていくため、社会のあらゆる組織の意思決定に女性が参画することを官民の目標とし、達成への指針を定め、計画的に取り組みます。男女間の賃金格差の是正は、引き続き喫緊の課題です。多くの女性に社会活動を長く続けてもらえるにはどうすればよいか、国民的議論を主導して制度改革を実現します。 (自殺対策)
コロナ禍で増加した女性の自殺者数が高止まりし、子ども・若者の自殺者数が増加傾向にあることを踏まえ、自殺総合対策を強力に進めます。

七 おわりに

衆院本会議で所信表明演説の臨む石破首相=10月4日午後(佐藤哲紀撮影)

(憲法改正)
憲法改正について、私が総理に在任している間に発議を実現していただくべく、今後、憲法審査会において、与野党の枠を超え、建設的な議論を行い、国民的な議論を積極的に深めていただくことを期待します。 日本にとって、皇位の安定的な継承等は極めて重要なことです。とりわけ皇族数の確保は喫緊の課題です。国会において、早期に「立法府の総意」が取りまとめられるよう、積極的な議論が行われることを期待します。 (納得と共感の政治)
私は、議員になる1年前の昭和60年、渡辺美智雄代議士の、「政治家の仕事は勇気と真心をもって真実を語ることだ」との言葉に大きな感銘を受けました。爾来(じらい)40年、こうありたいと思い続け、今、この壇上に立っております。政治を信じていただいている国民の皆さまが、決して多くないことを私は承知しております。しかし、政治は国民を信じているのでしょうか。どうせ分かってはもらえない、そのうち忘れてしまうだろうなどと思ってはいないでしょうか。国民を信じない政治が、国民の皆さまに信じていただけるわけがありません。勇気と真心をもって真実を語り、国民の皆さまの納得と共感を得られる政治を実践することにより、政治に対する信頼を取り戻し、日本の未来を創り、日本の未来を守り抜く決意です。 以上、私の思いを申し述べました。 かつての日本は、今ほど豊かではなかったかもしれません。しかし、もっとお互いを思いやる社会でした。皆に笑顔がありました。いつの間にか、日本はお互いが足を引っ張ったり、悪口を言い合ったりするような社会になってしまったのではないでしょうか。私は、もう一度、全ての国民の皆さまに笑顔を取り戻したい。 「すべての人に安心と安全を」 国民の皆さま、ならびに、この場に集う全国民を代表される国会議員の皆さまのご理解とご協力をお願い申し上げます。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。